渋沢栄一の「道徳経済合一主義」から岸田政権の「新しい資本主義」へ
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渋沢栄一の「道徳経済合一主義」から岸田政権の「新しい資本主義」へ

新日本パブリック・アフェアーズ

日本の資本主義の父と言われる渋沢栄一を主人公にするNHK大河ドラマ「青天を衝け」がまもなく最終回を迎えようとしています。こうした中、我が国では10月に誕生した岸田新政権が、組閣早々の衆議院総選挙という洗礼を受け多少の返り血を浴びながらも政権運営を進めています。岸田政権を色づけるカラーのひとつが「新しい資本主義」であることは間違いないでしょう。

 

1.岸田政権「新しい資本主義」の目指すもの

 

岸田総理は、最初の所信表明演説において以下のように述べています。

 

私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。新自由主義的な政策については、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘をされています。世界では、健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく。そうした、新しい時代の資本主義経済を模索する動きが始まっています。今こそ、わが国も、新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか。
企業が、長期的な視点に立って、株主だけではなく、従業員も、取引先も恩恵が受けられる「三方良し」の経営を行うことが重要です。非財務情報開示の充実、四半期開示の見直しなど、そのための環境整備、進めてまいります。

 

この岸田政権の「新しい資本主義」に似た動きは世界各国でひとつのトレンド、より長期的な視点で、持続可能性=サステナビリティに焦点を当てて新たな投資、そして経済成長に繋げようという潮流、と捉えることもできますが、いずれにしても、岸田総理はこのコンセプトを日本から世界に発信し、世界的なこの動きをリードしていく考えを示しています。

 

2.グローバライゼーションの巻き戻しが始まっている世界経済

 

世界経済の急速なグローバル化が進展し、現在はその巻き戻しが始まろうとしている状況と言えましょう。グローバライゼーションの本質は「企業の多国籍化」であり、「経済ルールの新自由主義化」です。そんな中で、自由競争による弱肉強食の風潮が強まり、先進諸国で中間層が弱まってきた中で起きているのがBrexitでありアメリカファーストを掲げるトランプ政権の誕生に象徴される、各国経済の内向化、ブロック化というトレンドで、それはコロナ禍により更に加速しているということができます。

 

グローバライゼーションの過程でマーケットの力、つまり株主の力が非常に強まり、株主配当は増加の一途を辿り、雇用は不安定化し経営は短期的な利益を追い求めるようになりました。「新自由主義は人類を幸せにしない」具体例ということができるでしょう。

 

そして、グローバライゼーションの総本山ともいえる、国際的な金融資本サイドにも変化が表れてきています。世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEOであるラリー・フィンク(Larry Fink)さんが2018年1月、投資対象企業全てのCEOに宛てた書簡において、「長期的な利益を達成するために広い範囲のステークホルダーの利益を追求すべき」旨を明記しましたが、これはもはや有名な話、と言って差支えないのではないでしょうか。

 

3.「新しい資本主義」の潮流 〜公益資本主義と渋沢栄一〜

 

そして、この岸田政権の「新しい資本主義」の源流は、事業家、ベンチャーキャピタリスト、考古学者など様々な肩書を持つ原丈人(はらじょうじ)さんの提唱する「公益資本主義」にあるのは間違いありません。この「公益資本主義」の信奉者は与野党に少なからず存在するようで、10年以上前から断続的に、時として超党派で勉強会、研究会や議員連盟という形で永田町で議論の俎上に上ってきました(Web情報を見る限り、岸田総理を最初に原さんに引き合わせたのは西田昌司参議院議員と二之湯武史参議院議員(当時)のようです)。

 

そして、岸田政権の新しい資本主義の源流を更に遡ると、行きつく先は、近年再評価され、本年の大河ドラマの主人公になった日本の資本主義の父・渋沢栄一と言えるでしょう。今から100 年前に渋沢栄一によって実践された圧倒的な業績がやはりその「公益資本主義」につながるコンセプトを体現したものであったと考えられます。

 

渋沢は、「仁義道徳と生産殖利とはまったく合本するものである」という「道徳経済合一主義」≒「公益資本主義」を自ら実践し、日本資本主義の形成にあたり、
黎明期に大きく貢献しました。大河ドラマではやや駆け足で描かれていましたが、明治以降の我が国の資本主義の発展は渋沢抜きに考えられない、という点においては異論はないでしょう。

 

ビジネスには、必ず道徳的な側面や社会のために貢献するという公益を、常に考える必要がある。一方で、世の中のためという社会事業も、ビジネス的な観点がなければ持続できない、という渋沢の考え方は、当世はやるSDGsの先駆けとも評価でき、むしろ日本としては「今更欧米にSDGsなんて言われなくても我々がやってきたことですよ」と言って然るべきものなのかもしれません。

 

 

4.「新しい資本主義」の行方

 

さて、岸田政権の「新しい資本主義」ですが、実現に向けて内閣に設置された「新しい資本主義実現会議」(以下「実現会議」)の有識者構成員として、渋沢翁の玄孫である渋沢健氏を迎えていることからも、渋沢栄一とその道徳経済合一主義を意識していることは明白です。全てを市場に任せるのではなく、官民が連携し、新しい時代の経済を創る必要があるというこの「新しい資本主義」は、株価の騰落に大きく左右される層、あるいは新自由主義的な思考を持つ層や某経済紙などから「社会主義だ」、「規制改革を捨てるのか」、「『官僚たちの夏』再びか」などと揶揄されてきています。SDGsのバッヂを着けているような方までもその「新しい資本主義」批判の急先鋒だったりすることも間々ありますが、それにはなんともモヤモヤした気持ちにさせられます。

 

一方で、実現会議が2021年11月8日に行った「緊急提言」に目を凝らしてみると、前文には上記の岸田総理の答弁そのままの力強い記述はあるものの、全体的にこれまでの成長戦略の踏襲という感じで残念ながら公益資本主義の色が濃いようには見えません。さらに、それこそ前政権の成長戦略の残滓なのかもしれませんが、「SPAC(特別買収目的会社)制度の検討」など、しれっと極めて金融資本主義的なメニューも盛り込まれていますので、今後の議論の推移を注意深く見守る必要がありそうです。岸田総理は初志貫徹、果たして「青天を衝け」るのでしょうか。要注目です。


さて、もしかすると本投稿をもって年内の更新は(恐らく)最後になるかもしれません。少しでも本年中の一連の投稿をご覧いただいた皆様にあらためて感謝申し上げるとともに、明年もぼちぼち投稿していきますのでよろしければまたご覧いただけますと幸いです。皆様どうぞ良いお年をお迎え下さい。

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