左利き弦楽器奏者について少し

音楽教室でエレキベースとウクレレを教えています。長年勤めていますと入会希望者の中に左利きの方が現れます。たとえば、ベースをこれから始めたい、初めてだから右用の楽器でやりたいですと、おっしゃってくれる場合が有り、それに対して受け答えに困ることがあります。

弦楽器はマスプロダクト化して以来左利き用が作られるケースが見られますが、私の知見の範囲では右用しか、そもそもは無かったような気がします。ピアノの鍵盤配列が逆さになっているものを見たことが無い(知らないだけかもしれませんが)のと同じように、オーケストラで左手に弓を持つバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス奏者を寡聞にして知りません。

その楽器の練習をスタートする時、否が応にも、その持ち手を変更することはできません。楽器自体がそのように定義されているからです。

でもロック・ポップス・ジャズの世界では左利きの楽器を目にすることは珍しくありません。ドラムセットを左右逆に並べるプロの奏者も複数人知っています。ポピュラー音楽のフィールドでは「自由」を標榜しますから、もしかすると掟を破る強者が道を開いたのかもしれません。

私の教えていた生徒さんの方も、多くが右用の楽器で始めようとします。楽器選択の範囲が狭まり、不都合に見舞われるケースをあらかじめ回避しようとしてのことで、楽器店や、場合によっては講師もそのようにアドバイスします。でも、私自身は、その方の未来を思う時、躊躇してしまいます。楽器はただでさえ難しく、何度も壁にぶち当たり、それを超えて楽しみを獲得していきますので、右用の楽器で始めた左利きの方は、その都度ボタンの掛け違いを疑わなければならないと思うのです。利き手では無いからできないのではないかと。そして、それを見守る私の立場から、それを言葉にすることは厳しく控えていますが、左の楽器に替えてみたらできるのではないかと、仮定の話にすがりたくなるのです。

これには正解がなく、ご本人が試みようとする以外ありません。みなさん、どうしようか周囲に相談されます。そしてご自身がそのような問題で苦闘したことの無い方が、初めてだったら右用でいいんじゃない?と無責任に勧めます。

ある生徒さんが、今買える左用のベースが、1万円、2万円、その上は10万円になってしまうので、いずれも選びたくなかったと、右用のベースを「最初の1本」として買われ、私の所へ習いに来られました。そして器用で無い側での指遣いに早速苦労されています。この先にも、壁が待っていると思われますので、なんとか挫折させないよう、適格なアドバイスができればいいなと思います。

以前、『けいおん』が流行っていた頃に、20代後半の女性の方が、私右利きですが、初めてやるので左用の楽器を買ってもいいですかと聞いてきて驚きました。私の実感として、素直に止めといた方がいいよと申しましたが、結局習いには来られなかったので、どこか他の教室に行かれたでしょうか。その後が気になります(笑)。

私は右利きですが、中古(ヴィンテージ)のヘフナーがレフティで出た時など欲しくなります。リッケンバッカーも同様です。『けいおん』に感化された人と同じでしょうか。左利きでベースを弾くのはかっこいいと思ってしまう世代なので、左用の楽器を正々堂々と使う権利のある方はちょっぴり羨ましかったりします。

そうそう、15年くらい前だったかな、ウクレレ教室に左利きの方が来られるのは、その方が唯一だった気がしますが、やはり初めてだからと右用の楽器でスタートしました。その後どうしても指板のイメージがうまく飲み込めなかったので、試しに弦の並びを逆さにした即席の左用を用意して弾いてもらったところ、案の定、色々と腑に落ちたみたいで、その後は「左用」ウクレレ奏者となりました。コードのダイアグラム(押さえ方の図)を逆に書き換えて渡しましたが、そういうケースも見ている以上、安易に右利き楽器を勧められないなと思った次第です。とはいえ、みなさんに幸あれです。

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