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お茶の間フィギュアスケートファンの話。

グランプリシリーズだファイナルだ、とフィギュアスケートの主要大会がテレビで放送される時期ですね。
私はフィギュアをテレビで見るのは好きですが、試合やアイスショーを観に行くほど気合いの入ったファンではなくリンクに行った事すらありません(これは出身地である沖縄にスケートリンクが1ヶ所しかない事もあると思いますが)。
そんなお茶の間フィギュアファンである私ですが、好きな選手やプログラムなどについて語ろうと思います。

2007年の世界選手権

昔から冬のオリンピックと言えばフィギュアだと思っていたのですが、さすがに20年くらい前になるとはっきりは憶えていません。
その中でも、ソルトレイクのヤグディン『仮面の男』やトリノのジェーニャ(エフゲニー)・プルシェンコの『トスカ(エキシビション)』は印象に残っています。

そんな私が明確に「この選手が好き!」とハマったのは、2007年の世界選手権です。当時16歳だった女子シングルのキム・ヨナちゃん、そして男子シングルのトマシュ・ベルネルの2人でした。

すっかり大人の女性になった彼女を「ちゃん」付けで呼ぶのは失礼なのかも知れませんが、勝手に「ヨナちゃん」と呼ばせて頂いています。
最初に見た時は、ショートプログラムの『ロクサーヌのタンゴ』がとても素敵だと感じました。妖艶さと少女の透明な美しさを表現していたのはもちろん、ジャンプも素晴らしかったのです。
当時、シニアの女子でも3回転3回転のコンビネーションジャンプを跳ぶ選手は少なかったのですが、ヨナちゃんは基礎点の高い3フリップ3トウループを高い確率で跳んでいました。時代はこうして変わるのだな、と素人なりに思ったものです。

そして、トマシュ。彼のフリー『レクイエム・フォー・ドリーム』は素晴らしいものでした。何かを表現する動きやダンサブルな振り付けがとても上手く、光を求めながら闇へと向かってしまう人々の物語を見せてくれました。
その中で彼は4回転トウループを2回跳んだのですが、それが人々の度肝を抜いたのです。フリーに4回転ジャンプを2回入れる、それが珍しかった時代でした(確かこの時のトマシュが初めてじゃなかったかな?)。

この2人を見ていたい。
特に、ヨナちゃんの成長を見たい。
フィギュアはもちろんの事、スポーツを見ていてそう思ったのは初めてでした。

ちなみに、ヨナちゃんの功績の1つとして「ブライアン・オーサーにコーチの道を歩ませた事」があると私は密かに思っています。
プロスケーターだったブライアンにヨナちゃんとお母様がコーチをお願いしなかったら、ヨナちゃんが彼の元でオリンピック女王にならなかったら、彼が羽生結弦を始めとする名選手達をクリケットで育てる事はなかったでしょう。
著書『チームブライアン』を読んでみると、彼も一番弟子である彼女には特別な想いを持っているようです。ブライアンも若くてスリムだったんですよ、ヨナちゃんを教えていた頃は。今も格好良いですけどね。

バンクーバーオリンピック

ヨナちゃんはフィギュアスケーターとしても女性としても成長して行きますが、バンクーバー前の世界選手権で初優勝したシーズンは圧倒される程に強くなりました。
その前のシーズンまでは細く可憐な「女の子」だった彼女は、体型の変化を乗り切って美しい「女性」となり、メイクや演じるプログラムも変わります。特にショート『死の舞踏』は、甦った死者の踊りを圧倒的な迫力で表現し尽くしたものでした。
女王となったヨナちゃんは日本人選手ファンから叩かれる事も増えましたが(誰のファンとは言えない……)、表彰台で涙を浮かべていた彼女は確かに輝いていました。

そして、ヨナちゃんにとって初めてのオリンピック、バンクーバー。このシーズンから彼女は、当時誰も跳ばなかった3ルッツ3トウループのコンビネーションジャンプを取り入れました。
勝負のプログラムは、ショートが「007」、フリーがガーシュウィンのピアノ曲でした。ボンドガールを強く美しくコケティッシュに演じた007は、細かいところまで工夫のある振り付けが話題になりました。一方のガーシュウィンは音に乗り演じるという彼女にしては珍しいものでしたが、しなやかに流れるような演技で完璧に演じ切りました。
フリーを終えた時のガッツポーズ、表彰台に乗った時の誇らしげな姿。金メダリストになったヨナちゃんは「無敵の女王」となったのです。

ソチオリンピックとそれぞれの引退

バンクーバーの後、ヨナちゃんはあまり試合に出られない日々を過ごしていました。それが地元韓国へのオリンピック誘致などのためだとわかっていても、ファンにとっては寂しいものでした。
その中でも2011年の世界選手権フリーで演じられた『オマージュ・トゥ・コリア』はとても素晴らしいプログラムだと思っています。朝鮮半島に伝わる歌「アリラン」をベースに編まれた音楽、墨絵をイメージしたという衣装は、彼女をモノクロの世界で飛ぶ鳥のように感じさせてくれました。どんなに過酷な運命をたどろうとも、凛として空を舞う鳥でした。

ソチオリンピックを翌年に控えた世界選手権。
1年間の空白を経て登場したヨナちゃんは、フリー『レ・ミゼラブル』で圧倒的な演技を見せます。物語の舞台に合ったグレーのドレス、それにマッチするように黒髪を茶色く染めて。
メインで使われているのは、ミュージカルでエポニーヌというキャラクターが歌う曲です。華やかに目立つヒロインではない、そんなエポニーヌをクローズアップしたのにはヨナちゃんと振り付け師デイビット・ウィルソンの想いがあったからでしょう。
彼女は2度目の優勝を決め、オリンピックの枠を1人で3枠獲得しました。後輩達を連れてソチへ行くことが出来たのです。

この頃、韓国では世界で活躍するフィギュア選手が増え始めていました。ヨナちゃんがフィギュアブームを作り、賞金を後輩達のために寄付し、育てて来た選手達です。
ヨナちゃんと共にソチオリンピックに出場が決まったパク・ソヨンちゃん、キム・ヘジンちゃんもそういった選手でした。
その流れは現在も続き、ヨナちゃんに憧れてフィギュアを始め世界で闘うようになった選手達は「ヨナ・キッズ」と呼ばれているそうです。

そして、ヨナちゃんはソチオリンピックでの引退を発表します。
そんな彼女が選んだ現役最後のプログラムは、ショート『悲しみのクラウン』、フリー『アディオス・ノニーノ』でした。特にアディオス・ノニーノはファンの間で「ノーミスでアディオス(さよなら)するなんて……」と囁かれる伝説のプログラムになりました。
銀メダリストとなったヨナちゃんは、爽やかに闘いの場を去ったのです。

一方のトマシュですが、彼は数年間4回転ジャンプに苦しんでいました。元々技術も表現力も持ち合わせている選手です、とある試合で実況アナウンサーが「世界一と称されるステップ!」と発言したため某日本人選手のファンから「世界一のステップは◯◯だ!」と抗議が殺到したという逸話もあるくらいです(やっぱり誰のファンとは言えない……)。
それでも時代は変わり、4回転ジャンプを跳べないと上位に行けない事はわかっていたのでしょう。だからこそこだわり続けたのです。

私はソチで見たフリー『ゴッドファーザー』が忘れられません。順位こそ良くなかったものの、その演技からは映画の世界観が滲み出ていました。
墓に供えられた百合を手に取り復讐を誓う姿。そのような場面があるかはわからないのですが、はっきりと見えたのです。自分でも不思議なくらいに。
そしてトマシュは、日本での世界選手権を最後に引退しました。

平昌オリンピックを経て

昨年、ついにヨナちゃん達が開催に尽力した平昌オリンピックが開催されました。最後の聖火ランナーは予想通り彼女でしたが、現役時代と変わらず美しかったです。
フィギュアではヨナちゃんの後輩達が躍動しました。シングルの女子ではチェ・ダビンちゃんとキム・ハヌルちゃん、男子では当時シニアデビューしたばかりでブライアンの弟子であるチャ・ジュンファン君が出場しました。

そして、個人的に嬉しかったのは、リポーターとして韓国を訪れていたトマシュがヨナちゃんとの写真を自身のインスタグラムに上げてくれていた事でした。見つけた時は叫びそうになったくらいテンション上がりました(叫べなかったので転げ回りました)。
大好きだった選手2人のツーショットがこんな形で見られるなんて、何がどうなるかわからないものですね。

現在は次の北京オリンピックを目指して、新たな選手が次々と輝き始めています。
ジャンプだけでなく踊れて表現力も持ち合わせている選手が好きな私にとって、ネイサン・チェンの登場は刺激的でした。『海賊』で見せたバレエダンサーのような佇まい、『ネメシス』や『キャラバン』でのダンサブルな振り付け、『小さな村の小さなダンサー』での物語の表現。本当に素晴らしく、いつもわくわくさせて貰っています。
ヨナちゃんの後輩達も頑張っていますね。昨シーズンにシニアデビューしたイム・ウンスちゃん、今シーズンシニアに上がったキム・イェリムちゃんとユ・ヨンちゃん。そしてジュニアグランプリファイナルに出場したイ・ヘインちゃん。女子の層が厚いです(ただヨンちゃんはコーチ変えるか日本以外を拠点にした方が良いかと……詳しくは言えませんが……)。

私はフィギュアスケートに関してはど素人ですし、リンクに行った事もないお茶の間ファンですが、それでも選手が大好きであることに変わりはありません。
いつかはヨナちゃんの主催するアイスショーを観に韓国へ行きたいと思いつつ、そのためにも韓国語をちゃんと勉強し直さないとな、と気合を入れ直しています。

全ての選手に幸あれ!!


※画像は「みんなのフォトギャラリー」からお借りいたしました。ありがとうございました。

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