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風景のレシピ | nakaban

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私たちは本当には何を見ているのか――「旅と記憶」を主題に絵を描く画家のnakabanによる、風景画へのまったく新しいアプローチ。人が世界をどう見て、どう捉え、どう表現するかという…
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#旅

風景のレシピ #31 “灰色の運河”| nakaban

風景のレシピ 31 “灰色の運河” 1.大きめの橋を置き、その下にしっかりと護岸された運河を通す。   上空に灰色の空気を漂わせる。   橋と運河が次第に灰色に馴染んでいく様子を眺める。 2.建物と樹木を並べ、その風景に奥行きをつくる。 3.橋のアーチの空洞に共鳴する、かすかな気流の音に耳を澄ます。 4.いくつかの街灯を灯して、できあがり。

風景のレシピ #30 “雪見る喫茶店”| nakaban

風景のレシピ 30 “雪見る喫茶店” 1.宵の入りの青い空気を広げる。   その空気に通行人や行き交う車をよく馴染ませる。 2.訪れたことはないが、どこかにありそうな、ただし独特な形状のカフェを用意する。   路上に鉢植えを並べる。店でくつろいでいる客を配置する。 3.風景全体を見渡し、店のデザインの馴染まないところがあれば、そのつど改修する。 4.氷でできた荒目のふるいで雪を降らせ、界隈に少し積もれば、できあがり。

風景のレシピ #29 “オレンジ園”| nakaban

風景のレシピ #29 “オレンジ園” 1.一本の舗装された道を敷き、左右にオレンジの鉢を並べる。 2.道の奥に建物を横たえる。内部にたくさんの苗や園芸器具が眠っている様子を想像する。   ここは冬の間、果樹鉢を取り込む建物(コンサバトリーと呼ばれる)であり、幼苗を育てる温室も併設されている。 3.建物の向こう側に大きめの樹木をいくつか並べ、風に揺らす。 4.鉢植えにオレンジの実を実らせる。   完熟を狙う鳥の視線をスパイスのように振りかけ、できあがり。

風景のレシピ #28 “Extra Dry”| nakaban

風景のレシピ #28 “Extra Dry” 1.暗闇に窓を一つ開け、あらわれた広大な空間に乾いた空気を満たす。 2.砂山を盛り、よく日光にさらす。   山のふもとには人もまばらな寂しい街並みを並べる。 3.左右にバイパスを通し、働き者の中古車を放流する。 4.窓のすぐそばには今にも枯れそうな潅木を生やし、室内にはテーブルを置き、拾い集めた石を横一列に並べる。 5.テーブルの下には本を並べる。一冊だけ青い本を混ぜておく。

風景のレシピ #27 “小さな花の咲く道”| nakaban

風景のレシピ #27 “小さな花の咲く道” 1.遠くへと続く道を敷き、轍をつける。 2.草花を植えていく。 3.家々を控えめに配置する。 4.遠くには山々を連ねる。冷たい空気を発する湖の気配を漂わせる。 5.電柱を道に沿って数本置く、空にごうごうという風の声を響かせる。 6.未知の道を進む勇気が湧き起これば、できあがり。

風景のレシピ #26 “Green Fields”| nakaban

風景のレシピ #26 “Green Fields” 1.無限大に広がる緑野を敷き、霧がかった空でそっと抑える。 2.緑野に葉脈をはしらせるように道をつくる。 3.まばらに家を建てる。 4.あちこちの道を歩き、道沿いの畑を耕したり、木を植えたりする。 5.尖塔を一つ建て、頂点に銅製の旗を取り付ける。   塔と同等の高さから風景をゆったり眺める。   心が平べったくひろがれば、できあがり。