データサイエンティストとしての生き方

前投稿で書いたように、紆余曲折を経て「データサイエンティスト」になった私であるが、今年、転職することになるとは思っていなかった。

大きなIT系の会社で自由な働き方も出来る環境。大きいがゆえの面倒さもあれば、大きいからこそできることもあり、全てが満足いく環境はそうそうないだろうとは思っていた。ただ個人的には、数百人規模の組織で働いてきた期間が長いので、数千人単位の組織よりも、もう少し顔と名前と特性がわかるこぢんまりした環境の方が、自分の持ち味は出せるかなとは思っていた。

すぐに移るつもりではなかった私が、なぜ転職するに至ったか。それはデータサイエンティストに求められている役割が、変化してきている兆しを感じたからだ。

データサイエンティスト像の変化の兆し

2019年にいくつか「うちで働いてみませんか?」と直接のお誘いやメールを受けた。そのどれもが「ビジネスサイドとデータサイエンスをつなぐマインドを持ったデータ分析者」を探していた。業種が全て違うのに、募集要件がかなり近しくて驚いた。

私が外部講演で時々話すネタとして、データサイエンティスト協会の「スキルチェックリスト」がある。

データサイエンティストに求められるスキルセット(赤字部分は私の加筆)

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ビジネス力、データサイエンス、データエンジニアリング。この3つの要素が必要で、いずれの項目にも数十のスキルが定義されている。この3つを全てハイレベルで出来ればそれに越したことはないのだが、それは一部のスーパーマンだ。そこで3つのうちどこかの◯に軸足を置いて、他の◯も理解して会話できるのが望ましいとされている。

私の場合、エンジニア出身ではなく、エンジニアリングでできるのはSQLでのデータ抽出とデータセット作成。サイエンス要素はマーケティングリサーチで出てくる多変量解析系。どちらかといえば、企画サイドや営業サイド、その先の顧客企業の要望を聞いて、データでどう実現していくかを考えたり、実現するためのプロジェクトを引っ張っていく方が向いていて楽しめた。

データの時代になり、マーケティングやWebサービスの企画担当者・営業担当者は、「データ」をネタに自分の提案を進めていかなければならなくなった。でも元々、データ分析やデータベースを触る経験がない彼らは、そうした業務が発生すると大抵はデータ関連の部署に助けを求める。その時に、データの素養が足りないが故に、本来の趣旨とは違う依頼をしてしまったり、受け取った集計結果・分析結果を勘違いして伝えてしまうことが発生するのだ。一方で、データ関連の部署も、「わかってない人からの相談は嫌だ(手間がかかるし)」「要件を固めて作業ベースで依頼してくれ(あとは知らん)」という態度を取ってしまうこともある。また説明も専門的すぎて意図が伝わらないことも多々ある。そこに大きな気持ちの溝が生まれ、組織の溝になり、データ利活用が進まない。それでは困るので、データに強いビジネスサイド寄りの人が、間を取り持って併走する。これがビジネスサイドとデータをつなぐ役割だ。

しかし、世の中一般では、データサイエンティストはサイエンス&エンジニアリングが強い人のことを想像する。そしてデータサイエンティストの募集要項といえば、数学ができてアルゴリズムが作れて、プログラムが書ける人をお金を積んででも募集する時代だったのだ。

そのため、自分自身では「データサイエンティスト」と名乗るのが小っ恥ずかしく、自己紹介するときには、「文系データアナリスト」と言ってみたり、「ビジネスサイドとデータをつなぐ翻訳家・通訳」と言ったりしていた。若干、自虐的に。

それが、である。むしろ「ビジネスとデータの間をつなぐ翻訳・通訳」を積極的にやってほしいと言われたのである。

いくつかの会社と話して見ると、その内容も驚くほど共通していた。

・大学では次々とデータサイエンス学部ができ、サイエンスとエンジニアリングに強い学生が沢山就職市場に出てくることが予測される
・しかし彼らはビジネス経験が足りない。データに強くても、ビジネスの視点(ユーザー視点、マーケット視点、事業視点など)を持って提案できる人材に育てていく必要がある
・担当している事業の問題発見と問題定義を行い、データの力を使って解決していけることが大事である

ビジネスサイドの視点に立って、問題発見と定義を一緒にやりながらデータを使った解決策を主導していくことが大事だと考える企業が出てきており、「データとビジネス課題の翻訳・通訳マインド」を持っているデータ人材の募集を始めた会社が出てきたのだ。この視点というのは、市場理解、事業構造、事業課題の理解はもちろん、ビジネスサイドの担当者の気持ちに寄り添い(多くの場合、彼らは評価に繋がる行動やデータを求める)ながら、状況に即して最適な意思決定をサポートすることも含まれる。このような企業は、募集の際に提示する「期待する役割(Job Description)」が非常に明確で、自社に必要な「データサイエンティスト」の定義が内部でできていることもうかがえた。

自分自身では、データ要素に加えて、翻訳と通訳で自分なりの価値を出すことでしか力を発揮できないと思っていた。むしろ翻訳・通訳者が間に立って様々なことを決めていかないと何も進まないから、その役目をやっていただけだった。でもその役目自体が職種になる時代になったのならば、徹底的に極める挑戦をしてみても良いかもしれない。データを社会に役立てるために使うには、使う側がもっと賢く、適切に判断して使える仕組みにしないといけない。そして、私はビジョンに心から共感する会社に行くことを決めた。

折しも、データサイエンティスト協会がスキルチェックリストのアップデート版を用意しようとしており、それも事業ドメインに即したスキルを明確化する方向性になっている。

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例えば、マーケティング業界ではこんな感じだ。明らかに私はコレだ。

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これを読んでいて「自社にはデータ人材がいない」と嘆いている企業の方がいるかもしれない。その方には、自社のビジネスドメインでどんなデータ関連のスキルが必要なのか、期待する役割は何か、どんなマインドを持っている人にその役割を担って欲しいのか。それを言語化すると良いのではないだろうか。参考までにリンクを貼る。

データサイエンティスト協会 https://www.datascientist.or.jp/
スキルチェックリストVer3プレスリリース https://www.datascientist.or.jp/common/docs/PR_skillcheck_ver3.00.pdf
参考資料 
http://www.datascientist.or.jp/symp/2019/pdf/1115-1155_skill.pdf

データサイエンティストを目指す学生に向けて

仕事柄、時々大学にお邪魔して、仕事紹介をすることがある。その時に先生方に決まって言われるのが、「ビジネスの現場でどのような仕事をしているのか、現場感を伝えてほしい」という要望である。

そこでいつもスキルセットの話をして、「あなたはどこに軸足を置いたデータサイエンティストになりたいですか?」と投げかけをすることにしている。

学生時代から、仕事のイメージを持ちながら勉強するのは良いことだ。少なくとも就職活動が見えてから現実的に考えるより絶対良い(私を反面教師にしよう)。

先日、今の学生は、学生生活とバイトの傍ら、インターンを2つも3つも経験するのがスタンダードだと聞いた。それが就職活動で役立つから、だそうだ。

それを踏まえると、データサイエンス学部の学生は、データにこだわらず様々な業界や職種のビジネスサイドに触れられるインターンをしたらどうだろうか。ビジネス課題×データをテーマにしたインターンが本当は理想的ではあるが、そのようなインターンシッププログラムを組み立てられる会社はあまり多くない。その業界ではどんな課題があり、どんなデータを見てビジネス判断をしているのか、自分がそのデータを見てインサイトを発見して、面白い!と情熱が傾けられそうか。いくつか興味を持てる業界と職種を見つけられると、選択肢が広がるのではないかと思う。

データはビジネス上の課題解決を行うための手段にすぎない。自分がいるビジネスドメインで何を解決したら良いのか、問題発見と問題定義から主導できるデータサイエンティストがもっともっと増えて欲しいなと思う。そして、私はそんなデータサイエンティストを増やしていくために、新しい仕事に全力で邁進していきたい。