見出し画像

XF35mm F1.4 - Standard.



今回は、XF35mm F1.4 R、FUJIFILM Xシリーズの単焦点レンズだ。

2012年、FUJIFILMがレンズ交換式のXシリーズとして初のボディ、X-Pro1と共に夜に送り出されたレンズの一つだ。登場してからもう7年になる。日夜進化するデジタルカメラのレンズとしては、既に古い部類に入ると思う。今流行りの防塵防滴もなければ、AF速度もあまり速くなく、駆動音もちょっとうるさい。

でも、その魅力に取り憑かれる人は、7年の時を経てX-Proが3世代目になる今でも後を絶たない。かく言う自分も、4年程使ってきたXF35mm F2 R WR(2015年発売、防塵防滴)を下取り交換して買い戻し、その魅力を今一度噛み締めながら写真を撮り、また愛でている。このレンズを使いたいがために、Xシリーズを購入する人もいると聞く。一体、このレンズにはどれだけの魅力が込められているのだろう。

これまで数多くの人がこのレンズについて紹介し、語り尽くされているとは思うけれど、作例も交えながら、自分なりにこのレンズの魅力を書いていけたらと思う。

このレンズを買い戻したのは今年の1月下旬のこと。程度のいい中古の値段が思っていたほど高くなく、半分衝動買いみたいに手持ちのXF35mm F2を下取り交換した。あまり深く考えずにXF35mm F2を売ってしまったのは後で少し後悔したけれど、久々に触れたそのレンズは、程よいサイズ感と重量感で、所有欲を満たしてくれる。当時のX-Pro1との相性を考えてデザインされたと思うけれど、X-Pro2にも当然のように似合うので、帰りの電車の中ではずっとその姿をまじまじと見つめていた。

時はもっと遡って2014年秋。当時X-E1を使っていた時に、初めてこのレンズを購入した。価格が改定される前で、中古で今よりも安く購入できた気がする。キットレンズのXF18-55mm F2.8-4からのステップアップで、初めてのF1台のレンズ。ドキドキしながらファインダーを覗くと、その明るさとボケ味に度肝を抜かれた。「これが単焦点か!!」と心のなかで叫び、カメラを構えるのが本当に楽しかった。

初めて一眼レフで写真を撮った以来の感動だと思う。身の回りのすべてがキラキラして見えて、何でも撮れそうな錯覚も覚えた。でも、当時でも型落ちのX-E1との組み合わせだから、AFはかなり遅く、かなりのシャッターチャンスを逃した。特に暗いシーンでは悲惨で、当時撮っていたバンドサークルのライブでは、AFが追いつかず、撮りたいシーンでシャッターが切れなくて、モヤモヤすることも少なくなかったと思う。

それでも撮れた写真を見返すと、本当に繊細で、自分が見た光を丁寧に写し取ってくれて、感じていたモヤモヤを吹き飛ばすくらいのインパクトが写真にはあった。ちょっと不器用だけど、期待は裏切らない。最後には思った通りの、いやそれ以上の写真を残してくれる力を秘めている。それがXF35mm F1.4 Rだ。

買い戻して一週間ほど立った頃、尾道と高松、岡山、大阪、そして京都を周る旅をした。XF35mm F1.4と共にXF16mm F2.8も一緒に持っていたけれど、使うのはほぼXF35mm F1.4一本だった。少し雨が降ってきても、タオルでレンズを覆って撮影に興じていたほどだ。この旅で改めて、このレンズの魅力に取り憑かれることになる。

慣れきっていた焦点距離、画角。使えば使うほど楽しい換算50mm(正確には52.5mm)のレンズで、長いことF2が自分の中の標準になっていたので、久々にF1.4のレンズで写し取る世界は本当に新鮮だった。よく「F2は線が太くて、F1.4は線が細い」と言われるけれど、まさにその通り。繊細ながらもメリハリのあるその描写は、その街の匂いや物の感触まで写し取ってくれる。

写真を見返すと、その街がどんな街であったか、匂いや物の感触、更には記憶の中にある音までを呼び起こし、束の間の旅行気分を味わい直すことが出来る。Xシリーズはその真骨頂だと思っているけれど、このレンズは、その体験がよりリアルなものとなって、記憶と繋げることが出来ると感じている。

F1.4ならではの、やわらかなピント面前後のボケも美しいの一言。F2以上にキリッとピント面がシャープに立ち、前後でふわっとなだらかにボケていく様は、本当に見ていて心地良いし、何より飽きが来ない。このボケ味を得たいがためにXシリーズを購入される方々、この一本だけでXシリーズを使い続けている方々も多いと聞く。なるほど、このボケ味、描写なら納得しかない。Xシリーズを使い始めて6年、多くの方々のスタンダードと言えるこのレンズの凄みを今になって改めて理解させられた。

とはいえ、あまり考えずに下取りに出してしまったF2の方について、下取りに出さなければよかったと今更ながら後悔している。F1.4があるので今の所は十分でも、いずれは買い戻したいと考えている。あちらは防滴防塵で、AFは段違いに速い。俊敏さが求められるストリートスナップなどでは、F2のほうがいいと感じる瞬間は多いだろう。先端がすぼまったデザインは、X-Proシリーズによく似合っている。デザイナーもX-Proシリーズと同じと聞く。別売りのスリット入りのレンズフードもばっちりお似合いだ。

F1.4とF2。どっちが自分にとって最適なのかは分からないし、分かったとしても、自分の場合、もう片方のほうが名残惜しくなるので結局買い戻すのは目に見えている。なので変な話、どっちでもいいとも思える。ともあれ、同じ焦点距離の中に複数の選択肢があるのは贅沢なことで、どっちがいいかということを、ああでもないこうでもないと考えるのが楽しかったりする。最近ではXC35mm F2というのも発売され、35mmのレンズが3種類になり、ますます賑やかになった。

それでも、このレンズがXシリーズとともに産声を上げ、その描写力で、Xシリーズの評判を後押ししていったという事実は変わらないし、これからも、たくさんの人を魅了していくに違いない。

人呼んで、「魔法のレンズ」。それがXF35mm F1.4 Rなのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?