【連載】異界をつなぐエピグラフ 第1回|夢で手にした花のように|山本貴光
第1回 夢で手にした花のように1.読書は夢のごとく
本を読むのはどこか夢を見るのと似ている。読んでいるあいだは、たしかに文字を目にしている。でも、目にした文章がそのまま記憶に残ったりはしない。ものを読むとき、文字から文字へ、行から行へと目を動かしてゆく。そして車窓から見える景色が移り変わっていくように、いましがた目にしてきた文字や文章も、かたとき脳裡に像を結んだかと思えばまたほどけてどこかへ消えてゆく。代わりにただ「こういうことが書かれていた」という印象のようなものが残る