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ソファに連なる大輪の花、我が家3兄弟

ファの背面越しに見える、寄りそう頭ふたつ。かじったように間があき、ぽんと飛んでちょっと離れたところにもうひと頭。週末、我が家の3兄弟の朝は早い。ソファに並ぶフォーメーションはころころと変わる。ここのところ、長男と次男の仲が、とりわけ調子がいいらしい。

3兄弟が大いに占領するソファは、当時はまだ恋人だった妻と出かけたときに見つけて、一目惚れしたものだった。

「結婚したらここのソファを買おう」。そのブランドのソファを遂に我が家に迎え入れたのは、それから10年が経ってからだ。

・・・

新生活でなにかとバタバタとし続け、長男が生まれて「なにかこぼしたり、飛び跳ねたりしてもあぶない…なんて心配をしてしまうかも」と一度そのソファを見送った。そのあと、2年おきに次男、三男が加わって我が家には底なしのエネルギーが充満。「よし、新居を立ててからにしよう!」ともう少しだけ伸ばすつもりが、気づけば早10年というところだ。家を建てる土地を探すのにも時間がかかり、途中からは「もうここまで待ったんだから」と、憧れのソファを迎え入れるならベストな状況にせねばという気持ちもでてきた。年々、だんだんとハードルがあがっていった。

やっとショールームでの現物の吟味まで辿り着いたときには、少なくとも3回は足を運んだ気がする。目を止めたNewSugar Maximum Comfortは「職人の技術と叡智の最高傑作」だという説明を聞き、それこそ待った10年にふさわしい、と心が踊り、それに決めたのだった。

長男、次男、三男。いまではもう中学1年生、小学5年生、小学3年生の立派な男3兄弟。3人とも野球が大好きなスポーツ少年だ。

親にとっては台風のような夏休み期間は、家でも「野球三昧」だった。昼はテレビで甲子園をみて、夜はプロ野球、といった具合。最近は、次男と三男がプロ野球チップスについてくる選手カードをソファのうえに並べて、ドラフトやトレードの真似事をし、“最強チーム”をつくって競っている。

練習があれば外に野球をしにいき、帰ったらすぐにシャワーを浴びてソファにダイブ。子どもたちが一番、思い切りよくソファを使っている。幼児のようになにかをふいにバシャーっとこぼされる心配などはもうないが、あの満ち足りることを知らない成長期の体を、よくぞ3つも許容してくれているな、と思う。時々、次男が三男にソファのそばでプロレスを持ちかけているのを見るとさすがにハラハラする。ソファが届いた当日やその数日は、なんだかもったいなくて誰もなかなか座れずに、お笑い芸人よろしく「どうぞ、どうぞ」と譲りあっていたのに…。

つくってもつくっても夕飯の皿が「からっ」と空いてしまう頃、子どもたちの存在感がさらに増していることもあって、同じソファブランドでロングのソファをもう一つ購入した。

うちはとにかく賑やかな家族である、と思う。週末には家族5人揃って食事をするのだが、次男の呼び掛けで必ず「笑点」のものまねがはじまる。タイプでいうと、長男が三遊亭円楽、次男が春風亭昇太、三男が林家木久扇。見た目も性格もバラバラの3人の個性は、この「食卓笑点」にもよくでている。全員が自分の話を聞いて欲しいために負けじと声を張り、最後の方は大笑いと混ざってとにかくうるさい。間違いなく外まで響いていると思う。ご近所さんの理解があってよかったよね、と妻と私で顔を見合わせる食後だ。

時々、一つのソファに3人、きゅっと集まって座っている。もう一つのロングのソファがあいているのに、だ。「まるでだんご3兄弟だな、誰かそっちのソファに行けばいいのに」と言えば、「くっつきたいときもあるんだよ、父さんはわかってないなあ」と長男が言う。

団子というよりは花かもしれない。もちろん華ではなく、花。わんぱく小僧たちは「え〜花ァ?」と少し憤慨するかもしれないが。季節を問わず、雨の日も風の日も、惜しむことなくいつでも大咲きの花だ。枯れることなく我が家をあかるくする、三連の大輪。

いよいよ食欲の秋も本番だ。この大輪たちはこの期間にまたどれだけ伸びゆくのか、わざと呆れた顔をして、妻ともう一度視線を交わす。


【物語に登場したソファ】
NewSugar Maximum Comfort 3人掛け
Decibel Traditional ワイド3人掛け


Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)

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