鬼神の檻(レビュー/読書感想文)
鬼神の檻(西式豊)
を読みました。新刊です。
突然ですが、皆さんは文庫巻末によくある「解説」を本編より先に読みますか? それとも本編の読了後に読みますか?
私は先に読むことが多いです。ちなみに本編と同じくらい解説を読むことも好きです。そんな人への配慮なのでしょう。特にミステリー小説の解説ではネタバラシに繋がる記述のある場合は大抵その手前で[注意]を促してくれています。「この解説は本編読了後にお読みください」と。親切ですね。
何を言いたかったかと言いますと、本作「鬼神の檻」に関することです。
本作は新刊ですが文庫書き下ろしであり、評論家の千街晶之さんによる解説も巻末に収録されています。
これから私の書くことがネタバラシになるかどうかを判断するうえで、本作の解説内(特に[注意]は附されていません)で触れられている情報についてはそれを私がここで持ち出しても致命的なネタバラシには当たらないだろうという線引きを初めにしておきたかったのです。
まわりくどかったでしょうか。すみません。
とはいえ、一切の先入観を持たずに読書したいというかたはこれより先は読まないでください。
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では――。
本作は、直球ド真ん中のミステリー小説ではありません(!)。
まさにジャンルオーバーのキメラ的な作品なのですが、しいて言うならミステリー小説の皮をかぶった伝奇SF小説にあたるのだと思います。
あらすじは上に引用したとおりですが、50年に一度顕現する貴神様と呼ばれる超越的な存在に翻弄される大正・昭和・令和の三世代、三人の女性主人公を描く物語です。
不思議な読み味のする作品です。大正時代を舞台にする第一部はアクションホラー、昭和を描く第二部は横溝正史的探偵小説の色合いが濃く、そして現代・令和に至る第三部ではそれまでの謎が思いも寄らない方向に集約されていきます。
ミステリー界隈で、フーダニット(誰が犯人なのか)、ハウダニット(不可能犯罪がどう為されたか)、ホワイダニット(動機の謎)といった読者の代表的な関心を指す用語がありますが、それらに並んでワットダニット(そもそも何が起こっているのか/起こったのか)も近年しばしば聞かれるようになりました。
本作を仮にパートごとに見るのでなく、全体の趣向をミステリー的に表すのであればまさにワットダニットが適当なのではないかと私は思いました。その高いリーダビリティも相まって、どこに連れて行かれているのかわからないジェットコースターさながらのストーリー展開に読者はきっと翻弄されるはずです。
本作を読書中、結末に近くなるうち、「この読み味(舞台設定や雰囲気にあらず)は何かに似ているな」と思い浮かんだのが、乾くるみさんの某・初期作品でした。乾くるみさんの代表作といえば映像化もされた「イニシエーション・ラブ」が有名ですね。
この某作品は、刊行当時、ミステリー作品であると見せかけて実はそうでなかったという――ある意味のちゃぶ台返しによって読者にカタルシスを与えると同時に賛否の声をも呼びました。「鬼神の檻」は似通った構造を持ちながら、一方で、解説において既に言及がなされていることからも、その構造的な特徴をことさら読者に隠していないようにも思えるのです。
ちなみにその某作品と「鬼神の檻」は、これは偶然でしょうが、ストーリーの展開上、生物学的な性が強調されているという点でも共通点を見出だせます。
乾くるみさんの某作品が刊行された平成の当時と、「鬼神の檻」が刊行された令和の今日を比較すると、時代を経てジャンルオーバーな作品を違和感なく受け入れる読者側の素地が形成されたという違いがあるかもしれません。近年の特殊設定ミステリーの流行ともけっして無関係では無さそうです。
良い意味で、ジャンルに拘らず、そして、ジャンルに囚われず。物語は面白ければそれで良い。本作「鬼神の檻」はそんな現代の読者の嗜好にうってつけの作品です。是非。
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