「大学無償化法案」はミスリード? 財源は増税分を補填へ

低所得世帯を対象に大学等高等教育にかかる入学金や授業料を支援する法案が可決し、2020年4月から施行されることになりました。

あえて、参議院選挙がせまるこの時期に成立させることで与党自民党への支持拡大を図るねらいがあります。

支援の対象となるのは以下の世帯です。

◎支援の対象となる世帯
①住民税非課税世帯(年収270万円未満):全額支援
②年収270万円~300万円未満:支援額の3分の2を支給
③年収300万円~380万円未満:支援額の3分の1を支給
※いずれも、高校卒業から2年以内の大学生1人を含む4人世帯を想定。
◎授業料などの支援額(年間授業料と入学金)
①国公立大学:54万円(+28万円)
②私立大学:70万円(+26万円)
③国公立短大:39万円(+17万円)
④私立短大:62万円(+25万円)
⑤国公立高専:23万円(+8万円)
⑥私立高専:70万円(+13万円)
⑦国公立専門学校:17万円(+7万円)
⑧私立専門学校:59万円(+16万円)
※()内は入学金

支援されるのは、授業料や入学金だけではありません。加えて、返済不要の給付型奨学金も支給されます。

◎給付型奨学金の支給額
①国公立:自宅生35万円、自宅外生80万円
②私立:自宅生46万円、自宅外生91万円
※いずれも学校種別とわず一律に給付。ただし、高専生は対象外。

ちなみに、一例として大学の授業料の全国平均は国公立で53万5800円、私立文系で75万8854円、私立理系で107万1560円となっています。

しかし、考えてみてください。世帯年収が271万円の私立大に通う自宅生の場合入学金を除く年間総支給額は、約70万円。4人世帯で1人あたり年間67万円ほどしか使えず、270万円を越えるので住民税も発生する状況でとても大学進学どころではないのが分かると思います。

こうした「○○無償化法」において最も損をするのが、給付対象の境目となる年収をもらっている世帯です。上記の例でいえば、あと2万円ほど年収が低ければ私立大学に通っていても1ヶ月分の生活費が確保できるくらいのおつりが発生します。

それらを鑑みれば、今回マスコミ各社がこぞって「大学無償化法成立」と見出しにするのは明らかなミスリードと言えます。唯一「大学無償化」と書かなかったのは朝日新聞だけです。

さらに、10月には消費税が8%から10%に引き上げられます。この支援に必要な予算約7600億円は、消費増税分が財源となり、来年の4月から確実に施行され、自民党はマスコミ各社にこれらを強調させる。そうすることで「増税やむなし」の世論を作ろうとしています。

前回増税を断念したのは、増税分を使ってプレミアム商品券をばらまく政策を発表したところ「増税分使って金をばらまくくらいなら、最初から増税するな」というまっとうなツッコみが多く寄せらるほど不評だったからです。

そもそも、企業の生み出した利益に課税される法人税がリーマンショック以降どんどん下げられているのに、少なくともこの7年間、消費税を引き下げるという話は自民党から出たことがありません。財務省が出している税別の税収の推移を見るとその傾向は明らかなのですが、国民はそんなグラフに興味がないのでそうした矛盾には気付かないのです。

リーマンショックを境に消費税収が法人税収を上まわっているのが分かる。8%に増税されてからはその差はグンと開いている。(出典:財務省)

個人的には、財源に消費税が充てられることで世間の弱者叩きが加速するのではないかと懸念しています。近年、平均賃金も下がって、エンゲル係数も高くなっているので国から公的扶助を受ける人たちに対する風当たりが強くなっており、4人世帯で月20万円が「多すぎる」と批判されるほどです。それどころか、「オレは正社員で手取りが12万円だけど、やっていけてるぞ」といかに自身が貧乏であるかを競って自慢するありさまで、これには自慢する前に労基に行けと言いたくなります。

さて、これで消費増税が実施されることは既定路線となってしまい、参院選で自民党が「大学無償化」、「幼保無償化」を誇大にアピールすることは目に見えているのですが、野党もこの期に及んで、1つにまとまれば自民党に勝てるという幻想を抱いているので、「消費税引き下げ」についてすら各党言っていることがバラバラの状態。しばらくは自民党政権は安泰のようです。

幼保無償化についてはこちら

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