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ボジョレーヌーヴォーの功罪

こんにちは、ソムリエ Tです。今日は独り言のような感覚でコラムを。題材は今年は11月19日(木)に解禁するボジョレーヌーヴォーについてです。

そもそもボジョレーヌーヴォーとは?

「ボジョレー」とはフランス、ブルゴーニュ地方に広がるワイン産地です。ガメイというブドウからフレッシュでフルーティーな赤ワインを作っている地域です。赤ワインの生産が95%なのでほぼこのワインを作っていると言っていいでしょう。「ヌーヴォー」とはフランス語で「新しい」という意味なので、ボジョレーヌーヴォーは「フランスのボジョレー地方で作った新酒」という意味ですね。フレッシュな果実味が広がるシンプルなワインです。

ワインにおける「新酒」とは?

簡単に言うとワインの新酒は世界中のワイン産地で作られています。日本でも作っていて毎年11月3日に解禁します。ワインの新酒はもともとは「今年も無事にブドウを収穫できた!直ぐ飲めるお酒を作ったので皆で乾杯しよう!」という意味合いで作るものです。(ここは日本酒とはちょっと違うところですね。)ですので、その新酒を広く世界に販売するということは意味合いからとると不自然なことではあるのです。ですが「ボジョレー」地方に関してはガメイ種で作ったフレッシュ&フルーティな赤ワインをもっと世界に広めたいという思いと戦略がありました。

「ボジョレーヌーヴォー」の市場

新酒ではない「ボジョレー」の輸出市場の一番は米国で、輸出量は660万本。続いて、英国向けは580万本。日本は520万本で3番目の輸出市場。ただし「ヌーヴォー」については日本が一番で、その輸出量の50%を占めます。ボジョレーだけでなくイタリアも積極的に「ヴィーノ・ノヴェッロ」と呼ぶ新酒を輸出しております。日本は世界の新酒を受け入れる市場なのです。特に昔の日本はボジョレーの戦略にハマってしまった赴きもあります。

日本における「ボジョレーヌーヴォー」の歴史

日本で「ボジョレーヌーヴォー」が流行りだしたのは20年以上前でちょうどバブル期の前後です。その理由は、当時の日本人の新しい物好きで横並びの風潮があったと思います。また時差によって解禁日に世界で一番早く新酒が飲めること、また日本のワイン文化自体も現在ほど広まっておらず、とにかく「ワイン=お洒落」 というイメージがあったことも要因です。私はまだ飲食業に入ったばかりの頃でしたが、当時の人気は本当にバブルのようにスゴかったです!解禁日には町のお蕎麦屋さんにもボジョーレーヌーヴォーが置いてあったほどです。(笑)

「ボジョレーヌーヴォーブーム」

小さい飲食店に勤めていた当時の私はこの「ボジョレーヌーヴォーブーム」をとても苦々しく思っていました。とにかく味に関係なく置いてあるだけで売れるので、毎年何ケースかは発注していました。小さな飲食店でさえそうなのだから、百貨店や大きな酒屋さんは大変だったと思います。そして彼らにとってはボジョレーヌーヴォーは「間違いなく売れるコンテンツ」の一つでした。「バレンタインデーのチョコ」と同じと思っていただけければよいと思います。メディアや百貨店も毎年、キャッチコピーを挙げてプロモーションしていましたね!(今でもですが。)「10年に1度の逸品!」とか 「100年に1度の出来、近年にない良い出来!」とかそんなコピーを見るたびに私はひどく落ち込んだものでした。

「ボジョレーヌーヴォー」の品質とは?

何故、私が毎年この時期になると憂鬱になっていたかは、肝心のその品質にあります。簡単に言ってしまうと他の赤ワインに比べて味が足りないのです。これを説明するのは赤ワインの作り方から始まるのですが、赤ワインを作る黒ブドウの収穫は北半球では早くても8月下旬、遅いと1ヶ月以上ずれ込むこともザラです。(幸いボジョレーのガメイ種は早く熟すブドウです。)そこから11月の第三木曜日までに「ブドウをつぶして発酵させる」「発酵したワインを休ませる」「瓶詰めする」「出荷して空港や港まで運ぶ」「世界中に空輸する」最低ここまでのプロセスを踏まなくてはなりません。その期間を短縮するためのしわ寄せは当然「ブドウをつぶして発酵させてそのワインを休めせる」ところにきます。肝心なところはここで、通常の赤ワインは少なくてもここに最低でも半年以上は費やします。若いうちに飲む赤ワインも出荷まで1年半くらいかけるのは普通なのです。それができないヌーヴォーはその発酵の仕方から変わります。「マセラシオン・カルボニック」という手法ですが、この手法でワインを作るとワインに独特のキャンディ香やバナナのような香りが付いてしまうことが多いのです。またブドウのタンニンを多く抽出することはできません。ヌーヴォーとは中途半端な作り方をした赤ワインなのです。

当時の私が、お客様におすすめするのに憂鬱だったのはここで、私自身がボジョレーヌーヴォーを嫌いだった訳ではありません。むしろお祝いの気持ちで一年に一回は飲みたいワインです。ただお客様におすすめする立場上、これよりしっかりと美味しい赤ワイン、本来の赤ワインらしい赤ワインがたくさんあるのに、それを知らないお客様が「赤ワインとはこういうものなのか、、、?」と勘違いされてしまうことが悔しかったのです。私はもちろん目の前のお客様にはきちんと説明いたしましたが、スーパーやコンビニ、百貨店から買うお客様にとってはその説明を誰かから受けていたかというと到底そうは思えません。そして解禁日に間に合わせるためにボジョレーヌーヴォーは空輸します。空輸はコストがかかるので、ヌーヴォーは普段飲むワインにしては少し値段が高いのです。同じような味わいでももっとコストパフォーマンスの良いワインは沢山あるのに、、と当時の私は思っていました。

「ボジョレー・ヌーヴォー」の功の部分

ボジョレーヌーヴォーが日本のワイン文化において罪でしかないかというとそうではありません。功績もあるかと思います。例えば、どんな形にしてもワイン文化が広まっていなかった当時の日本において「ワイン」というものを飲むきっかけになったことは大きいと思います。そこから本格的にワインを飲み始めたという人もいるはずです。また大げさなキャッチコピーでお客様を引いてくるのはいかがなものかと思いますが、ボジョレーヌーヴォーの解禁日くらいはワインを飲んでみようかしら?と思われる方も結構いるはずです。これはワインに関わっている全ての人にとって、とてもありがたいことだと思います。ワインは実際、消費者が飲んでくれなくては何も始まりませんですから。

さいごに

20数年前の当時に比べて、日本のワイン文化もかなり成熟してきているかと思います。もともと食文化に関してはかなりの柔軟性のある国民性なので、お店や家庭の食卓で上手くワインを取り入れて、日常でワインを楽しむ方も増えてきていると思います。またボジョレーヌーヴォーの輸入量も一昔前に比べればかなり減ってきています。ワインの輸入量自体は伸びているので、流行やメディアのキャッチコピーに踊らされなくなってきてますよね。

また、技術革新や経験、現地の情報共有などで「ボジョレーヌーヴォー」の品質自体も実は上がってきています。「これホントにボジョレーヌーヴォー?」と言えるヌーヴォーも増えてきました。これからも消費者が正しい情報を得て、美味しいワインに出会えるようになってくれることを切に願います。

※ワインレポートさんの記事を一部、参照させていただいております。また写真はイメージです。


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