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ヒーローになりたかった少年の唄2021⑭

似非パンク


ブルーハーツやラフィンノーズ、ジュンスカなどが売れに売れた日本パンク全盛期に青春時代を迎えた僕だが、当時の流行に乗ってそういうライブに何度も出演したことはあるものの、実は個人的にはそういう音楽に興味があまりなくて、家では相変わらずディープなbluesとかフュージョン、カントリーやjazzばかり聴いていた。

ギターを弾けるヤツがやたらと少ない街だったようで、僕が少しギターを弾けることを知るとみんなからサポートギターでいいからライブ(当時はギグとか言っていた)に出演してくれないかと頼まれた。

それも、ハードコアパンク的なかなりハードなやつばかり(笑)

当時ライブハウスはいつも満員で、そこそこお金も回っていたらしく、ギターを弾けば多少のお小遣いがもらえるのもあって、貧乏な僕はバイト代わりに重い腰をあげた。

パンクの楽曲は全体的に非常にシンプルなコード進行だし、リフレインが多くて簡単なので、楽譜か音源を持ってきてくれればすぐに覚えられたからチョコチョコとそういう現場に連れていかれた。

しかし、いかんせん元々あまりパンクに興味が無いので、どんな服装や髪型がいいのかもよくわからん。
モヒカンとか、スプレーで髪をおっ立てたり金髪や赤や緑や紫に髪を染めてる奴がライブハウスには大勢いて、楽屋は髪を固めるスプレーのニオイで充満していた。

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その上、本番中はヘッドバンキングの嵐で、興が乗ってくると出演者がステージから客席に飛び降りたり、いきなりケンカが始まったり、なかなかバイオレンスな感じになる。

さすがに普通のGパンにTシャツではしまらないということで、本格的パンクなヤツらが僕にも楽屋で色々小細工してモノホンに見えるように仕込んでくれるのだ。

わけがわからんスタイルなので、もうされるがままに着せ替え人形のように任せていたら、髪をおっ立てられ、どぎつい目張りを入れられ、Tシャツはビリビリに破かれて安全ピンをたくさんぶっ刺して血糊をまぶされた。

鏡で見るとまるで妖怪(笑)

写真が残っていないのが悔やまれる。

そんなこんなで、まぁこんなもんだろうという感じでステージに立つのだが、はっきり言って演奏はほとんど全員がドシロウトであり、なにをやろうが音を間違えようが、雰囲気が出てればOKであって、そもそもギターなんてファズとオーバードライブとディストーションを全部かけて、さらにアンプはフルテン(音量MAX)というありさまであり、ドラムはライブが終わればスネアの皮が破れ、興奮してギターは叩き壊すは、もう音楽というより、悪魔崇拝の儀式のような感じだった。

ライブの後は鼓膜がジンジンして、何も聞こえず、喉はガラガラで声も出ないというありさま。

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ライブが終わったあとの打ち上げがまた壮絶で、そんな輩が10人以上集まって路上を闊歩し居酒屋にいくので、街の人々や居酒屋の店員さんはかなり怖がっていた。
そしてまたそのうちケンカが始まったりする。

対バン(共演者)のメンバーはまさか僕がその時だけのカッコつけだとは知らないから、かなり本格的なパンクのヤツらに酔っ払って「アンタはホンモンだよ!」なんて言われたりして、笑いを堪えるのに必死だった思い出がある。

後々、外国のクラッシックなパンクを聴いて、その思想の背後には色々な政治的思想や平和運動やら反戦運動があることを知り、浅はかな似非パンクをやってた自分を反省したりもした。

特にTHE CLASHなんかは、音楽的にも素晴らしいし、今のオシャレなエモーショナル系の音楽なんかも実は彼らの影響をかなり色濃く受けていることを知るわけだ。

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未だに好き好んでパンクミュージックを聴くことはほとんどないけど、当時のなんというかやたらと熱い情熱みたいなものは、頭の中にガッツリ残っている。

バンドブームの終焉とともに、あれだけたくさんいたパンクスたちはサッと消えてしまい、ディープにやっていた中核メンバーのみが時代遅れのツンツン頭を守って小さなコミュニティの中でずっと叫び続けている。

似非パンク、ファッションパンクたちは、髪を下ろしフツーのサラリーマンや稼業に戻り、今ではきっといいお父さん、お母さんになってしまったのだろう。

ムーブメントの渦中っていうのは、今自分がどこにいるのかも全て忘れさせるだけの情熱が周り全部に溢れている。
パンクが元で人生をフイにした人も実際かなりいるだろうし、それが元で自殺したり、薬に溺れたり、果ては人を殺したりしてしまった人さえいるはずだ。

しかし、時代が去ってしまえば嵐の後の静けさ。

僕と同世代の中には、当時の、血が沸騰するような興奮の想い出を心の奥にずっと抱えながら、今は真っ当に静かな暮らしをしている方達が多いかも知れない。

そんな人々も、世の中があまりにも理不尽な動きをしている今、当時の熱い血がフツフツと滾り出しているような気もする。

世の中や時代に翻弄されて死ぬ前に、もう一度あの頃の熱い気持ちを前面に出さねばならない時がやっていきているのかもしれない。

HEY! COME ON PUNX!
HAVE SOME FUN TONIGHT!

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