20.Intermission 経理職と性差別
エルパまでの道中の話で「会社の金を横領した中年女性」が登場しました。
これは会計職における性差別の象徴として書きたかったものです。
日本企業の構造的な脆弱性の表象といってもいいかもしれません。
日本における女性の職業的役割の認識の根底に「夫を支え、家庭を守る」
という古き良き日本の伝統文化のような幻想を抱いてしまった老害思考が、
「働く女性」を”悪(伝統文化の破壊者)”としてみる世相を作っています。
一方、会計基準や会計理論を知らない老人経営者は、経理を
「パソコンに入力する仕事」くらいの認識しかない。
法人税の計算は税理士に任せているし、利益が出さえすればいい。
重要性の低い部門という認識は、「家事育児の合間のパートでやってる
女性にやらせればいい」という考えつながっています。
しかし、現場はどうでしょう?
会計基準は年々複雑になっています。
小さい会社だと、給与計算から法務的な仕事まで一人でこなしているのでは
ないでしょうか?
(実際、私は以前上場会社で連結と有報の作成をしていましたが、
今は中小企業で経理の他、給与計算や契約書のレビュー、サーバの管理や
社内システムの構築など、一人で行っています。
中小企業の経営者にとっては「経理=事務員さん」というイメージで、
非常にざっくりとしたイメージしかないものの、会計基準も会社法も
なにも知らないため、業務量を可視化して一から必要性を教えてあげ
ないといけません。実際、「うちはそこまでの会社じゃないから」と
会計基準や税法を無視した帳簿処理をしていて、これを古い付き合いの
税理士も容認していたということがありました。そもそも税理士事務所の
スタッフは税理士ではなく、知識を更新していないケースがあります。
たぶん、中小企業にはよくある事例ではないでしょうか?
業務の効率化のため、システムを導入しても、「パソコンが勝手に
やってくれるから楽なんでしょ?」くらいの認識しかありません。
そのため、プログラムを作らなければならない部分があることなども
一つ一つ教える必要がありました。)
女性に対する評価と職業的評価が低いことで、
① 職務内容に対して給与が安すぎる。
② 社内における地位が低い。重要な意思決定に参加できない。
③ コストセンターという負い目から人員が増やせない。残業が多い。
と、現場の女性経理職員を構造的に追い詰めていくことになっています。
結果、間違を防止する手段がないため、発覚すると担当者は怒られるだけ、
そして嫌になって辞めてしまうのです。
(評価されるチャンスがないため、当たりまえです。)
また、多額の横領などの不正が行われているのに、そのことに何か月も
何年も気づかないというのは、横領した人がもちろん間違っているのですが
そもそも組織としておかしいのです。
きちんとした「レビュー体制」があれば、横領なんて起こりようがない!
「事務にそんなに金をかけてもしょうがない」
という経営者はかなり多いと思います。
高齢化社会の弊害で、40年前の感覚で現場のシステムを更新しないため、
人的資源が有効に更新されていかない。
優秀な女性が社会にでる機会を奪っているのが「日本の古き良き伝統」で、
さらに、高齢化社会による老害が女性の社会的地位を貶めているのです。
このような会社は管理会計的手法による人事評価が行われていないため、
人事が恣意的になり、給与体系もいい加減になっており、社員の満足度も
低いといえます。
若くて優秀な人がどんどん辞めていく会社、というのは日本企業の特徴
の一つですが、結論はこういうことです。
(かくいう私も、転職して給料が倍になりました。)
経営者が「経理」という仕事を知らないことから始まり、
経理職のパートタイムの割合の高さ、女性の多さ、給与の低さ。
これらは単にそれだけの問題で終わりません。
その企業の体質であり、経営者の質の表象であり、営業力であり、
人的リソースの充実度を表すものです。
いわゆる「困ったお局さん」という存在は、こうした社会的な
フラストレーションの結果ではないでしょうか?
このような前時代的な社会が、早く終わることを願っています。
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