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替えのきかない空気

大阪に滞在しているとき、私は誰とも会おうとしなくなった。月10日間、パートナーの家がある大阪で過ごしているとき、会う人は彼だけ。残りの20日、福岡にいるときは毎日のように何かしら誰かと会うので、落ち着いて過ごしたいモードなのかもしれない(街中に行ったところで、マスク群を見て気が滅入るから極力街に出たくない、というのもある)。

大阪ではふたりだけの世界で満足している。医師である彼は毎日ハードに過ごしていて、ほとんど夜しか顔を合わせないし、今夜は当直なので夕方から出勤した。そんなわけで、土曜夜、私は人の家を占拠……いや、守っている。平日も、30分走るためにほぼ毎日ジムへ行くけど、それ以外は家の中にいて仕事したり勉強したり本を読んだりひとりランチを作ったり。

なんだかんだ一緒にいる時間は長くない。食事中はラジオかYouTubeで過去のラジオ番組を聴きながら、ほぼ会話もせず、お互い黙々と食欲旺盛に食べまくる(笑)。外食に行ってもお互い「美味しい」くらいしか発さず、食べることに集中する。喋るのは食後か夜散歩に行くときか入浴中か寝る前あたり。

コミュニケーションをとる時間は限定されている。とはいっても、離れているとき、当直や出張、私が夜遅く予定がある日を除いて、毎日30分くらいはオンラインで会話をしている。むしろ離れているときの方が会話量多かったりして。

そんな彼は私にとって非常に大切な人物であり、同時に非常に興味深い人物である。言い換えると、私のツボにハマることを言ったり、行動したりする人。

言葉の選択もいい。この前は「その子さんが来ると冷蔵庫が賑やかになるね♡」とにこにこしながら言っていた(穏やかにうれしそうに話すから語尾に大体♡が付いている印象)。私が来ると買い物に行っていろいろ買い込むけれど、普段は炭酸水と納豆、トマト、調味料一式くらいしか入っていないから。先日は山梨にいる知人からすももが30個ほど送られてきて、それを冷蔵庫に収納したらパンパンになってしまった。その様子を見て「賑やか」と表現していた。

2ヶ月くらい前から始まった習慣(?)がある。彼が朝トイレに行って寝室に戻ってくるタイミングで、私の下腹部をプッシュしてくるようになった。その度に私は「お腹押すな〜😠」と寝ぼけた声で言う。さらに「トイレに行きたくなるだろうが〜😠」「やめろ〜😠」的なことを続けて言う。それを聞いて彼はふふふと笑っている。最近は私も日常生活の中で隙を狙っては彼のお腹を押すようになり、逆に「お腹押すな〜😠」と言うのが楽しいからお腹を押されたい。そんな、子どものときにやった悪戯やちょっかいを思い出すようなことを繰り広げてふざけ合っている。まったくもって大人っぽくないけど、家ではこんな感じでいい。そもそも「大人っぽい」っていうのもどういう意味の言葉?と思うけど。

そしてこれは半年前くらいからだと思うけど、彼は背中合わせにして私を担ぎ上げる動作をするようになった。「その子さん、こっち来て♡」「その子さん、後ろ向いて♡」と言って担いでゆさゆさする。肩甲骨が開いて、背中全体がグーッと伸びて非常に気持ちいい一方で、「よくもまあ、55〜56kgもある重たい私を何度も持ち上げて、筋トレみたいな動きするよね〜」と思うとすかさず笑えてきて、持ち上げられている最中ずっとゲラゲラと笑い転げてしまう。足のマッサージをしてくれて、足指をポキポキされているときも、音が鳴りすぎて笑ってしまう。

7月も大阪で過ごす日がもうすぐ終わる。今月もたくさん笑った。それはもう腹筋がひきつるくらい。客観的に見たらすごく面白いことが起きているわけではないと思うけれど、なぜか彼と一緒にいると私が自然とゲラ化して、笑い泣きするレベルに笑っている(そのときは「笑いすぎてメイク落ちるだろうが〜😠」と怒る)。些細なことにおかしみを感じて笑いを抑えられなくなるのだ。「楽しげな空気」みたいなものが常にふたりの間に存在しているように思う。

こういう、くだらないやりとりの中で生まれる笑いのツボみたいなものは、なかなか替えがきかない気がする。特別なものだ。1年前よりも笑いの量がさらに増えているから、神様からありがたい縁をいただいたなと思う。

彼の職場が「N95マスク必須」に振り戻されたという。15分もつけていると呼吸が苦しくてフラフラすると看護師の知人から聞いたことがあるN95。この時期にそれつけて、むしろ体力奪われて医療スタッフが倒れるよと思うし、彼のことも心配だ。でも、残念ながらこれに関して私にできることはない。

ただ、私が遠くにいても変わらずいきいきと過ごし、自分のやりたいことをやりたいようにやっている姿を見せれば、彼は笑顔になるし、元気になるのを知っている。そして、また大阪に来たときに飾らず、素の元気な私でいるだけで、ふたりの間に笑顔が生まれる。8月も楽しく過ごせるように、それまで各自の持ち場でできる限りすこやかに、ヘルシーに生き抜くことを願う。


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