アチャール(ピックル)における塩の役割と種類
こんにちは、アートオブピックルのNeko-chanです。私はみなさんと同じように塩が大好きです。10年以上前にカレー哲学Zineを作っておりました。(*あのカレー哲学さんとは無関係です。)当時は気がおかしくなっていて「塩はカレーだっ」という謎の哲学をあげていました。そのくらい塩が好きでした。お土産何が欲しいと聞かれれば「塩をくれ」、今日の夕飯どうする?と聞かれれば「塩をくれ」、何時に帰るのか、将来どうしたいのかと聞かれても「塩をくれ」の一点張りでした。これで会話のしおうがない。
さて、インドの漬物であるアチャールやピックルは、保存食としての知恵が詰まった食品です。インドでも日本でも「塩」は、ただ単に味を加えるだけでなく、重要な役割を果たしています。料理の基本である塩がアチャール(ピックル)の製造過程でどのような役割をもっているか記述していきたいと思います。
アチャール(ピックル)における塩の役割
アチャールやピックルにおいても、塩にはもちろん味を整える役割があります。保存性を高めるために多くの塩を入れて漬物的な味わいにしたり、もっとライトにそのまま食べれるおつまみのように仕上げたい時には塩分を控え、スパイスの抗菌性や酢による酸性環境、油による空気の遮断などを生かして保存性を高めます。そしてその塩分濃度をコントロールするキーは食材そのものの性質を活かすことにあります。料理人はどう仕上げたいかというゴールのイメージを描き、そこにコントロールして塩を打ち込むのです。アチャール(ピックル)の塩の役割順番にみていきましょう。
アチャール(ピックル)塩の役割1:水分を引き出す効果
塩は食材の細胞から水分を抜き、腐敗しやすい環境を改善します。同時に、素材の味が凝縮され、スパイスとの相性が引き立ちます。これは、素材本来の味わいを深める工程でもあります。ここで言う「水分を引き出す」とは、食品製造や漬物製造における「脱水」の一環です。これは以下のような方法で行われます:
塩漬け: 浸透圧の差によって、食品内部から水分が引き出されます。アチャール(ピックル)では塩の浸透圧効果が非常に重要です。
圧搾: 漬物石やプレス機を使って水分を物理的に絞り出す方法で、日本の漬物などでよく使われます。
乾燥: 太陽の下で食品を乾燥させることで水分を飛ばし、保存性を高める方法。アチャール(ピックル)でも一部のレシピで見られます。
これらのプロセスは、保存性を高めるだけでなく、素材の風味や食感を大きく変えることができます。
アチャール(ピックル)塩の役割2:風味と食感の向上
塩を適度に使うことで、素材のテクスチャーが引き締まり、歯ごたえが増します。特に柑橘類や硬い野菜では、塩漬けの過程で皮まで柔らかくなり、食べやすい状態になります。素材の味も当然濃く感じることができるようになり美味しくなります。早く消費するものを低塩分で仕上げる時は1-3%ぐらいで、乳酸発酵を利用する場合は5-9%、柑橘などを皮まで柔らかく非加熱で仕上げようという時には10%以上を目安にしています。
アチャール(ピックル)塩の役割3:保存性を補完する
日本の伝統的な保存食では、漬物や干物において高い塩分濃度で漬けることで雑菌の繁殖を防ぐ方法が一般的です。しかし、アチャールやピックルでは酢やレモン果汁による酸味、油による空気の遮断、スパイスの抗酸化作用が保存性を高めるために組み合わされます。このため、日本の漬物と比較して塩分濃度が低くても長期保存が可能です。日本の添加物を用いない常温保存の漬物は野菜だと15~20%ぐらいの食塩濃度が使われます*が、アチャール&ピックルは天然のスパイスを添加し、油で空気と遮断することで塩に頼らずに長期間保存することが可能です。
アチャール(ピックル)塩の役割4:乳酸菌発酵をコントロールする
塩分濃度は発酵を進める乳酸菌の活動をコントロールする鍵となります。塩濃度が低すぎると、乳酸菌とともに腐敗菌も繁殖しやすくなり、逆に塩濃度が高すぎると乳酸菌自体の活動が抑制されるため、発酵がうまく進まなくなります。
一般的に、**塩分濃度2~10%**の範囲では乳酸菌が活発に働き、発酵が円滑に進みます。この範囲内での塩分量調整により、アチャールの酸味や保存性、風味を自在に変化させることが可能です。また、発酵によって生成される乳酸は、食品を酸性化し、腐敗菌の活動を抑制するため、結果的に保存性を高める効果があります。乳酸菌発酵を使わない場合はヴィネガーによって酸性を保つようにして雑菌の成長を抑制します。
塩濃度による乳酸菌発酵の特徴
低塩濃度(2~5%)
乳酸菌が活発に増殖し、短期間で発酵が進む。
味わいが軽く、フレッシュな風味が特徴的。
保存期間がやや短いことがあるため、早めの消費が推奨される。
中塩濃度(5~10%)
乳酸菌の活動が安定し、発酵が適度なペースで進む。
酸味が際立ち、保存性も向上する。
アチャール(ピックル)の多くのレシピでこの範囲が採用される。
高塩濃度(10%以上)
耐塩性のある菌種(例:Pediococcus属)が主に活動する。
発酵がゆっくり進むため、長期保存が可能。
一部の素材や目的に応じて採用されるが、風味が塩辛くなる傾向がある。
アチャール(ピックル)に使う塩の種類と特徴
塩の種類や精製方法は、アチャールやピックルの仕上がりに大きな影響を与えます。以下はいろいろな塩の種類をまとめました。海産物には海の塩、湖の魚には湖塩、山菜や山のもには岩塩など地産を合わせていくのもよし、組み合わせてアチャール(ピックル)の中に地球を作るのもよしです。個人的お勧めはミネラルを多く含む粗塩です。素材の味の複雑な部分まで引き出してくれる感じがします。塩にこだわることでもアチャール(ピックル)づくりを楽しんでください。
天日塩(Solar Evaporated Salt)
太陽の熱を利用して海水や塩湖から結晶化させた塩で、精製度が低く、自然なミネラルが豊富に含まれています。粗塩やフレーク塩などの種類があり、それぞれ粒の形状が異なります。ミネラルの風味がアチャールの味を引き立てる伝統的な塩です。岩塩(Sendha Namak / Rock Salt)
ヒマラヤ山脈などの鉱山から採掘される塩で、ミネラル含有量が高く、風味がまろやかです。ピンクソルトやホワイトロックソルトなどのバリエーションがあり、ナチュラルな味わいが特徴です。健康志向の家庭で特に好まれ、消化を助ける効果もあるとされています。精製塩(Refined Salt / Table Salt)
工業的に精製され、純度が高く、ほぼ塩化ナトリウムのみで構成されています。味にクセがなく、ミネラルが少ないため、素材やスパイスの味を際立たせる一方で、風味が単調になりがちな一面もあります。黒塩(Kala Namak / Black Salt)
硫黄化合物を含む独特の硫黄臭を持つ塩で、主にインドの北部で使用されます。特有の香りと風味が料理に深みを加えます。消化促進効果が期待され、風味のアクセントを加えるために使用されることもあります。フルール・ド・セル(Fleur de Sel / 塩の花)
塩田の表面に浮かぶ塩の結晶を手作業で集めた、非常に高品質な塩です。粒が細かく、柔らかい塩味が特徴で、特別な風味付けとして重宝されます。セル・グリ(Sel Gris / グレーソルト)
天日塩の一種で、灰色がかった色を持ち、マグネシウムやカルシウムなどのミネラルを多く含んでいます。風味が強く、料理に個性を加えたい場合に選ばれることがあります。赤塩(Red Salt)
ハワイ産の塩で、火山由来の粘土(アラエア)が含まれるため赤みを帯びた色をしています。独特の風味と美しい色合いが特徴で、見た目と味の両方でアクセントを加えることができます。竹塩(Bamboo Salt)
韓国で一般的な塩で、竹筒に詰めて焼くことで作られます。ミネラルが豊富で、抗菌作用が強いとされています。保存性を高める効果が期待されています。粗塩(Kosher Salt)
粒が大きく、不純物が少ない塩で、精製塩よりも風味が自然です。大粒のため、浸透力が強く、素材の水分を引き出すのに適しています。湖塩(Lake Salt)
湖水から採取された塩で、インドでも特定の地域で利用されています。柔らかい風味とミネラルの豊富さが特徴です。
まとめ
アチャール(ピックル)における塩の役割は、保存性、風味、そして食感を支える重要な存在です。アチャール(ピックル)では塩だけに頼るのではなく、酸味や油、スパイスと組み合わせることで、低塩分でも保存性を確保する巧みな技術が使われています。このアプローチは、日本の伝統的な漬物にプラスアルファをした発想であり、複雑ではありますが、突き詰めていくと楽しい世界が広がっています。
さらに、塩の種類や特性を考慮することで、アチャール(ピックル)の仕上がりや楽しみ方は無限に広がります。天日塩の豊かなミネラル、岩塩のまろやかな風味、黒塩の独特な香りなど、それぞれの塩がもたらす風味の違いを楽しむこともアチャール(ピックル)作りの醍醐味です。
塩を知り、塩を選び、塩を使いこなすことで、アチャール(ピックル)はさらに深い味わいを持つ一品へと進化します。塩とともに広がるアチャール(ピックル)の可能性を、ぜひ皆さんも体験してみてください。
アートオブピックルでは、伝統的な製法で作られたアチャールをオンラインで提供しています。瀬戸内のレモンやライムを12%ほどの塩分で1ヶ月ほどしっかりと太陽光に当てて非加熱で柔らかくして、発酵させ、スパイスや油を混ぜて熟成させています。衛生検査をしてみて、1年経っても(冷蔵保存です)問題ない結果であり、アチャール(ピックル)の作り方で保存性が高められることが証明されています。おいしいですよ。ぜひお試しください。