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#1 弾き語り自転車日本一周の記憶=12

「2014年~2015年にかけて弾き語りしながら自転車で日本を周った。」プロフィールを作るときに必ず書く実績の一つだ。

日本一周を決めた理由

約10年間、ほとんど音楽活動をしなかった時期がある。その10年間についてはまた別の機会に触れていくね。
20代後半、その頃の僕は仕事をかけもちしていた。ネット関係の仕事と、子どもが好きだったので学童保育のアルバイトだ。当時はお金の返済も溜まっていて、仕事をして帰宅し生活に追われる日々。生活に束縛され、自分の心の中に大量に蓄積された10年分の自由への憧れが溢れまくっていた。
そして30歳手前のある日、自由は突然やってきた。今しかない!
気づいたら旅の準備を始めていた。改めて理由を考えると「ただ、どこか遠くに行きたい。」それだけだったかもしれないな。
みんなもきっとあるでしょ?

「どこか遠くにいきたい。」って思う事。

ちなみに、当時は理由を聞かれたとき、旅する自分に酔っているもんだから「本当の世の中をこの目で見てみたい」なんてちょっと恥ずかしい事を言ってた気がする。笑

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日本一周で得たもの

旅をしていると、色々な経験をさせてもらえる。縛るものがなにもない開放感。常に外にいるから五感が研ぎ澄まされていく感覚。幽霊なんて信じてなかったのに心霊体験は何度もしたし、テントを張っていたら夜中に変なおじさんに襲われそうになったり、旅友達が出来たり、恋しちゃったり、独り言増えたり、訳もわからず泣いちゃったり。とにかく全部書こうとしたら何年かかるかわからない。ライブでもよく話している経験談、2つほど抜粋しようと思う。

旅で得たもの、与えてくれたのはやっぱり「人」だった。本当にたくさんの人に助けてもらった。そして、その人達の言葉に気づかされ、背中を押されてきた。

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1.茨城県常総市で出会ったお婆ちゃん

2015年9月茨城県常総市。その頃、豪雨が原因で鬼怒川の堤防が決壊。濁流が住宅街を襲った。北海道から南下しゴールである東京を目指していた僕は、急遽この災害ボランティアに参加した。

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ボランティアはチームに別れて被害に遭った家の泥のかき出しと家財撤去をすることになった。作業2日目、僕等のチームは田畑に囲まれた一軒家へ向かう。そこには老夫婦が生活していた。一階部分は泥まみれ、何が必要で何が不要かは全部外に出してから決めるとのこと。僕等は少しでもこの夫婦の力になれればと、必死に作業にあたっていた。
昼休憩。僕らはボランティアなので自分の昼食は用意していたが、そこに暮らしているお婆ちゃんが「これ食べなさい」と支給されたパンやおにぎり、ジュースなどを沢山持ってきてくれた。

「いっぱいもらったんだけど、食べきれないから食べて食べて。若いもんは食べなきゃね。」

とても明るい笑顔で話しかけてくれた。お話が好きなお婆ちゃんだった。僕らの事を気遣ってくれて、何度も「来てくれてありがとう。」と何度もあたまを下げてくれて、なんだか照れくさかった。そんなときお婆ちゃんがつぶやく。

「長い事生きていれば、辛い事、悲しい事はあたりまえにやってくるもんだよ。色んなものが壊れちゃったけど、命はまだ壊れてない。命があるって事に感謝しなきゃいけないよ。命があるだけで本当にありがたいね。ハッハッハー。」

お婆ちゃんは心から笑ってるように見えた。

「みんな若いから、これだけは言っておくけど、これからどんなに辛い事があっても、負けちゃだめだよ。勝てなくても負けちゃだめだよ。絶対に勝てなくても、負けちゃだめだからね。

半壊した自分の家を目の前にして、なぜこんなに強い言葉が言えるんだろう。この言葉がずっとずーっと頭が離れないでいた。絶対勝てないと分かっていても、立ち向かい続ける事、自分に負けない事なんだなって。

勝てなくても負けちゃだめだよ。

深い言葉だ。今でも手ぬぐいを頭に巻いて自宅を見ながらつぶやいたお婆ちゃんの真っすぐな瞳が忘れられない。

ボランティアで助けたいって思ったのに、逆に背中を押されてしまった。

「誰かを助けたい」「誰かの為に」って難しい。思いやりは時に傲慢になりうる。それでも、誰かの為になりたいと思う気持ちやメッセージは絶対に捨ててはいけないと思うんだよね。

誰かを想わずに心は動かない。言葉は生まれない。
誰かを想わずに愛は歌えない。

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ボランティア中のテント泊

2.大分県別府駅で出会ったお爺さん

お婆ちゃんの次はお爺さんの話。僕のライブに来た事がある人にはおなじみだろうけど「別府駅の爺さん」

2015年4月1日。沖縄に長期滞在していた僕は本州へ戻り、自転車を走らせ大分県の別府駅にやってきた。

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別府駅にはロータリーがあり、小さな下り坂がある。その道沿いにあるお弁当屋さんでとり天弁当を食べ終え、自転車を走らせようとしたとき、ジャージ姿の背丈の小さいお爺さんが声をかけてきた。

「お前、どっから来たんだ!そんな汚い格好して。別府は風呂が有名だからどこでも入れるぞ。温泉は入ったか?」

鹿児島、宮崎、大分と走って来たんだけど、確か4日近くお風呂には入ってなかった気がする。旅中は公園の水道水で頭を洗ったり、ボディシートで身体を拭いたりしていて、別府の温泉に入るためにお風呂は我慢していた。

「弾き語りしながら自転車で日本一周してるんですよー。」なんて伝えると、お爺さんは本当に目をまるくして驚いてくれた。あの時のリアクションはバラエティー番組ならばきっと100点のリアクションだろう。

「あー!?自転車で日本一周!?お前、相当バカだな。ハッハッハー。」

旅の経緯や、沖縄で越冬したこと、これから北海道に向けて走る事など色々話をした。そうしてるうちにお爺さんは自分の話をしてくれた。

「何年もトライアスロンやってんだけどよ。ついこの間胃袋をとる手術してな。全然食えねーんだよ。でも食わないと体力は減る一方だろ?だから無理して食うんだけど、食べては吐いての繰り返しで、こんなに細くなっちまんだ。」

話を聞くと、お爺さんは手術をしたばかりで、本当は入院してなきゃいけないのに病院が嫌いで抜け出してきたらしい。なんというクレイジー爺さん。と思ったけど、うちの父親に近いものを感じた。トライアスロンをしていたというお爺さん。とにかく体力が落ちるのが嫌らしく、無理にでもトレーニングをしていたそうだ。

「2年後にどうしても出たいマラソン大会があってな、今もトレーニングしてたんだよ。」

「手術したばかりでトレーニングって大丈夫なんですか?」と心配すると。俺もバカだからよ!と笑っていた。やっぱりこの人、クレイ爺さんだ。

なんとなくお互いに“そろそろ行くか”の雰囲気が流れた。「話してくれてありがとうございます。」多分、そんなようなことを僕が言ったと思う。お爺さんは僕の目を見て言ってくれた。

「実は末期っていわれててよー。腹立つよな。賞味期限のある牛乳じゃねーんだからよ。色々無茶してきてるから仕方ねーけどな。でもな、大くん。2年後のマラソン大会は俺は絶対出るって決めてんだ。弱い自分には負けたくねーんだよな。だからよー…」

力強く手を差し伸べてきたので、僕は右手を差し出した。

お爺さんは僕の手をギュッと握りしめた。ただの握手。人の手を握る、触れるという行為は、もしかしたら第六感的に自分のエネルギーを相手に伝える術なのかもしれない。細く頼りない指、血色は悪くて貧弱なのに、あの時の握手の感覚はものすごく力強いものとして右手に残っている。そのときのお爺さんの真直ぐに見つめる目が忘れられない。道中に遭遇した鹿の様な、生と死に必死に向き合い続ける野性的、本能的な眼差しは、なぜか僕の涙を誘った。もちろん流さない。このお爺さんには悟られたくなかった。これを書いている今も思い出して泣いてしまいそうだ。笑

僕はそんなお爺さんの名前を知りたかった。でもお爺さんは

「名乗るものでもねーよ!」

といって教えてくれなかった。ならばせっかくだから一緒に写真撮りましょう!と伝えたら

「写真なんてそんな柄じゃねーんだけどな!」

なんて言っていたくせに、すごい笑顔で写ってくれた。別れ際にお爺さんは、手をもう一度握りながら、

「人生は挑戦だぞ。お前も絶対自分に負けるなよ。どんな事があっても自分にだけは負けるなよ。俺も負けないけどな!だから、約束な!若者よ!頑張れよ!じゃあな!」

お爺さんはその言葉を伝えてくれたとき、目に浮かぶ涙を僕はみた。お爺さんもそれに気づいたのか、初めて目を逸らし、帽子を深々と押し込んで、一切振り返る事なく別府の街へ消えて行った。あの日の背中が本当にたくましかった。

あれから6年。自信を失くしてしまいそうになる事もあったし、スランプもあった。けれど爺さんの言葉と与えてくれたエネルギーで、僕はまだまだ自分に負けずに頑張れています。お爺さんは、マラソン大会に出られたでしょうか?いつか必ず会える。そんな気がします。

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別府駅の爺さんと
(一応目は隠しておきます)


この出会いは「別府駅の爺さんへ」という僕の楽曲になっている。

『明日という日があなたにとって素敵な一日になりますように。』

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