【放課後のプレアデス2次創作】もし、再開するすばるとあおいが両方ともおいて行った側だったら

「おーい、すばる!こっちこっち!」

久しぶりに帰ってきた、生まれ育った町にある小さなお店。その入口に立っていた私は、自分を呼ぶその声で、久しぶりに会うあおいちゃんを見つけた。もうずいぶんと会っていなかった同級生の顔は、なんだか変わっていないような、それでいてどこかが確実に変わっているような。具体的にどう、といわれるとわからないんだけど。懐かしくも、新鮮でもある気分。そんな不思議な思いで、あおいちゃんの近くへと歩いていく。

「久しぶり、あおいちゃん。元気だった?」

「ああ、元気元気。すばるもなんというか、最初は変わってないなと思ったけど……なんか変わったな。いや、やっぱり変わってないのかな。なんか、変な気分だ。」

さっぱりとしたその口調を聞くと、ああ、あおいちゃんだなぁって、とても安心した気分になった。

「ふふふ、わたしも丁度同じようなこと、思ってたよ。」

あおいちゃんは私の言葉を聞いて、ええ、そうかなぁとすこし不満ありげに笑っている。変わった方と変わってない方、どちらについて不満があるのかな。そんなあおいちゃんの仕草は相変わらずとてもカッコよくて、小さいときに私が良く助けられていたことを思い出す。だけどその時とは少し違って、今のあおいちゃんは飾りすぎないながらもとてもおしゃれで、綺麗だ。

「それにしても……もう何年になるんだろう。結構長い事あってなかったよね」

料理を待っている間、ひとしきり昔話に花を咲かせながら。私たちはいつしか、それぞれ会っていなかった時の話題に移っていた。

「そうだね。小学校を卒業してからだから……もう10年以上になっちゃうのかな。すごいよね。色んな事が変わっていって。あおいちゃんは今は衣装屋さん……で、いいのかな。すごいなぁ。夢をかなえたんだね。」

そういうと、あおいちゃんは頬を少し赤くして、少し照れくさそうに、笑った。

「あたしなんて、まだまだだよ。職業にできたってだけで駆け出しもいいとこ。これからだからさ。何となく好きだからってここまで来ちゃったせいで、今は必死になって勉強の毎日だよ。……夢をかなえたといったら、すばるこそ。いまや知る人ぞ知る天文写真家かぁ。」

「私だって、似たようなものだよ。それに、本当は天文学者とか、もっと直接的に天文に携わりたかったから。」

「そっか。……でも、夢が現実になるって、こういうことなんだろうな。」

あおいちゃんは、どこか遠い目をして、つぶやくように言う。

「そうだね。……昔、どうしようか悩んでいた時。諦めてしまわなくて、夢に目指していくって決められて、本当に良かったって思ってる。」

私がそういうと、あおいちゃんは、こちらを優しい顔で見つめながら、私の言葉に応えた。

「そうだな。あたしも同じ気分だよ。叶わなかったものも沢山あったけど、夢が叶うかどうか確かめること自体を、最初からあきらめてしまわなくてよかった。進みだしてみてよかった。あたしが昔を思い出してみても、そう思う。」

そんな所まで話をしていると、そのうち料理が運ばれてきた。私もあおいちゃんもお腹がペコペコだったので、食事のあいさつもそこそこに黙々と、食べる方に集中していった。

料理を食べ始めて、しばらくたって。

あおいちゃんが頼んだ料理は私の物より少し分量の多いメニューだったので、私が少し語り掛け、あおいちゃんはそれに答えつつ、料理を口にしている。私は、葵ちゃんと会話をしながら、ちょっとした覚悟を持って、その顔を見ていた。今日、ここで会おうとあおいちゃんを誘ったのは、私なのだ。ちょっとした用事と……とある、やり残したことのために。

そうこうしているうちにあおいちゃんも料理を食べ終わり、再びお話できそうな空気になってきた。

「ごちそうさま、と。……うん、本当においしいな、ここの料理。……ん、すばる、どうかした?」

私が見つめていることに気付いたあおいちゃんが、そう私に問いかけてきた。

「わたしね、あおいちゃんに言う事あるんだ。」

そういうと、あおいいちゃんは少し恥ずかしそうにはにかんで、こう答えた。

「そうなのか?」

「うん。大事な、ずっと言い忘れてた言葉。」

「ふぅん。……奇遇だな。実は、あたしもなんだ。」

その言葉としぐさを見て、そうか、葵ちゃんも一緒だったんだ、という事に気付いた。ほんの少しだけ、私の緊張が和らぐ。

「……何となく、何のことだか分かっちゃうね。」

「うん。そうだな。」

「そうだ、じゃあ一緒に言おうよ。」

「ああ、いいよ。」

「「……」」

「「あの時は、急にいなくなったりして、ごめん!」」

二人で、同じ言葉でお互いに謝って、頭を下げた。そうしながら、ああ、やっと言えた、と私は胸をなでおろした。それから、葵ちゃんもやっぱり似たことを考えていたんだという事にも、おなじように。

「えっ……と、私ね。あの時、どうしてももっと天文の勉強がしたくて……」

私は、そのままの勢いで、少ししどろもどろになりながら理由を紡ぐ。

「あたしも。隣町の、進学校があったでしょ。あそこの制服が……その。かわいくて。」

そうだったんだ。そうだったんだよ。と、お互いにすこし気まずくなりながら言葉をやり取りしている。そのぎこちなさとは裏腹に、お互いに言いそびれていたことは、程なくして言い終わってしまった。険悪とは言わないけれど、なんとも気まずい空気が、流れている。

言うべきことは、やっと言えた。だけど、これだけじゃ駄目な気もする。あおいちゃんにはもっと言わないといけないことが、ううん、ずっと言えなくて後悔していたことが、ある気がする。だってこれは、あの時言いそびれた言葉だから。今、もしあの時ちゃんと言葉を交わせたうえで今この場にいたなら、もっと言えたはずの事があるんだろうと思った。それはなんだろうと、私は考える。

「え、と……それとね。」

そう続けた私の言葉を、あおいちゃんはしっかりと聞いてくれている。

「その時の理由付けは、そうだったんだけど。」

その一言で私が何を言おうとしているのかあおいちゃんもわかったのだろうか、

「あたしも、その時はそれだけで納得してたんだけど……さ。」

と私になにかをいいたそうにしている。

「「ほんとはさ」」

また、私たちの声が綺麗にハモった。

私たちはびっくりしたように、けれどその後ははにかみながら、お互いを見つめた。あおいちゃんが譲ってくれるようなまなざしを私に向けたので、私は続きを話し出した。

本当は……私、きっと、本当の自分を隠しちゃってたんだと思う。それに相手もそうだっていうことが、なんとなくわかって、だけどどうすればいいか分からなくて、悩んで悩んで、とっても悩んで……そして、そこを去る事を、決めた。

決めることはできたけど、相手に言う事は出来なくて……。私は、大事な相手には黙ったまま、卒業と同時に、転校した。

それからずいぶん経って……やっと気持ちの整理がついて、戻ってきたら、あおいちゃんはもう、そこにはいなかった。

今考えれば、当たり前のこと。当たり前のことだったけれど、どうしてか私はとても驚いて。きっと私は、このこともあおいちゃんに謝らなきゃいけないんだと思う。きっとその時のわたしは、あおいちゃんを変わらないあの日の思い出の象徴のように思っていたんだと、思うから。でも……その時。あおいちゃんがもうそこにいないと知ったその時、驚いたのと一緒に、なんだか安心したんだった。……ああ、私だけじゃなくてあおいちゃんもだったんだ、って。あおいちゃんにもあおいちゃんの考えがあって、そうしてここから去っていったんだって。私も去ってよかったんだって、その時初めて安心した気がするの。

「それを言ったら、あたしもだよ。」

私の話を静かに聞いていたあおいちゃんは、私が話し終わると落ち着いたまま、言った。

「……流石に、二人とも全く同じタイミングで、同じように黙っていなくなってたってわかったときは、驚くばかりだったけどな。」

そう。あとから分かったことだったけれど、葵ちゃんがいなくなったのは、私が居なくなったのと、全く同じタイミングだった。相手に何も言わず行っちゃったところまで、そのまま一緒。私たちはそれぞれ、大事な相手に何も言わず、大事な場所を、大事な人の隣を去った。

そうして、私たちの路は、分かれた。

でも、それでも。……もしかしたらあの時二人が同時に分かれて夢を追いかけ始めた、そのおかげで、今再び、二人とも夢を少しだけ叶えてここで会えている気もする。

「……私達、二人とも一緒に変わったんだね。」

「一緒じゃなかったけどな。」

「うん。一緒じゃなかった。けど、一緒だったんだよね。」

「……ああ。一緒だった。一緒にいることはできなかったけど、私たちはずっと一緒だったんだ。」

あおいちゃんもわたしも、またずっと昔みたいに心から笑いあえている気がした。すくなくとも私は心から笑えていたと思う。あおいちゃんの表情も、とてもやわらかであの時のまま、けれど今まで前に進んできたから出来る、力強い表情だ。私はそれに答えれているだろうか。あの時の想いを残したまま、ここまで来たことに自信を持って力強く、笑顔でいられているだろうか。

「ねぇ、もし一緒じゃなかったら。今こうしてまた会えたり、してなかったのかな。」

「どうだろ。……でもきっと、大丈夫だよ。」

「そう……だよね。……うん、きっとどちらかがだけが変わって、どちらかだけをおいて行っちゃったりしても。あおいちゃんだけが変われて、私が変われないままおいて行かれていったとしても……きっと私、私なりに前へ進んでいったと思う。あおいちゃんがいなくなっても……そりゃあ、少しは傷ついたり、悩んだりするかもしれないけど……恨んだりはしないよ、私。だって、葵ちゃんと別れた私でも、今では葵ちゃんと私は同じじゃないって事を知ってるもん。私の中にいるあおいちゃんは、本物のあおいちゃんとは少しだけ違うんだって事、知ってるもん。そして、私は私だってことも。ちゃんと、知ってるもん。そんなふうに、あの時知らなかったことを、きっと変われずおいて行かれた私でもきっと気付けると思う。そして、最後には私も、変われると思う。自分の可能性を信じられると思う。」

私がそういうと、あおいちゃんは少し苦笑いするように、笑った。

「そこまで根拠があって言ったわけじゃなかったんだけど。すばるの言葉を聞いてたら、本当に大丈夫だった様な気がしてきたよ。可能性、可能性かぁ。……それを言ったらさ、案外私達、どっちも変われずにくすぶって、もやもやしながら一緒にいた方が、面白い可能性にあふれてたかもしれないな。」

その言い回しが面白くて、私はちょっと悪戯っ子の気分になってあおいちゃんに話を詳しく聞いてみることにした。

「ふふ、どうやって?あの時は絶対どちらかが居なくなるしか多分道はなくて、その決断を私たちがしたのが同じ瞬間で、それからずいぶん経って、いま、こうして一緒にいるのが、それだけで奇跡みたいなものなのに。」

「それこそ、奇跡みたいなことが起こったら、だよ。私たちがどちらも変わらなくちゃと気付いて、でもどちらも変われないまま、でも変わらなくちゃとあがきながら、それでいて、一緒にいる。……きっと、その『わたしたち』は、この私たちにはなかった大切な『何か』の為に、一緒にいる。その共通の大切なことのために一緒に悩んで、ぶつかって、離れて、また一緒になったりする。そんな奇跡……ううん、魔法みたいな出来事も、ひょとしたら有り得るんじゃないかって。あたし何となく、そんな気がするんだ。」

あおいちゃんは楽しそうな表情を一層明るくして、まるで夢見てるみたいに、続きを語ってくれる。

「やっぱり。」

「何さ?」

「あおいちゃんって、ロマンチストだよね。ううん、ロマンチストだったんだよね。」

私が改めてそういうと、あおいちゃんは照れくさそうながら隠すでもなく笑いながら言った。

「なんだよ、悪いかよ。」

「ううん、全然悪くないの。ただ、あの時の私が気付いてなかっただけなの。頼りっぱなし、だったから。」

多分、あの時の私は、あおいちゃんに『頼れるあおいちゃん』でい続けてほしかったんだと思う。

「そういうアタシだって、すばるの事、分かってなかったんだ。本当はでっかいものを持ってるのに。あの時から持っていたのに。甘やかして、ずっと面倒見なきゃって気負って。それで。安心してたんだ。だから、お互い様さ。」

「うん、そうだね。お互い様だね。……うん。ほら、私達、もうあの時にはお互いの事をちゃんと見てたんだよ。きっとただ、気付いていなかっただけで。」

「……うん。そうかもな」

「星ってね。地球から見上げた時に届いてる星の光は、何万年も、何億年も前の光なの。でも、私たちは、その星を見てる。その星が、今どんな風になってるかを知ることはできないけど、ちゃんとしっかり、星を見てる。だから。私たちも一緒だよ。どんな時だって。」

「そうだな。……やっぱり、すばるってそういう、抽象的な事を言葉にするのが上手いよな」

「そうかな?」

「そうさ。あたしがそういうことを言葉にしようとすると、どうしてもロマンチックになりすぎちゃう。自分で浸る分にはいいけどさ。」

そういうと、あおいちゃんは少し照れくさそうに笑いながら、つづけた。

「すばるに言われると、なんだか本当に宇宙の果てまで見通せそうな気がするんだ。きっとすばるの言葉や物の見方で助けられる人が、たくさんいるはずだよ。」

それは、私にとってとても心強い言葉だった。そして私から見たあおいちゃんのことも伝えたい、と思って。私は言葉を紡いだ。

「それを言ったら。あおいちゃんだって。見たよ。衣装を担当したお芝居。おしゃれに無頓着な私でも、ああ、いいなぁ。こんな風になりたいなぁってすごく思った。ああいうものを実際の形にできるのって、凄いことだと思う。きっとあおいちゃんのお仕事だって、いろんな人に響いてると思うよ。」

「そういってもらえると、嬉しいな。」

あおいちゃんは、また、笑った。

「……ねぇ、私達、また友達になろうよ」

「……なんだよ、それ」

「……だめかな。」

「そうじゃなくてさ。さっき、言ってたじゃないか。あたしたちはずっと一緒だったって。だから『また』じゃなくて。今までもこれからも、ずっと友達さ。」

「うん。……うん。そうだね。ごめん、そうだった。これからも、ずっと、ずぅーーっと友達でいよう、あおいちゃん。」

「ああ、これからもよろしくな。すばる。」

外に出ると、満天の星空が広がっていた。そうだ。この町はとても星がきれいな街だった。夜に近くの丘の上に上ると、まるで宇宙に行けたような気分にもなったっけ。

「わぁ、良い星空だな。」

「そうだね。……あっ、そうだ、忘れるところだった!」

私は、今まで忘れかけてた『本来の目的』を思い出して、慌てて鞄の中から一枚のチラシを取り出してあおいちゃんに見せた。

「あおいちゃん、これ。……地域の子供たちを集めて、星空の鑑賞会をやるの。それだけじゃなくて、大人の人にもいっぱい来てもらいたいから……。あおいちゃんも、良かったら。」

「ああ、行くよ。絶対。」

最後に、あおいちゃんはそう力強く答えてくれた。

「そうだ、折角だから何人か誘っていくよ。劇団の知り合いで、こういうの興味がありそうなやつに心当たりがある。音楽担当のやつとか……ああそうだ、常連さんも何人か誘えるかもな。」

「本当?すごいすごい、楽しみにしてるね!」

「ああ、こちらこそ、楽しみにしてるよ」

「うん!」

私たちの可能性は、またここから。……ううん、これからもっと、広がっていく。

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