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風景のレシピ | nakaban

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私たちは本当には何を見ているのか――「旅と記憶」を主題に絵を描く画家のnakabanによる、風景画へのまったく新しいアプローチ。人が世界をどう見て、どう捉え、どう表現するかという…
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#絵画

風景のレシピ #28 “Extra Dry”| nakaban

風景のレシピ #28 “Extra Dry” 1.暗闇に窓を一つ開け、あらわれた広大な空間に乾いた空気を満たす。 2.砂山を盛り、よく日光にさらす。   山のふもとには人もまばらな寂しい街並みを並べる。 3.左右にバイパスを通し、働き者の中古車を放流する。 4.窓のすぐそばには今にも枯れそうな潅木を生やし、室内にはテーブルを置き、拾い集めた石を横一列に並べる。 5.テーブルの下には本を並べる。一冊だけ青い本を混ぜておく。

風景のレシピ #27 “小さな花の咲く道”| nakaban

風景のレシピ #27 “小さな花の咲く道” 1.遠くへと続く道を敷き、轍をつける。 2.草花を植えていく。 3.家々を控えめに配置する。 4.遠くには山々を連ねる。冷たい空気を発する湖の気配を漂わせる。 5.電柱を道に沿って数本置く、空にごうごうという風の声を響かせる。 6.未知の道を進む勇気が湧き起これば、できあがり。

風景のレシピ #26 “Green Fields”| nakaban

風景のレシピ #26 “Green Fields” 1.無限大に広がる緑野を敷き、霧がかった空でそっと抑える。 2.緑野に葉脈をはしらせるように道をつくる。 3.まばらに家を建てる。 4.あちこちの道を歩き、道沿いの畑を耕したり、木を植えたりする。 5.尖塔を一つ建て、頂点に銅製の旗を取り付ける。   塔と同等の高さから風景をゆったり眺める。   心が平べったくひろがれば、できあがり。

風景のレシピ #15 “捨てられたモノ”| nakaban

風景のレシピ #15 “捨てられたモノ” 1.建物の一角を切り取り、弱い光をふりかける。   傷だらけの壁と地面に よく年月を染み込ませる。 2.捨てられたモノを置く。   それは絵画、椅子、金管楽器等。   誰かが再び拾い上げ、持ち帰ることもある。 3.小惑星のように小さなゴミもばら撒く。   タバコの吸い殻、空き缶、ボタン、切符、トランプのカード等。 4.鳩を歩かせて、できあがり。

風景のレシピ #7“Symmetria”| nakaban

風景のレシピ#7 “Symmetria” 1.何もない部屋をつくり、素焼きのタイルを敷きつめる。 2.対称、相似、均整をテーマに部屋をつくる。   窓を二つ開け、中心に大きめのオブジェを配する。   テーブルや大きな象の彫刻等。この場合はピアノ。 3.両窓に鉢植えを置き、メキシコ絨毯を敷く。 4.好きな場所に大皿を置く、もしくは立てる。 5.左右の植物に水を与えて、できあがり。

風景のレシピ #6“木立と川と蜃気楼の町”| nakaban

風景のレシピ#6“木立と川と蜃気楼の町” 1.糸杉を並列に数本植える。緑の炎を点すように。 2.木立の向こうに川の水面をひろげる。   流れる泡や木の枝、水をつつく鳥、釣りに興ずるひと等を思い起こす。 3.その向こうに、輪郭もぼんやりとした町をつくる。   訪れたことも無く、これからもたどり着けないであろう、蜃気楼の町。 4.河岸に石の縁取りをつくり、そこに座ってみる。   川を眺める木々と同じ気持ちになるために。   町の方から届く鐘の音を聴く。 5.全体をローマ

風景のレシピ #5“通り”| nakaban

風景のレシピ#5“通り” 1.通りに面したアパートメントを建てる。   壁の漆喰は何度も塗り重ねる。 2.個性的な色で窓枠を塗る。   何処かから、乾いたラジオの音が聴こえる。   天気予報やサッカーの中継、歌謡曲… 3.手すりを作り、そこから通りを眺める。   界隈を歩くひとは誰もいないが、遠い靴音が壁に響く。 4.丸くてきれいな色の看板を取り付ける。   それはこの通りには場違いな存在。    5.すっかりこの通りの住人の気分(夕食のメニューを考えるとか)にな

風景のレシピ #4“夕景・手・オブジェ”| nakaban

風景のレシピ#4“夕景・手・オブジェ” 1.太陽は少し冷ましておき、大気中にもやを拡げ、ゆっくりとのばしていく。 2.家々を建て、日にさらす。   美術館らしき建物をひとつ、広場をひとつ。 3.視界に入ったオブジェ(*)を手に持ち空間にかざす。(*オブジェ:本作例ではフィラメントが切れた電球) 4.帰路に就く人々を配置する。 5.傾いた木々を配置しながら、空間のバランスをとり、できあがり。

風景のレシピ #3“松林の散歩者”| nakaban

風景のレシピ#3“松林の散歩者” 1.道に立ち、周りを見渡す。   一気に松の木々を生やす。   木の幹をうねらせる。(100年が一瞬のように松の木を成長させる) 2.松の香りを風に乗せる。 3.数段の浅い階段をつくる。   階段を登り切ったところで道行きを視界から消す。 4.われわれには知覚できない、植物たちの会話。   そのことを思いながら枝振りを整える。小花を咲かせる。 5.ふと、道を振り返る。同じ松林の道がどこまでも続いている。 6.枝間から降り注ぐ光を散

風景のレシピ #2“石と流木のある部屋”| nakaban

風景のレシピ#2“石と流木のある部屋” 1.流木の柄のコテを手に取り、四方の壁を塗って部屋をかたち作る。   部屋の中で手を打てば響くような、がらんとした空間。 2.部屋を見渡し、窓をひとつ開ける。 3.階段を作る。   階段の向こうにも光を差す。   窓と階段によって、停滞した時が流れ始めるのを確かめる。 4.窓を開け、部屋の空気と外の空気をよく混ぜる。 5.相応しい場所にテーブルなどの家具を置く。 6.水槽やガラス瓶をテーブルに並べる。   薄暗い室内の中でも