幼なじみ・海堂美沙の証言 【小説】どの顔もあの女#11

 つらいです。真矢ちゃんが殺されたなんて……。地元が同じで、小・中と同じ学校に通ってました。高校も大学も別々で、私は地元に残って離れ離れになったんですけど、大学の卒業旅行はなぜか一緒にいきましたね。私が東京へ行って、しばらく真矢ちゃん家に泊めてもらって東京散策を楽しんだ後、羽田から台湾に行きました。女ふたり旅って喧嘩しやすいっていいますよね。でも、真矢ちゃんとの旅は快適さしかなくて、喧嘩なんてまったくしなかったです。幼なじみだから心地よかったのかな。
 小・中時代の真矢ちゃんの印象ですか? 勉強ができる、頭がいい、賢い、ってイメージが強かったですね。真面目な子だったと思います。でも堅物というわけじゃなくて、私と一緒にいるときは普通に面白いことも言うし、よく笑うし、楽しかった。
 中学に入ってからは、見た目に気を配るようになってましたね。体型を気にしてて、度々「美沙ちゃんは細くていいな。お母さんも細いでしょ? うちは家系的に太ってるから」と言われました。確かに私は太りにくいですし、親もふたりとも細身です。脚や腕、顔など人目に触れるパーツは細いんです。だから真矢ちゃんに羨ましがられました。
 真矢ちゃんは決して太っていたとは思いません。ただ、骨太でゴツめというか。あと、丸顔だったので少しでも体重が増えると、太って見えやすいタイプなんですよね。それを異様に気にして、夜食べないダイエットとか、縄跳びとかランニングとか、とにかくがんばっていたみたいです。

 モテたかどうか? いや、モテてはいなかったと思います。私が言うのもあれですけど、地元にいたときの真矢ちゃんは、がんばっていたけど可愛くはなかったんです。どちらかと言うと地味。私も派手なタイプじゃないし、どちらかというと地味なので、そんなこと言うのも申し訳ないですけど。
 小3のときだったかな。初めて同じクラスになったとき、真矢ちゃんが男子に泣かされていたのを覚えています。冬にしもやけになって、手の甲がところどころ赤く腫れ上がって、カサカサになってたんですね。それをクラスで威張っている男子から、「高梨の手、腐っとるで。気持ちわりぃ」と名指しで言われて、俯いて泣いていました。周りの女子たちは、「アンタ、真矢泣かすなや」と怒っていましたね。私もそのひとりでした。その男子のことが嫌いだったので、みんなで怒りをぶつけにいきました。はい、とくに真矢ちゃんがいじめに遭っていたとかではなく、そういう意地の悪い男子がいた、というだけです。

 真矢ちゃんが変わったのは、大学に入ってからです。大学1年の冬にmixiを始めて真矢ちゃんと「友達」になって、真矢ちゃんの日記を読むようになってから、「あれ、すごい綺麗になってる?」とびっくりしたんですよね。
 よく写真付きの日記を投稿していて、ときどき自分の写真もあげていたんです。その写真が高校時代までの真矢ちゃんとは別人で。真矢ちゃんって一重だったんですよ。中3からずっとアイプチをしていましたが、アイプチの糊が肌質に合わないみたいで、よく目が腫れ上がっていました。そういうときはさすがにアイプチをやめて、一重のまま学校に来ていました。本当に腫れぼったい一重まぶただったんです。
 それがいきなりくっきりした二重になっていて、アイプチが上手くなったなと当時は思っていたんです。でも、大学2年のときに真矢ちゃんが地元に帰ってきて、2年ぶりに会ったときに確信しました。整形した、と。
 伏し目がちになると変な線ができるんです。濃いアイシャドウを塗ると、線は目立ちます。自然の二重の人とは違って、手術のときに切った線みたいなのが浮き上がるんです。でも、普通にしていると、ぱっちりした目の可愛い女の子に見えて。もちろん「整形した?」なんて言いませんが、ただひたすら衝撃を受けました。私はもともと二重なので、整形する必要はないんですけど、明らかな変化は羨ましくもありました。

 22歳のときに卒業旅行に行ってからは、8年くらい会うことはありませんでした。mixiもいつのころからかログインしなくなりましたし、私は私で地元のメーカーに勤めて、それなりに忙しく働いていたんです。
 最後に会ったのは3年前、東京に行ったときでした。ちょうど転職のタイミングで、長い休みができたので、久しぶりに都会に行きたいなって。真矢ちゃんの携帯メールアドレスは変わっていましたし、mixiもログインしていなさそうだったので、真矢ちゃんと連絡をとるためにFacebookアカウントを作ったんです。地元の友達に真矢ちゃんの名前で検索してもらうと、真矢、Facebookしてるみたい、ということだったので。
 真矢ちゃんからにメッセージを送ると、すぐに返信が来ました。「美沙、嬉しい! 会いたい!」と言われて、銀座で夜ごはんを食べました。8年ぶりなのにそんなに時間が空いたことを感じさせないくらい、真矢ちゃんと過ごす時間は楽しかったです。
 大学生のときより、痩せて綺麗になってました。目は自然なくっきり二重になっていて、鼻もちょっと変わってたかも。たぶんいじったんでしょうね。8年会わなかった間に、いろいろな恋愛をして、結婚も離婚も経験していて、なんだか置いていかれたなという感じはしましたね。私は恋愛はしてきたけど、結婚もしてないし、当時、彼氏とも別れて1年くらい経っていたので、真矢ちゃんが輝いて見えました。

 LINEを交換して別れ、ときどきメッセージを送り合っていましたね。真矢ちゃんには恋愛とか仕事のことを相談したいとき、連絡をとっていました。やっぱり賢くて、的確なアドバイスをくれるし、話を聞いてくれるんです。逆に、こっちから聞かない限り、自分の話はあまりしない人でした。mixi上では饒舌でしたけど。
 だから、1週間前、思い詰めた感じで「美沙、近々ちょっと30分くらい話せる時間ない?」って言われたとき、何か大変なことが起きたに違いないと予感がありました。でも、私が仕事でパツパツだった時期だったので、「2日後の夜とかでも大丈夫?」と聞いたんです。どうしてもその日と翌日は時間を割けそうになかったんです。そしたら真矢ちゃんは「大丈夫。急ぎではないから。急にごめんね。ありがとう」と返してきて。私もそれを信じていました。真矢ちゃんはいつも冷静で、賢くて、きちんとした人。そんなイメージがあったので、たぶん大丈夫だろうと思っていたんです。
 2日後の夜、LINEをしたところ、なかなか既読にならなくてどうしたのかなと思っていたら、私、寝ちゃったんですね。朝起きると、まともな時間にしかメッセージを送らない真矢ちゃんにしては珍しく、夜中の4時に返信が来ていました。「もう大丈夫。ありがとう」とだけ書いてあって。
 その後、「また何かあったらいつでも連絡して」と返して、すぐにスタンプが送られてきて、それが真矢ちゃんと最後にしたやりとりになりました。あのとき、無理してでも時間をとって、真矢ちゃんの話を聞いておけば良かった、と今でも思うんですよね。悔しくて、つらくて、たまらないです。


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