見出し画像

ミニスカートで過ごす休日

公共の場所で読書は向いていない。

周りの女性たちの会話が面白くて、読書でひとりの世界に籠るのは勿体無い。

ストーカーに悩む女性。花柄ワンピにGジャン。白のパンプスに膝にはスカーフが丁寧に置かれている。髪の毛は綺麗にまとめあげられ、相手の話に共感するたびに耳元のキラキラが揺れる。話題の中心であるストーカーは、彼女の上司。1日に何本もの不在着信。食事に誘われいくと必ず奢ってくれるからいく。「え〜行ってあげてるの!」と向かいに座る同僚女性。被害者は満更でもなさそうだ。

ワークなライフと女性。

久しぶりにストッキングを履いた。気分が上がる。ストッキングは、ランジェリーより女性らしいアイテムだと勝手に思っている。

高校生の時、洋服店の全身鏡に自分のふくらはぎがボコッとするのをみた。低身長に生まれた割にスタイルはいい方だと思うが、自己肯定感や自信というものは大人になるにつれ、抵抗しない限りは擦り減るもの。猫が自分のしっぽの存在を初めて見つけた時のような発見と驚き。それ以来、ミニスカートに憧れ買いはするものの、活躍することは滅多になくなった。

しかし、実家で一緒に住む猫たちはしっぽで器用に自分の手を温め、丁寧に毛繕いをするし、自分のしっぽを愛している。私は自分の脚を愛せていない。

「うわあ、きも」
同僚女性が被害者女性に同情する。

「まあでも、そういうの、よくある事だし。」
なんと、被害者女性は過去にも何度か似たような事件に巻き込まれているらしい。不運な人生だ。

女性が多い職場だとこういう会話、普通なのかな。さっき写真に収めていた、テーブルの上のケーキとカフェラテ。写真を載せるSNSには、会社の同僚やストーカー上司もフォロワーなのだろうか。それとも、会社とは別のネットワークがちゃんとあって、親しい誰かに向け発信するのかな。

休日の昼間に友人と会い、職場の話をする。近年、街のどこにいても耳にする言葉「ライフワークバランス」を思い出した。この言葉が意味する「バランス」がどういうものか結局曖昧に過ごしているが、ワークはライフの中の一部であって欲しいといつも考える。

被害者女性のワークは、被害に遭いながらも充実しているんだなと、表情や声から伝わってくる。この女性のようになりたいとは思わないが、属する組織があって、誰かに求められ自己肯定感もそこそこ保っている生き方が羨ましいと思う。相手はストーカーだけど。

彼女たちの会話の続きを聞きたかったが、こちらはひとりで来ていて会話する相手がいない。当然、コーヒーがなくなるスピードは彼女たちより速くて、仕方なくお店をあとにした。

場所を移して、今度こそ読書に最適なカフェを選ぶ。ここもまた人気店で人は多いが、皆静かに読書や作業をして過ごし、コーヒーはタリーズの次に美味しい。私の中でタリーズコーヒーは一番のお気に入りなので、褒め言葉だ。

離れたお隣さんは、金髪ショートヘアのお姉さん。既に食べ終えた大きなパフェの容器を脇にどけ、Macから目を離さないままホットドックを新しく注文している。

私はトマトソースのパスタと、ブレンドコーヒーを注文した。

「出来上がった順からお持ちしてよろしいですか?」

しまった。間髪入れずつい勢いで「はい」と言ってしまった。こういう場所では2回に分けて注文し、コーヒーを食後に飲みたかった。「コーヒーは食後にお願いします」と言えばいいだけだが、レストランじゃあるまいし。人も多く滞在時間もそれぞれ長いだろうに、面倒臭い客だと思われたくなくて言えなかった。次回はよく考えてから店員を呼ぼう。

買ったばかりの本に、しおりがない事を確認。こういう時にお財布に入れっぱなしの映画の半券が役に立つ。最近話題の映画『花束みたいな恋をした』では、麦くんと絹ちゃんが映画の半券を本のしおりにしている事で盛り上がるシーンがあった。私もそこに同席して一緒に喜び合いたかった。

「いただきます。」

ひとりで居ても「いただきます」を欠かさないおじさんを子どもの頃ラーメン屋で見た。そんな丁寧なおじさんがカッコいいと思い、ひとりの時も小声で「いただきます」を言うようにしている。

そんな私に、いつか誰かが憧れてくれないかなと密かに考えている。

そうすれば私も猫のしっぽのように、自分の脚を愛せるようになるのかなって。お店のガラスに映る、ミニスカートの自分の脚を見て考えた。自己肯定感、承認欲求、女性らしさ。時代は移り変われどどれも同じ結論に辿り行きついている気がして。

トマトパスタをさっさと平らげ冷めたコーヒーを飲み干した。女性らしく振舞いチヤホヤされても、きっと私は満足できない。認められるのがミニスカートか、ストッキングなのはいやだ。だから今私は、先ほどの女性たちのようなワークなライフに属していないのかもしれない。

いくら住む場所を変えども、隣の芝生はいつだって青い。

明日はデニムで過ごそうかな。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?