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「パン」が毎日捨てられる今 vol.2

やむなく出てしまう廃棄パン
それをどう生かすか?

ところで、パンは人間に食べられないといけないものだろうか? 農家や、パン職人の気持ちを考えれば、人間においしく食べてもらうのが理想的。だけれど、やむなく廃棄が出てしまうなら、それを生かす方法を考える必要がある。

その解決策のひとつが「エコフィード」という発想だ。エコフィードとは、食品残さ、規格外食品などを再利用した家畜用飼料こと。このリサイクル方法は、今後の日本の食品廃棄にとって重要なポジションとなると、筆者は予想している。

日本の畜産業において、経営コストの約3~6割は飼料費に充てられており、その飼料原料(トウモロコシなど)の約7割は輸入に依存しているといわれている。この輸入分をエコフィードによって自国で賄えば、飼料自給率が大幅にアップするだけでなく、廃棄食品の有効活用につながる。さらに、輸入飼料より安価なエコフィードは、農家のコスト負担を減らすこともできるのだ。

エコフィードの重要性は国も認知し、注視している事業。農林水産省が中心となり、家畜に安全な飼料を給与するための〈食品残さ等利用飼料における安全確保のためのガイドライン〉がつくられ、関連するさまざまな法令が制定され始めた。

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(↑ ビール粕を乾燥させた牛の飼料。草食性の牛と雑食性の豚の飼料は異なるため、飼料加工には細心の注意が払われている)

実際に大手ビールメーカーから出るビール粕、豆腐屋や醤油醸造メーカーから出るオカラ、給食センターなどからでる食品残さは、エコフィード業者に持ち込まれ、新鮮なうちに乾燥、発酵の工程を経て、飼料として活用されている。

廃棄パンもエコフィードの原料には欠かせないもののひとつ。豚にはパン、カステラ、麺、米飯、餅などを粉砕・乾燥させた「菓子粉」と呼ばれる飼料を与える。この菓子粉は豚の食への嗜好性を高め、肉にほどよい脂身をもたらすという。

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(↑ 菓子粉。人間が食べるためにつくられたパンや麺などを乾燥・粉砕したものなので、人間が菓子粉を口にしてもまったく害はない)


食品廃棄は、もったいなくない?

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濱田家の一部の廃棄パンは、千葉県習志野市にある〈アニマルフィード株式会社〉に引き取られている。主にビール粕やオカラによる牛の飼料を製造してきた同社だが、豚の飼料の需要が高くなり、濱田家をはじめとした世田谷のパン屋を回り、廃棄パンを回収している。ほかにも、大手パンメーカーから出るパンの耳や、ケーキスポンジの端、製麺メーカーから出る規格外品など、一般消費者の目には触れないさまざまな余剰品が回収され、豚の飼料へと加工されている。

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「テレビなどでフードロス問題が話題になり、人間が食べることばかりがクローズアップされて『もったいない』って言われますよね。私はそれが少し腹立たしくって(笑)。食品を焼却処分するのなら本当にもったいないことです。でもきちんと生かせば、もったいないことはない。牛や豚が食べてくれて、最終的に肉や乳製品になって私たちの食卓に戻ってくる。そういう無駄のないサイクルができあがっているんです」(吉岡美由紀社長)

廃棄が出ないに越したことはないが、出てしまったとしても使い道はある。パンだけではない。規格外となり、スーパーに並べられなかった野菜たちも、しかるべき業者にわたれば堆肥に変わる。それらが家畜の飼料となり、野菜の肥料となり、また私たちのもとへ還ってくる。廃棄をベースにした食のサイクルが成り立っているのだ。

ただ残念なことに、これらの食品リサイクルは広く認知されていない。大手食品メーカーはエコフィード事業者と取引をしている場合があるが、小売店や個人店は廃棄物として焼却処分に回すことが多い。アニマルフィードは、そういった小さな店舗を地道にまわり、エコフィードとしてのリサイクルを提案しているという。

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(↑ 回収された廃棄食品はその日の内に加工され、1日10トン以上の飼料に生まれ変わる。この日もフレコンバッグに詰められた1個500キロの飼料が次々と出荷されていたが、需要に追いついていないのだとか)


廃棄パンも、フードロスも、なくならない
だから今、できること

世界的アジェンダ「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択されて以降、日本でもますますフードロスへの注目が高まり、新たな取り組みがスタートされている。例えば余剰食品や、いわゆる「3分の1ルール」で販売できなくなった食品を、子ども食堂や福祉施設などへ無料で提供する〈フードバンク〉。廃棄予定のパン、総菜、弁当などを割安で購入できるフードシェアリングアプリ〈TABETE〉や〈Reduce GO〉。サービス開始からたった11か月で、廃棄パンの通算取扱量(配送量)が18トンを超えたという、廃棄パンのお取り寄せプラットフォーム〈rebake〉。ほかにも、余ったパンを冷凍し、箱いっぱいに詰めて定額販売・冷凍配送する個人店もある。これらはほんのいち例だが、それぞれにファンがつき、有意義な取り組みとして支持されている。

外国ではどうだろう? 先進各国もまた食品廃棄が悩みの種であり、国家を交えた対応策が練られている。フランスでは2016年に「食品廃棄禁止法」が可決。一定規模以上のスーパーでは食品の廃棄が禁止され、さらに賞味期限の迫った食品は慈善団体への寄付が義務づけられている。守られなかった場合は罰金が発生するという厳しいものだ。

だが、義務として定められてはいるものの、フランス国民は義務にとらわれず、寄付に積極的だという。パリのブーランジェリーに勤めていた知人の話によると、閉店間際に残ったパンは袋にたっぷりと詰められ、店を訪れる移民や貧困の人々に無料で配布していたという。なんと眩しく、温かな光景だろう。

イギリスやアメリカなどでは、廃棄パンでビールを醸造するブルワリーも登場。パンでビールを醸す方法は、紀元前3000年頃のメソポタミア時代には確率されていたという。じつは東京・六本木にある〈ブリコラージュ ブレッド&カンパニー〉でも、余ったパンを用いたビールづくりが行われている。

スペインでは2015年から街中に「連帯冷蔵庫」が設置され、つくりすぎた料理や、使いきれない食材を冷蔵庫に保管し、必要な人が自由に持ち帰れるというユニークなアイデアを採用。アメリカでも、外食で食べきれなかった料理を持ち帰る「ドギーバック運動」が推奨されている。

調べれば調べるほど、廃棄パンの活用方法や、フードロス問題の解決の手立てとなるアイデアは、あちらこちらに散らばっている。外国の事例をそのまま日本で展開するのは難しいかもしれないが、参考になるものは多いはずだ。

残念ながら今の日本では、廃棄パンも、フードロスも、なくなることはない。もちろん廃棄が出ない対策をとることを最優先として、それでも出てしまうものをどのように有効活用するか。これが食の未来を変えていく重要なポイントであり、課題ではないだろうか。

海外のアイデアや有効な事例を知り、リテラシーを高め、自分に見合った方法を探り、まずは一個人レベルで取り組むこと。これが、食の廃棄を救う一歩になるはずだ。

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※この記事は、2019年に取材・執筆したものです。新型コロナの影響で一部情報に変更が生じている可能性があります。

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