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キッスイノニッポンジンとして/兎の中の人

キッスイノニッポンジンという民族は何かに理由をつけてお祭りをするのが好きなのだろうと思う。
 
キリスト教でもないのにクリスマスやハロウィン、そしてイースターを楽しむ。
チョコレート会社の策略と知りながらバレンタインのチョコにヤキモキしたり、年越しには蕎麦を食い正月は餅をたらふく食う。
夏になれば花火を見たくなり、浴衣の男女の姿に雅を感じ、水着のネエチャンに心も踊る。
秋には芋を食い、読書を楽しみ、月を見ながら団子を食い、秋の祭囃子を楽しみ、ナスやサンマを美味しくいただく。
四季折々のあらゆるイベントを楽しみ食す民族なのであろう。
 
かくゆう私も季節ごとのイベントに気分が高揚するキッスイノニッポンジンの仲間である。
このキッスイノニッポンジンは更に誕生日にケーキや寿司、肉などのごちそうを食べるという習性があるらしい。
これは自分の誕生日だけでなく、友人、親兄弟……
それどころか有名人にアニメやマンガのキャラクターなど2次元にまで及ぶあらゆる誕生日があるものを祝うようだ。
 
誕生日を迎えた私もキッスイノニッポンジンとして、自分用にいつもより良いケーキを食べたいと思った。
どのケーキがいいだろうと考えたとき、ふと去年はお店がたまたま定休日だったために諦めざるえなかったケーキ屋を思い出した。
チョコレートケーキとチーズケーキが美味しいお店で、人にあげるのに何度も利用したことがあるが意外と自分のためだけに利用したことが無かったりする。
 
今年は定休日ではないことは分かっていたので、あとは買いに行くだけだ。
仕事が終わればあのお店のケーキが食べられる!
その気持ちだけで、一日を乗り越え提示を少し超えて職場を出て歩いているうちにふと嫌な予感がした。
 
あれ?あのお店って……何時まで開いているんだ?
時計を見ればもうすぐ18時。
ケーキメインのお店がそんな遅くまで開いているだろうか?
 
職場を出るまではワクワクでいっぱいだった気持ちがどんどん暗く不安があふれしぼんでいく。
いやでも、もしかしたら18時半までかもしれないぞ。
それならギリ間に合う!
そう思い続けて、早足で歩くこと数十分。
 
お店の窓からほんのりと明かりが見えた。
 
―――絶対開いてる!!
 
私はそう確信してお店の入口に駆け足で向かう。

だが、現実は非情だった。
明かりこそ灯ってはいたが、悲しいことに『Clause』の文字の書かれたオシャレな看板がこれでもかと主張するように入り口をふさいでいるではないか。
しかもこの看板野郎、ご丁寧にお店の時間まで書かれていやがる。
やっぱり18時までだったよ。……どちくせう。
 
よく調べない私が悪いのだが、なんともむなしい誕生日を迎えてしまったのである。
キッスイノニッポンジンとしてケーキのない誕生日は誕生日であって誕生日ではない!
と、いうことで今年は歳をとってないことにしようと思うのだ。
思うだけなら自由。思うだけなら。
 
そしてきっと来年こそは……と、心に誓うのだった。

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