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企業の海外派遣者の早期帰国比率。なんか理由が腑に落ちない件について

前回のノートにも書いた国際人的資源管理という授業で、「海外派遣者マネジメントの困難性」についての説明の途中、興味深い統計が出てきた。
「海外派遣途中での業務遂行不十分な状態での帰国」の割合を、アメリカ・ヨーロッパ・日本の多国籍企業で比較したもので、結果は以下のようなものだった。

海外赴任者の早期帰国比率     該当する多国籍企業の比率
アメリカの多国籍企業 
     20-40%              7%
       10-20%              69%
     10%以下              24%
ヨーロッパの多国籍企業
     11-15%                3%
      6-10%              38%
         5%              59%
日本の多国籍企業
     11-19%              14%
      6-10%              10%
     5%以下            76%
出所:Tung, 1982(Hill, 2015, p. 676)

太字は、教授が強調して説明したところだ。アメリカの多国籍企業で、派遣者の10-20%が派遣途中の帰国をしたという企業が全体の69%だったのに対し、日本の多国籍企業で、派遣者の5%以下しか途中帰国をしなかった企業が全体の76%である、というものだった。さらに、発展途上国に派遣されたアメリカ人の70%が早期帰国する、というデータも提示された。

では、アメリカ国籍の海外派遣者と日本国籍に海外派遣者で、早期帰国となった原因がどう違ったのかというと、

アメリカ国籍の海外派遣者
1. 配偶者の現地不対応
2. 本人の現地不対応
3. その他家族の問題(子供の教育問題など)
4. 本人の人格もしくは感情の未熟さ
5. 現地での重大な役割や責任に対処不能

日本国籍の海外派遣者
1. 現地での重大な役割や責任に対処不能
2. 新しい環境での難しさ
3. 本人の人格もしくは感情の未熟
4. 技術的能力の欠如
5. 配偶者の現地不対応

つまり、アメリカと日本の海外派遣者では、任務未遂行の状態で帰国することになった原因の1位と5位が正反対、ということだ。

日本の企業は欧米の企業と比較して早期帰国者が少ないこと、そしてその原因が上のような結果になること自体、興味深かった。しかし、個人的には、これらの統計に対する教授の説明(おそらく出所の論文を参考にしたもの)もとても気になる(というかなんとも言えない)内容だった。

・アメリカの企業で途中帰国が多かったのは、仕事より家族を大切にするというアメリカの文化が影響しているから
・日本が「配偶者の現地不適応」の割合が低くなるのは、日本は世界でも有数の男性社会であり、仕事の任務の方が大切で、配偶者や子供が尊重されないから(日本はホフステッドが提唱する文化的次元理論の3つ目「マスキュリニティ」の割合が非常に高いことにも言及)

それだけ、、、だろうか。もちろんそれもそうだろうけれど、例えばアメリカ国籍の配偶者と日本国籍の配偶者とでまた価値観が違うとか、異国の地への適応能力が国によって異なる、とか、そういったことはあり得ないのだろうか。
異文化にどう適応するかについて日々悩んでいる身としては、アジアの人々はどうも「異文化に適応していく力」があるような、そしてその根底には「我慢強さ」があるような気がしている。ヨーロッパ中心主義に苛々する今日この頃だけど、彼らは自分の生活スタイルを変えることにすごく抵抗して、自分よりも相手をfixしようとする姿勢があるな、と思わされることが度々ある。
彼らにとっての外国で生活している欧米人も現在は沢山いるわけだけど、その「我慢」をしてでも留まる、という思いでいる人はどれくらいいるんだろう。他の国と比較してそこでの生活が自分にあっているからその地にいる、という人が多数派なのではないか、と思ったり。そこまでしてその地にいる必要が彼らにはないから。いや、ないとなんとなく思っているから。もちろん、自分の国の文化に対する誇りや愛着も大きいだろうけど、それはアジアだって同じだから。そうした愛国心(というより自国への執着心?)みたいなものになると、国ごとの比較は難しいのではないか、とも思ったりする(現在の心理統計学なら可能なのかもしれないけど)。
仕事に対する姿勢の違いもあるとは思う。少なからず。でもアメリカ人はヨーロッパに比べると「仕事するために生きる」の割合が高いっていうのがこちらでも一般論みたいだから、そうなると上の統計におけるアメリカとヨーロッパの違いが説明できなくなる。

外へ出ることに対する「躊躇」の違い、適応する姿勢の違いを生み出しているのは、なんなのか。家父長制が全て?そんな単純なことある?他のアジアの地域はどうなの?うん、アメリカ対ヨーロッパ対日本っていう雑すぎる対比をしているのがそもそもの問題な気がしてきた。上のデータも、それぞれの海外派遣者がどの国のどの地域にどういう目的で派遣されることになったのかが曖昧だし。1982年は参考文献としては古すぎるし。もうこれ位して、もっと文献を探すことにするか。


P.S. 最近欧米の文献に触れるたびになんかイラッとするようになっちゃったんだけども、なんなんかな。外から見た日本や外から見たアジアに対して、「ヘンテコに見られているけど愛があって面白いなー」と思うこともあれば「うわーこの人の視点歪みまくってる直接会って話したい」と思うことも。Phew

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