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祝開幕! 『郡上おどり』が始まる直前の郡上八幡は、嵐の前の静けさだった。

また郡上八幡ですか? と言われてしまうかもしれない。
そう思われるのは当然です。最近は、神奈川県に住む僕が、小田急線に乗って新宿に行くよりも、クルマで300km以上走って郡上に行く方が多くなってきました。

三ヶ月ほどご無沙汰していると、「そろそろ郡上に行きたいな」と思うこの感じ。これっていったい何だろう? どこかへ旅に出たいという気分とも少し違う。なぜなら行き先は、何度も行っている郡上八幡一択なのだから。

この城下町は、水と踊りのテーマパークだと思えばわかりやすい。

今回、東海北陸道を降りてから駅とコンビニに寄り(街の中にコンビニやスーパーはありません。ついでに言うと信号もありません)、宿に向けてクルマを走らせているときにふと気づきました。
「僕は郡上八幡を、一種のテーマパークだと思っているのではないか?」

ほら、ディズニーランドやUSJに、年に何度も行く人っていますよね。それと同じことなのかもしれない。
ここは、街の隅々まで歩いて回れる小さな城下町。しかも映画の撮影や観光のために作られた街とは違い、明治維新や太平洋戦争や、高度経済成長期の乱開発からも奇跡的に生き残った、リアルな城下町です。さらに、その街のどこにいても川のせせらぎが聞こえ、夏は夜になると二ヶ月もの間、どこからともなく聞こえてくる踊り唄。その周りで踊り続ける人たち。ふと空を見上げれば、山の上にはライトアップされた、どこかかわいい郡上八幡城。
ここはまるでおとぎ話の世界です。そんな、遠い昔の記憶がそのまま保存されたテーマパーク、それが郡上八幡なのです。そうだ、きっとそうに違いない。

まず、いつものように、郡上八幡駅に立ち寄る。

などと、いろいろ屁理屈を言ってますが、実は今年、いろいろな事情が重なり、踊りの期間は郡上に行くことができないのです。
しかし、そうなると困るのは、次に来るときには鮎のシーズンが終わっているということ。長良川水系で育つ香ばしい郡上鮎のシーズンは、踊りとともにほぼ終わってしまうのです。うぅ、禁断症状が出そうだ。
ということで、言い訳が長くなりましたが、こんな、踊りシーズン開幕前の何も無い時期に、GJ8Manまでやって来たというわけです。

何度も言うけれど、この駅は、日本でいちばん夏休みが似合う駅だと思う。駅舎は国の登録有形文化財。
おとぎ話のような城下町には、この一両編成がよく似合う。
この線路を見ていると、どこかに行きたくなる。もう来ているのにね。
市街地と駅を結ぶ「豆バス」は、30分に一本の運行。市街地から駅まではけっこう距離があるので、クルマがない時には助かります。市内を見て回るにも、何かと都合がよろしい。運賃は100円ぽっきり。街にクルマを置いて、駅まで出かけたいときにも便利です。

真夏の日射しと、影とのコントラスト。

それにしても、梅雨の晴れ間の暑いこと。気温35℃と言えば、郡上おどり真っ盛りの頃の温度だ。強烈な日射しに沈黙した、シーンと静まりかえった城下町。これもまた、なかなかオモムキがあるもんだな、と。

子どもたちが橋から飛び込むことで知られる吉田川。2日前までは大雨による濁流だったらしいけれど、こうしてすっかりいつものエメラルドグリーンを取り戻していた。
観光の拠点、城下町プラザ。踊りが始まると、近隣の観光地からやって来る巨大観光バスがズラリと並ぶ。こんなに広かったんだ。今はセミの声さえ聞こえてこない。
時には踊りの会場ともなり、踊り手たちで立錐の余地もなくなる本町通。この街ならではのお土産ものが買える通りでもある。突き当たりは職人町の古い街並み。今は日射しと影とのコントラスが眩しいのみ。
この静けさも、あと一週間ほど。7月13日の開幕日以降は、この通りもカランコロンと下駄の音が鳴り響くに違いない。
下駄を鳴らしながらの踊りだけに、好きな人はひと夏に何足も履きつぶすらしい。
こんなふうに道が狭く、普段は観光客が大勢歩いている。クルマで来る人は要注意です。
やや歩き疲れて、吉田川の畔で休んでいたら、この夏、初めてセミの声を聞いた。そうだった、もう夏の終わりのような気分でいたけれど、まだ梅雨も明けていないんだった。

さて、と。そろそろお店が開く時間かな。

とにかく鮎です。うなぎです。

僕の定宿は、地元でも有名な鰻屋さんが経営する料理旅館なのだけど、僕はいつも素泊まりにして自由に食べ歩く。とは言え、この店は鰻はもちろん鮎も美味しいので、到着した日は必ずここでご飯にします。

大雨の二日後。しかも季節はまだ早いので、鮎は小さい。けれどこれでいいのだ。ほんのりと果実のような味わい。アタマっから骨ごといただけます。

地元の生酒とともに、火照ったカラダを冷ます。そしてこの塩味。何よりの熱中症対策ですね。
ふと我に返れば、地元の人と思われるお客さんもちらほら。皆さんおひとりさまですね。そして誰もが、鮎でひと息ついた後には鰻丼を注文する。蒸さずに焼いた鰻は、鰻重ではなくて鰻丼でいただくのが長良川水系のスタイルなのだそうです。

蒸さずに焼いただけなので、こうして蓋で蒸すんだとか。普通、待ちきれないけどね。
そして、パカッと蓋を開けていただきます。僕も蒸さずに焼くのが好きです。プリップリの食感。

ホントにシアワセです。クルマで300kmと少し、走ってきた甲斐がありました。
なお、このお店は『ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019版』にも掲載されています。店の人は決して自慢しないので、最近知ったのですが。

こんなお店が東京にあったら、それこそ予約の取れない店になるでしょう。ところがこの店は予約を取らず、お値段も良心的、お支払いは現金のみ。賛成です。
観光バスがやって来るランチタイムには行列ができますが、夜はほとんど待たずに入れます。僕も待ったことはありません。夜の営業時間は16時〜20時。
なお、例によって探す楽しみを奪いたくないので、ここでは店名を紹介しません。なんて、もったいぶらなくてもすぐにわかると思います。この夏、もしも郡上に行く方がいらっしゃいましたら、コメントをいただければお知らせしますよ。

カジカの声を聞きながら、川沿いを歩く。

鮎と鰻の禁断症状も治まったので、いったん部屋に戻り、シャワーを浴びたら日が暮れていました。川からの風が心地よし。再び街を歩いてみます。

入り口を開け放した、荒物屋さんの店先。写真からは聞こえてこないけれど、風鈴の音が心地よし。
電柱や電線の無い、職人町の街並み。こうして歩いている間にも、常に川のせせらぎが聞こえています。

昼間は35℃を越えていたけれど、日が落ちると川からの風で、短パンでは寒いくらい。河原では、いい声のカエルが鳴いています。ヒュッ、ヒュッという口笛のような鳴き声と、コロコロとしたコオロギのような鳴き声。どっちがカジカなんだろうと思っていたら、どちらもカジカのようでした。オスがメスを呼ぶときには口笛のような声、オスどうしが威嚇し合うときにはコオロギのような声で鳴くのだそうです。

そして、路地のあちこちから顔を見せてくれるのが郡上八幡城。まさに「民の暮らしを見守っている」という風情。踊りの会場の、どこからでもこのお城を見上げることができます。

路地の裏の裏へ、町家の奥の奥へ。

翌朝6時に目覚めたものの、すでにジリジリと焼けるような日が射していた。道行く人は「暑いねぇ」という挨拶ばかり。それでも川に降りると涼しい風。

今朝も、なんと美しい吉田川。
ここも郡上の名門、渡辺染物店。
町家の奥の奥には隠れ家のようなカフェスペースが。残念ながら営業時間ではなかった。
トイレの案内まで踊っている。
日本名水百選第一号、宗祇水の隣に佇むお抹茶処。暖簾も川風にヒラリと涼しい。
この街の、いたるところで見かける水舟。水はみんなのものです。コモンです。

モーニングセットをいただいて、帰路につきました。

この街には、個性的な喫茶店も何軒かあるのでうれしい。
モーニングセットや洋食メニューが充実しているのが、新町通の『チロル』さん。郡上に行けば、必ず一度は行く店になりました。
郡上八幡の生き字引のようなお母さんが経営する、『門』という喫茶店は、街の歴史に興味を持ったら覗いておきたい。以前、昔話を伺っていたら、話が止まらなくなってコーヒーを三杯もおかわりしたことがありました。

僕がいつもモーニングセットをいただく、純喫茶『チロル』。一見さんの僕は、たいてい隅の方の席を選んで常連客の会話を聞いています。この店、踊りのある日は夜23時まで、徹夜踊りの日は朝の5時まで営業しているらしい。
チロルのモーニングセット550円。ここのブレンドコーヒーは美味しいです。僕はいつも追加で注文してしまう。
こちらは新橋をお城の方に渡って左。この街に魅せられた文化人も通うという『門』さん。
『門』の店内に入ると、古い資料が図書館のように並んでいます。ただし、こちらのお店ではモーニングセットの提供はありません。
クルマの運転をしない日は、本町通り、上田酒店の「ソフトクリーム酒だく」も避けては通れない。口にした瞬間に立ち上る杏仁豆腐味。一瞬で火照ったカラダが冷えますよ。400円。
今回は最後に、郡上八幡駅のカフェでひと涼み。軽い食事も地ビールもあります。ここは観光案内所も兼ねているので、初めて来た人は、最初に立ち寄るとよろしいかと。

という具合に、今回は未練たらたら、後ろ髪を引かれまくりながら郡上八幡を後にしました。何とか鮎のシーズンに、もう一度来ることができればいいけれど。

なお参考までに、2024年郡上おどり、今後の日程は以下の通りです。街の中の宿は予約が取れないかもしれないけれど(宿を探すのであれば、くれぐれも予約サイトは使わずに、宿に直接電話で問い合わせることをお勧めします)、周辺の街からも観光バスが出ています。あきらめないでください。道が狭く、駐車場が少ないので、クルマで来る人は要注意。できれば一般の交通機関をお勧めします。

2023年の郡上おどり、最終日のようすはこちら。

ということで、この投稿は、2024年郡上おどり開幕日である『発祥祭』の7月13日に”奉納”します。この夏も、郡上おどりが盛況でありますように。
そして、この期間内に郡上におられる皆さん、どうかいい夏をお過ごしください!







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