ブレている方向性。追い込まれたホワイト。もう一度立ち返るべき今季の目標。

・3連戦を1勝1分1敗で終える

 開幕5戦をわずか1勝と低調なスタートを切ったヴェルディ。新指揮官、ホワイトへの風当たりも強まる中、真価が問われる春の3連戦に臨んだ。
 3連戦の最初は柏レイソルをホームに迎えた1戦。これまで目指してきたサッカーを捨て、柏対策のサッカーを敷き、クリーンシートでの勝利を達成した。明らかに個の質で劣るヴェルディが組織を整備することで収めた勝利は今後のヴェルディの自信になるのではと感じさせたゲームだった。
 しかし、この勝利は悪い方向にチームを導くことになってしまう。続く水戸戦では内容面では乏しいゲームとなり、スコアレスドロー。これまでホワイトに対しては中立な目で見ていた筆者でさえもホワイトに疑問を感じさせる内容であった。
 中3日で立て続けに来る連戦ではこの悪い流れを払拭させることはできないのか、山形戦では今季のワーストゲームを披露する。小池純輝のゴールで幸先よく先制点を奪うことには成功するも60分に同点にされ、アディショナルタイム直前に逆転被弾を浴び、試合終了。3連戦を最悪な流れで終えてしまった。

・これまでの5戦を振り返る

 これまでの5戦で筆者が読み取った今季のサッカーの理想と現在地を整理しておく。
 第1節は町田スペシャルを行うも、2節以降は自分たちのサッカーの片鱗を見せ始める。攻撃では「幅を使う」「ハーフスペース」「大外からのクロス」のロティーナ時代のキーワードに加え、「スピード感」「コンビネーション」の融合を目指す。守備においては「ボールを奪う」をテーマにしている。しかし、攻撃では幅を取る選手やコンビネーションを使う局面が少ないことであり、ビルドアップにおけるボールの前進ができないことが大きな問題であった。守備においてはとりどころの共有、インテンシティ不足、守備の忍耐強さが課題となっていた。

・柏対策を敷いたレイソル戦

 ホワイトは理想と現在地を把握し、個の質では確実に劣る相手を天秤にかけた末に第1節と同様にリアクションサッカーを選択した。ホワイトはロティーナとは違い、時にリアリスティックな一面を見せることがある。
 具体的にとった策として、まずボールを前から奪いに行くことを諦め、4-4-2の守備陣形をミドルゾーンまで撤退した。そして、今までは前線は人を捕まえに行くも後ろが連動できないことが課題であったが、この試合においてはある程度割り切ったゾーン守備に切り替えた。たとえ押し込まれても大外レーンは捨て、中央を固めることを重視し、クロスを跳ね返し続けた。その守り方はどこか前任者のゾーン守備を思い出させた。攻撃においてもボールを保持して前進させたいのだが、プレッシャーをかけられたらボールを裏に蹴ることも厭わなかった。
 このような現時点での課題を覆い隠すような、その理想とは程遠いサッカーを披露した。しかし、拙いながらもJ1レベルの戦力を持つ相手に見事な勝利を収めた。その大きな要因は自分たちのサッカーの方向性を曲がりなりにも全員で共有し、11人が1つの生き物のように動くことができていたからに他ならない。指揮官が後半の半ばで5-4-1に変更し守り切るというメッセージも選手達で共有することができていた。まさに、チームとして同じ方向性を向くことで1+1が3にも4にもなることを証明した試合でもあろう。筆者としてはこのチームの方向性を共有することで普段以上の力が出るという“成功体験”をチームの今後の糧にし、内容については改善してほしかった。しかし、結果として、この勝利はチームに悪影響を及ぼすことになってしまう。

・脳裏に焼き付いた間違った“成功体験”

 迎えた水戸戦。筆者は前節の“成功体験”をどう活かすのかに注目して見ていた。しかし、蓋を開けると思わぬサッカーが繰り広げられていた。
 それこそ、まさに前節の柏戦と同じサッカーである。あろうことか、柏戦では90分間意識の共有ができたことのみを収穫とすべきで、内容は手放しで賞賛できるものではない。ところが、あろうことか、内容までそのままの内容で試合に挑んでしまったのである。結果的に、大外レーンを捨てる守備の仕方で特に右サイドの守備は浅野のスピード、志知のクロスに完全に後手を踏んでいた。
 さらに、3連戦の最後のゲームとなる山形戦でもヴェルディはこの流れを止められない。それぞれが一生懸命には動いているものの狂った歯車はそう簡単には止まらない。点と点が線に繋がってこないのだ。しかも、監督が内容を悪くないという始末。シュートは3試合をトータルしても10本に満たないにも関わらず。今後ヴェルディはどこに向かっていくのだろう。
 今シーズン、監督が代わり、組織的だけではなく、個にもある程度の比重をかけるサッカーを目指した。しかし、結果が欲しい柏戦では柏対策として、組織に比重をかけた。組織的な守備と割り切った攻撃。この2つに、意識の共有というスパイスが加わり、個では勝てない相手に対しても勝てることができた。しかし、それはあくまで一時的であったはずだ。そこはヴェルディの理想とは正反対の場所なのだ。
 個から組織に比重をかけるための戦術変更が皮肉にも個人の判断に委ねられるサッカーと化し、組織も個もチーム全体を混乱に貶めているのである。

・まとめ

 確かに、現時点のベストのサッカーではあったのかもしれない。しかし、そのサッカーは課題から目を背けただけのあくまで“応急処置”のようなサッカー。応急処置にはいずれ限界が来る。そして、再び自分たちのサッカーと真剣に向き合わなくてはならない時が来た。このことは選手、監督、サポーター全てが分かっているはずだ。
 はっきり言ってホワイトには後がなくなっていると言わざるを得ない。ホワイトは目先の勝つことではなく、落ち着いて長期的なチーム作りを行う必要がある。そこに、明確なメソッドがあり、哲学があれば少なくとも筆者は批判を行わないつもりだ。その戦術的メッセージを読み取り、記事化していくことを私もしていきたいのだ。
 追い込まれた崖っぷちでホワイトはチームに何を授けるのか。琉球戦次第では本当にホワイトの首が飛ぶのかもしれない。