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#58『ままならないから私とあなた』(著:朝井リョウ)を読んだ感想【読書日記】

朝井リョウさんの『ままならないから私とあなた』

読んだきっかけ

あらすじとタイトルが気になり手に取った1冊です。
妙に気になるタイトルは、読み終わって「なるほど!」と納得しました。

このような方にオススメの本です

  • 朝井リョウさんの作品が気になっているが、まだ読んだことがない

  • 色んな価値観に触れたい

  • 人間関係について考えたり、悩んだりすることがある

あらすじ

先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性のことが気になっていた雄太。
しかしその後、偶然再会した彼女は、まったく別のプロフィールを名乗っていた。
不可解に思い、問い詰める雄太に彼女は、
結婚式には「レンタル友達」として出席していたことを明かす。 「レンタル世界」

成長するに従って、無駄なことを次々と切り捨ててく薫。
無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿ると考える雪子。
幼いときから仲良しだった二人の価値観は、徐々に離れていき、
そして決定的に対立する瞬間が訪れる。
単行本に、さらに一章分を加筆。少女たちの友情と人生はどうなるのか。
「ままならないから私とあなた」

正しいと思われていることは、本当に正しいのか。
読者の価値観を心地よく揺さぶる二篇。

解説は、Base Ball Bearの小出祐介氏。

Amazon商品紹介ページより

感想

  • 対立する価値観の両者に共感でき、どちらも正解なのだと思った

  • 自分の考えを押し付けず、相手の気持ちを思いやる「想像力」は失わないようにしたい

  • 何気ない青春の一コマからここまで話を広げられるのは凄い


生きている中で必ず発生するであろう人間関係。それは、レンタルすることでも成立するのか。それとも、人間は何でもさらけだせるからこそ関係が生まれ、そうでないと意味がないのか。
技術の進歩によって世の中は便利になった。その方が無駄なことは少なくなるから良いのか。いや、たとえ不便で無駄なことがあっても、だからこそ生まれることがあるのではないのか。

本作の「レンタル世界」「ままならないから私とあなた」の二篇の物語は、どちらもそれぞれの価値観が対立しています。僕はその両者に共感でき、どちらが正解かどうかではないと思いました。その中で感じたのは、自分の考えを押し付けず、相手の気持ちを思いやる「想像力」は失わないようにしたいことです。本作に限らず、人間が持つ価値観や世の中の物事には正解はない。だからこそ、理解できないの一言で片づけるのではなく、その先を考えられるようになりたいと思いました。


この1年でもAIなどによる技術の進歩が加速しているのを感じるのもあって、今読むからこそ考えさせられる部分がありました。「人間がやっていることはAIに奪われる」というフレーズはニュースなどでもよく見かけることがあります。その中で、新しいものができても、それに人間的な何かが宿るという薫の言葉に共感しました。この世界に人が存在する以上、人間的な何かが失われるというのはないと思っています。だからといって安心していいわけでもないですけどね。


何気ない青春の一コマからここまで話を広げられるのは凄いの一言です。
「レンタル世界」のラストには驚いたり、物語の展開も見どころです。伏線の繋がり方もきれいで好きなんですよね。また、本作は読みやすくて刺さり方も強烈ではなく、心地よい印象がありました。朝井さんの小説が未読で、作風がどのような感じなのか気になっている方にもオススメだと思います。

印象的なフレーズ

「その数時間さえしのげればどうにかなるってことが、世の中にはたっくさんあるの。そうあるべき自分を作ってくれるものを数時間でもいいからレンタルして、それで誰も傷つかずに済むんだったらそれでいいじゃない」

『ままならないから私とあなた』

「心の中全部見せ合って、欠点も何もかも許し合って、肩組んで手つないでって、そうしないと人との関係って築いちゃいけないの?」
「お互いに絶対にウソをつくべきでない、何もかもさらけ出し合えばきっと理解し合えるはずなんていう窮屈な思い込みが、誰かのなけなしの一歩目を踏みにじってる可能性だってあるよ」

『ままならないから私とあなた』

夏休みの学校は、炭酸が抜けたソーダ水みたいだ。私たちも先生も、制服を着たり職員室で仕事をしていたりして、まるでいつもどおりの私たちみたいな顔をしているけれど、やっぱり、いつもどおりじゃない。いつも私たちをがんじがらめにしている制服と私たち自身のあいだに、少しだけ、隙間があるような気がする。その隙間を、普段は通らないものがすうすうと行き来している感覚だ。だから、普段は言えないようなことを言えたり、普段はできないようなことをしてみようと思うのかもしれない。

『ままならないから私とあなた』

「恋って」
「その人とじゃないとできないって思うもの、かも」

『ままならないから私とあなた』

「家庭料理もお寿司も、薫ちゃんは私と違うものを選んで、私と違うものを美味しいって言うかもしれない。だけど、私は薫ちゃんに対して、一緒に仕事できないとか、自分の中の正しさを強い言葉でぶつけようとは思わない。だから薫ちゃんも、薫ちゃんと違う考えを持っている私がここに存在していることを、認識してくれればそれでいい」

『ままならないから私とあなた』

「確かに、合理性によって省かれる人間的なものはいっぱいあるかもしれないけど、その代わりに、これまでになかった新しいものに、人間的な何かが宿る。そうやって巡ってきたんだよ、今までも。私たちだってその一部でしかない」

『ままならないから私とあなた』

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