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エピグラフの本(仮)| 山本貴光・藤本なほ子

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ただいま創元社では『エピグラフの本』(仮題)を制作中です(2023年4月刊行予定)。出版に先行し、ウェブ連載を開始いたします。毎月15日は、編著者の山本貴光さんによる「異界をつな…
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2022年1月の記事一覧

【連載】エピグラフ旅日記 第1回|藤本なほ子

1.エピグラフの記憶 ──旅日記の序に代えて  このようなエピグラフをいつか、たしかに読んだのだと、ずっと思っていました。  右ページの下部、やや左寄りにこのエピグラフが置かれ、左ページから1段組みの本文が始まっています。右のページにはエピグラフのほかは何も印刷されていません。文字は小さめの明朝体で、圧着されたインクが黒々と濃く、もしかしたら活版印刷だったのかもしれません。机の上にひらかれたそのような2ページを見下ろしている視界を、いまもかなり鮮明に思い起こすことができま

【連載】異界をつなぐエピグラフ 第1回|夢で手にした花のように|山本貴光

第1回 夢で手にした花のように1.読書は夢のごとく  本を読むのはどこか夢を見るのと似ている。読んでいるあいだは、たしかに文字を目にしている。でも、目にした文章がそのまま記憶に残ったりはしない。ものを読むとき、文字から文字へ、行から行へと目を動かしてゆく。そして車窓から見える景色が移り変わっていくように、いましがた目にしてきた文字や文章も、かたとき脳裡に像を結んだかと思えばまたほどけてどこかへ消えてゆく。代わりにただ「こういうことが書かれていた」という印象のようなものが残る