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黄色の反発

感情を抑えたいとき、敬語で話したくなります。今がそれです。

それはピアノの演奏にも表れます。

自分を律しようと、制御しようとする結果、こじんまりとした演奏になるのです。私が人前で奏でる音楽は「敬語だなあ」と、よく思います。

体育の日は晴れが多い。

以前、そう聞きました。そう聞いたのが確か2年前。聞いたその年は晴天でした。夜空が、少し冷たい空気に澄んで月がとても大きかった。金木犀の香りもしていた気がする。

次の年も、晴天とは言えずとも天気が良かったように思います。とてもいい夜でした。今年は残念ながら確かめられません。体育の日は夏にあったので、例外の秋です。でもいつも通りなら、10月10日の日曜日、今週末が気持ちのいい天気の1日に当たるのではと思います。どうなるか、今から楽しみです。

今日は、歩く足がとても重たかった。夜の時間が解放された東京に、嫌気がしたのかもしれません。それだけじゃない、他にも要因はあります。朝からずっと、何かにとても反発したい気分なのです。

メンヘラって言うな。

ふと、突然泣きたくなる時があるでしょうか?

私はあります。でも言いません。精神が不安定と思われるのが嫌だからです。

一番イヤなのは、こうした複雑な心情にたった一言、「メンヘラ」と名前を付ける人です。

理由がはっきりしない涙ほど、繊細な感情があるでしょうか?言語化さえ難しいのに、それに名前を付けるなんて誰も救われません。

言われた側は、心の内を相手にさらけ出す機会を潰されますし、言う側だって、相手の信頼をドブに捨てたところで得るものは何もありません。

ここまで言えてしまうのは、私のプライドが傷つくからなのだと思います。よっぽど、強がりたいんだと今、自覚しています。

でも確かに、突然の涙は私の場合、ネガティヴな色が多いです。だからこそ余計に、悟られたくありません。

どうして、本心を打ち明けられないのでしょうか。

言えないこと。

「言えたらいいのに。」

呑み込んだ言葉たち。毎日毎日呑み込んでいます。伝えられたらどんなに救われるかと、毎日思います。でも、言えません。この気持ちを言葉にすれば、自分を許せないと思います。

緊急事態宣言が解除され、最初の日曜ということもあり居酒屋は賑わっていました。それを横目に、私の歩調はどんどんペースが落ちていきました。ルールに縛られルールに解放される。そうやって世の中は、帳尻を合わせつつうまい具合に回っているのだと感じました。道理、理性、義理、いろいろな物事に翻弄される事実があちこちで視界に入り、うんざりしました。悔しいとも思いました。

正義感、というのは本心を殺すには充分な材料です。

正義の尺度は人それぞれですが、私は「私を好きでいられるか」が正義と結びついています。

例えばですが、ある時、杖をついたおばあさんが視界の端で尻餅をつくのを見ました。でも私はそのとき、人を待たせておりとても急いでいました。一瞬の出来事で、おばあさんに気が付いたのは私だけだったように思えます。それなのに、瞬時にコロナの事が頭をよぎり、手を差し伸べる勇気が消え失せました。外で自分の手を汚した直後だったのです。急いでいたこともあり、素通りした直後にとても後悔しました。そして、こんな自分が嫌いだと心底思いました。

これが、私の正義です。この日私は自分の正義を全う出来ませんでした。しばらく罪悪感に苛まれました。こんな思いはしたくありません。

正義のために本心を殺すというのは、自分の欲求よりも、自分を嫌いになることの方がイヤだという事です。

そうして殺された言葉が、今日は溢れてしまったのだと思います。感情のコントロールを学び多くの言葉を操れるようになっていく程、そうした事は増えていくのかもしれません。

残念ながら、今も文字にしながら、多少ネガティヴな感情を吐き出している自分を「ダサいなあ」と思ってしまっています。

言葉は伝えるためにあるのに。誰かに自分の愚痴を聞いてもらうのも、SNSに発信するのも苦手です。多分、そんな自分が嫌いなのです。

でもそうしている内に、本心をさらけ出す、自然体で居る方法を忘れてしまうのではないかと、不安になりました。言葉は誰かに見てもらうためにあるのだと、自分を説得したいと思いました。

自分の本心と、正義感が反対を向いている状況に、耐えられそうにありません。気持ちの矛盾に引き裂かれそうです。

現に、今、自分の感情を打ち出す方法が分からずにいて、涙がふっと湧き出るのです。

「あの人よく分からないな」は、本当のことを隠している時に思うのだそうです。

金木犀の香りが、思い出させるのかもしれない。あるいは、大きな月と秋の澄んだ空が、抑え込んだ思いに素直に向き合いたい気持ちにさせるのかもしれない。


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