さまよえる不動産屋

いかがですか、いい物件でしょ。もうねえ、うちのイチ押し。お客さん、お仕事は-。ほお、音楽関係ですかあ。わたし、お会いしたとき、ギョーカイの人じゃないかって、にらんでたんですよ、ヘヘッ。だったら、もう防音性の優れた地下室がぴったり。ここだけの話なんですが、まあ、俗にいうワケあり物件ってヤツで。だから、なんたって格安でしょ、日当たりもいいし、このあたり一等地でしょうが。お隣りさんは、演歌の大御所のお屋敷、ほら、あすこですよ。

知ってました、知ってたら見に来ないかあ。そっか、そっか。実は、この家が建つ前に、新築の家が途中まで建っていたんですよ。そこで夜中、OLさんが近道をしようとして、暴漢とでもいうのか、いまだに犯人は逮捕されてないんですけどね、襲われ、建築中の家に連れ込まれて、首を絞められ、殺されたんですよ。家は、取り壊され、新たに建て直されましたから。御祓いもバッチリしたみたいですから。

「不動産屋さん、気にならないか」って、気にはなりますがね、多少は。「出るか」って。ハイ、出るようですよ。わたしゃ、霊感つーのが弱いんで、会えたことはないんですが。OLさんだと思うでしょ、出るの。それが違うんです。男、それも中年男なんです。頭が薄くて、眼鏡かけてて、話し好きで。

「まるで、わたしのようだ」って-。お客さん、ひょっとして霊感、あんの。正解!そんなにウケなくても-。冗談いってるわけじゃないんですから。OLさんがああなる前に、わたし、この家を手がけている工務店のおやじと、もめましてね、深夜、この現場に呼び出されて、地下室の土台つくる生コンと一緒に埋められてしまったんですよ。不本意でしょ。


成仏できないつーか、未練もあるし、わたし、結婚も遅いほうで、子どももまだ、小さいんですよ。どうしてくれるの。で、こうして、時折、ご案内させていただいているんですがね。わたしのこと、誰も気づいてくれないんで。どうですか、お客さん。ヘヘッ。


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