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掌編、短編小説広場

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此処に集いし「物語」はジャンルの無い「掌編小説」と「短編小説」。広場の主は「いち」時々「黄色いくまと白いくま」。チケットは不要。全席自由席です。あなたに寄り添う物語をお届けしたい… もっと読む
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2020年12月の記事一覧

掌編「いちさんの生態・アルデンテ」

 世界の皆様今晩は。黄色いくまと、白いくまです。いちさんが大好きなTEAPONDの紅茶で一息入れている隙に、又パソコンをジャックしてみました。表題の「アルデンテ」に、特に意味はありません。いちさんが何かと言うと漢数字を付けたがるので、僕らは反対にいちさんの苦手な横文字で対抗してみようと思って付けました!どうですか、お洒落でしょう。  前回投稿後に、僕らの悪戯は見つかったわけですが、ぺこりと頭を下げて許してもらいました。可愛いからいいんだって。良かった。今日はそんないちさんの

短編「サンタクロースの言い分」

 十二月がやって来た。年々軋みの酷くなる床板を踏みしめる度、寒さが身に染みる。私の自室には暖房が無い。いや、正確には在るのだけれど、もう何十年も使っていない。妻が、「エアコン使うの止めよう」って言ったから。今はカミツレの並んだ淡いブルーの生地で作った妻お手製のカバーで覆われている。冷え切った室内は、まるで銀製のナイフで空気を滑らかにのばしたようで、そんな朝に身を起こすのが、私には一番億劫な瞬間である。ふかふかの羽毛をいっぱいに詰めて作られた布団の中へ、いつまでも包まれていられ

掌編「冷たい日のお昼時、陽射しに背中を預けたい」

 僕の数日を振り返ったところで、誰も幸せな気持ちにはなれないだろう、そんな数日を過ごした。望んだわけじゃ無いから、過ごしたというは不当で、過ごさざるを得なかったというのが当たってるんだ。  それでも週が明けて、僕は職場へ通い続けている。仕事は嫌いじゃない。仕事と割り切って働くという気持ちも心の中には少しくらい在るが、本当に少しだけ。それよりも、対人で成り立つ僕らの仕事は、相手への感謝の気持ちとか、思い遣りとか、敬意とか、そう云う物が真実存在しなければ、見抜かれる。侮るのは簡

短編「私の運転人生と家族の物語」

 私の家庭における役割は、車の運転手だと、自分でも思っている。  高卒で免許を取って、バイクにもよく乗ったし、家族が出来てからは、憧れのカローラのハンドルを握り締めて、あちらこちらへ遊びに出かけた。妻も、一人ずつ増えていく子どもたちも、私の運転の「おでかけ」が大好きであった。  三人目が産まれた時、私はカローラに別れを告げることにした。この先も、どうやら私の家族は増えるような、そんな気がしたのだ。そして、私の予想は当たった。妻は小柄ながらも健康そのもので、丈夫な子どもを次