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参議院選挙で投票すること

今回の選挙は3年ごとに行われる参議院の改選選挙ですね。248名の構成員のうち半数の124名が改選となります。うち選挙区が74名で比例区が50名だそうです。ところで、参議院ってなんなんでしょうか。ぼくなりに、言葉のほうから整理しておきます。

参議院って英語だと「 House of councillors」、イタリア語は「 Camera dei consiglieri 」と訳されます。「councillors / consiglieri 」と訳された部分がポイントとなりますね。文字通りにやれば「参議」のことですが、この言葉、もともとは朝廷の官職名であり、明治政府では内閣制度ができるまで政府首班を意味するものだったようです。どうしてそんな「参議」なんて言葉を使ったのかというと、たぶん参議院の前身が貴族院だったからでしょう。

貴族院(House of peers/ Camera dei pari)は、帝国議会における上院のこと。議会を構成しているのは「皇族議員、華族議員、勅任議員」で、全議員が非公選で解散はなく、終身議員と任期7年の議員がいたといいます。貴族院の議員は、ほぼ同じ身分階級か同族の推薦によって決まったそうです。だから、「同族者」あるいは「貴族」の意味がある「 Peers / Pari」と訳されるわけですね。

戦後になって貴族院が廃止された時、この非公選の「貴族 Peers」は、公選の「参議 councillors」に置き換わり、参議院となります。戦後になって、少し前の朝廷や明治維新初期の役職名を持ち出してきたのは面白いところですが、意味としては、英語やイタリア語にあるように「忠告する人、意見を述べる人」(councillors / consiglieri)ですから、わからなくはない。貴族よりも参議のほうが民主だというわけです。

ところで参議院の議員は「代議士」とは呼ばないそうです。公選の議員なのですが、あくまでも「忠告者、ご意見番」であり、民衆を代表する「代議士」(representative / rappresentanti)とは違うということなのでしょうか。けれども、「代議士」が民衆を「代理・代表する represente / rappresentare 」する政治家のことであるなら、参議院議員だって、公選されて民衆を代表しているわけです。けれどもそこは「代議士」(representative)とは違う。区別してほしい。少なくとも、言葉の上ではそう区別されています。

参議院議員が「参議」(councillors / consiglieri)と呼ばれ、民衆の代理というよりは、忠告者として国政の議事に参加する役割を持つというのは、制度上に違いとして現れていますね。参議院には解散がない。解散とは、国民の代表がものごとを決められなくなったとき、新しく国民の代表を選びなおそうという制度なのでしょうけれど、衆議院議員は、任期中にその職を解かれることはない。6年という任期にわたり、じっくりと「忠告し意見を述べる」役割をはたしてもらおうというのが、制度が求めていることなのです。

参議院が熟議をめざすとき、衆議院はあくまでも民衆を代表する議院として機能しなければなりません。だからこそ、民衆を代表する「代議士」たちの「衆議院」(House of representatives / camera dei rappresentanti)であり、議席も参議院の倍の465名、任期も4年と短く、しかも解散がある。議事がこじれると、解散によって民意を問いなおすことができる。

2005年の小泉内閣のときの郵政選挙がそうでしたよね。参議院が、郵政改革法案を否決し、再考をうながしたのに対して、小泉内閣は解散総選挙に訴えて改革を推進します。「反対勢力」を一掃せよという合言葉とともに、小泉劇場というポピュリズムが動きだします。その結果の郵政改革推進。そして今の僕らはその是非を問うところに来ているのだと思いますが、それはおいておくとして、考えるのは参議院が「良識の府」、「再考の府」、そして「政局の府」と呼ばれることの理由なのです。

今、ぼくらが問われているのは、良識を持ち、暴走するポピュリズムに再考を促し、まんいちのときは政局を作るような、そんな「参議」を選ぶこと。ひとたび選ばれたら、解散のない6年間という時間を熟議に精進してもらえるような人を選ぶこと。

そう考えれば、少しでも理想に近い人の顔と名前が見えてこないでしょうか。うーん、未来はいつだって霧のなかなのですが、投票とは「祈り」でもわるわけですからね。祈りを託す相手を、じっくり選びたいと思いますよね。