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「生き抜く」~北品川のアマビエが教えてくれたこと~

江戸時代には宿場町として賑わい、今もどこか懐かしい雰囲気を残す北品川商店街。この商店街に、ひと際目を引く建物があります。

それが、着ぐるみと人形の工房「アトリエパレット」のショールーム。等身大のキャラクターが並び、行き交う人々をガラス越しに見つめています。

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ショールームの外観。
以前ご紹介したクロモンカフェの下の階にあります

さて、時は2020年3月頃。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、疫病をおさめる力を持つとされる江戸時代の妖怪「アマビエ」が一躍話題になったのをご存知でしょうか?

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厚生労働省の啓発アイコンにも採用された元祖アマビエ

そんな話題をいち早くキャッチしたアトリエパレットで、オリジナルの「アマビエ」の人形が誕生しました。

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なんて可愛いアマビエの着ぐるみなんだ!

もともとのアマビエとは打って変わって、ぽてっとしたフォルムにカラフルな色あいでキュートな仕上がりです。

そのアマビエを、一度でいいから近くで見てみたい・・・。
そんな思いで、取材を申し込みました。

このアマビエが北品川で誕生するまでの道のりを、アトリエパレット代表、伊藤さんのお話からご紹介していきます。


念願のアマビエとご対面!

アトリエパレットは今年で創業34年を迎える着ぐるみ・人形の工房です。企業や団体のイメージキャラクターや、日本全国のご当地キャラクターの着ぐるみの制作も手がけています。他にも、ぬいぐるみや口をパクパク動かせるようなパペット、マリオネットなど、様々な種類の人形を制作する技術を持っています。

北品川にあるアトリエパレットのショールーム。代表の伊藤修子さんが出迎えてくれました。ついに話題のアマビエと対面します。

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中央の女性が伊藤さんです

編集部:
どのアマビエのぬいぐるみもポップで可愛らしいですね!色あいには何かこだわりがあるんですか?

伊藤さん:
実は、全てがこの世に1つしかないアマビエになるように、胴体も顔も違う組み合わせで作っているんです。

編集部:
本当だ!顔の色も違ったんですね。

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色も目の形もひとつひとつ違います


人形制作のきっかけ

様々な人形の制作技術を持つ伊藤さん。そもそも伊藤さんが人形に関わる仕事をはじめたのは45年ほど前のことです。当時、伊藤さんは弾き語りアーティストとして活躍する傍らでヨーロッパでアンティークドールのバイヤーをしていました。

編集部:
そもそも伊藤さんが人形に関わるお仕事を始めたのはどのような経緯だったのですか?

伊藤さん:
私は30歳までピアノの弾き語りをしていて、24、5歳のときにはイギリスやフランスに渡っていました。その時にサザビーズやクリスティーズといったオークションハウスでアンティークドールを競り落として、日本に送る仕事もしていたんです。

編集部:
アンティークドールを扱うところから始まったのですね。

伊藤さん:
はい。ところがデパートなどの大手販売者が競売に進出してくると値段がどんどん上がってしまって、個人で競り落とすのは難しくなってきました。

そこで、オークションではなく地方を訪ねてアンティークドールを探すようになりました。そうすると、少し壊れている人形に出会うこともありました。そんな時に自分で修理しようと思ったんです。

編集部:
ご自分で修理されたんですか!

伊藤さん:
この話をすると「修理の仕方はどこで習ったんですか?」といつも聞かれるんですよ。でも修理の技術を学ぶために学校に通うようなことはしませんでした。本を読んで勉強したり、色々と試行錯誤する中で技術を身に着けていきました。

編集部:
自力で技術を身に着けたのですね・・・。では、人形を一から作ることを始めたのは、いつのことなのでしょうか?

伊藤さん:
人形の制作を始めたのは子どもが生まれた時です。それまでしていたピアノの弾き語りは夜の仕事だったので続けられなくなって。そんなときに「人形でもつくるか」と思って陶器人形やマリオネット、小さいマスコットをデパートの個展で売り始めました。

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おしりも可愛らしくデザインされています


人形なら何でも作る。その幅の広さの訳は?

編集部:
自力でアンティークドールの修理を始めて、そこから今は着ぐるみ制作までされている。しかもそれは誰かに習ったわけではないというのがすごいと思うんです。

伊藤さん:
私の中には、何かをしようとするときに誰かに習うという考えは一つもありません。

編集部:
それって、ものすごく探求心が強いってことなのでしょうか?

伊藤さん:
そうなんでしょうね。探求心が強いのは子どもの頃からのことです。

「私はどうして私なの?」ということを考えて気持ちが悪くなってしまうような子どもでした。学校で習う勉強のことや、生き物の生死のことなど、何に対しても「なんで?」と思ってしまって。

編集部:
なるほど、すごいですね・・・。

伊藤さん:
何かわからないときに学校の先生に「どうして?」と聞いても煙たがられてしまって、何も教えてくれません。そんな経験から「この人に何が分かるというんだろう?」と思うようになって、人からものを習うことが好きじゃなくなったのかもしれません。


探求の先で新しい製法が生まれる

自分の力で様々な人形の制作技術を身に着けた伊藤さん。人に習わなかったからこそ、従来よりも質の良い着ぐるみやパペットが出来上がりました。

編集部:
アトリエパレットで制作している人形の特徴はどのようなものでしょうか?

伊藤さん:
着ぐるみで特徴的なのは芯材です。私が着ぐるみをつくり始めた当時は発泡スチロールの塊を削りだして芯材をつくるという手法が一般的でしたが、私はシート状の硬質ウレタンを切り出して立体に組み上げつくるようにしました。そうすると軽くて強度があるものになりますし、余分な廃棄物も出ず環境への配慮もできます。

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アトリエパレットのパンフレット
ペーパークラフトの要領で芯材が組まれています

編集部:
習わないからこそ独自の製法が編み出せたのですね。人から習わないということは、伊藤さんは「一つの決められた正解はない」という風に考えられているのでしょうか?

伊藤さん:
私にとっての正解は、お客さんが「素晴らしい!」と言ってくれることです。だから、やり方がいくつかあるなら全て提案します。頼んだ人が満足することを求めてものづくりを考えています。

でも、それは決して楽なことではありません。技術を身に着けたり、新たに編みだしたりするためには寝る間も惜しんで努力します。そうしていると、色んな発想、アイデアが浮かんでくるんです。

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製作途中だというアマビエのぬいぐるみ


着ぐるみ業界の今

編集部:
アンティークドールの修理を皮きりに、現在は着ぐるみやパペットにまで制作の幅を広げていらっしゃいますよね。そもそもアンティークドールの修理が出来るだけでも十分にお仕事として成り立つように思えるんです。

伊藤さん:
いえ、私にはそうは思えません。時代の変化を読みながら今どう動くべきかを常に考え続けなければならないと思っています。だからこそ、技術の幅を広げていきました。

編集部:
というのは、どういうことなのでしょうか?

伊藤さん:
アトリエパレットでは、ゆるきゃらブームの時にはとにかく着ぐるみをつくっていました。製造過程をマニュアル化して、人もたくさん雇用して着ぐるみ大量につくれる体制を整えました。

しかし新型コロナウイルスが流行している今は、着ぐるみが役目を失ってしまっているんです。着ぐるみの出番となるイベントは全部中止になってしまいましたし、密を避けたい状況の中では着ぐるみの中に入るのは抵抗があると思います。

なので、今の流行は着ぐるみではなくパペットに移行していっています。もし「着ぐるみ屋さん」だけをやっていたら、先が続かないでしょう。

編集部:
着ぐるみを巡る状況も、そんなに変化していたんですね。

伊藤さん:
アマビエを制作しているのも、時代の流れの中で生き抜くためにほかなりません。飲食店が店先でお弁当を販売しているのと同じことなんです。

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時代を生き抜く個性豊かなアマビエたち


アマビエから「生き抜く」ことを教えられた

とても可愛らしい姿で旧東海道を通る人たちの心を癒すアマビエの着ぐるみとぬいぐるみ。疫病に苦しめられる世の中を明るくしてくれるという反面、世の中の世知辛さを象徴している存在でもあることがわかりました。

それでも、やはりその可愛らしさで苦しい思いを忘れさせてくれる。それが人形の力なのかもしれません。

「チャンスを逃さないよう、時代の流れを見て考え続けなくてはいけない。」と力強く語る伊藤さんからもパワーを貰いました。

そんな伊藤さんのパワーが込められた着ぐるみ、ぜひ覗きに行ってみてください!一つ一つ手作りしているぬいぐるみも一般販売中です。

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一家におひとつ、いかがですか?
大サイズ(約35cm)30,000円 
小サイズ(約30cm)20,000円

アトリエパレット
💻ホームページ|http://www.atelier-palette.com/
🎪ショールーム|〒140-0001 東京都品川区北品川1丁目3−5
※ショールームには人が常駐していません
🏢本社経理部|〒140-0001 東京都品川区北品川 2-25-8-104

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