ゾーン別で見るビエルサ流ゴールへのアプローチ方法 ~Leeds United vs Huddersfield
(サムネ : The Telegraph より引用)
今回の記事では、ハダースフィールド戦を見ていきながら、アルゼンチンの鬼才ビエルサ率いるリーズユナイテッドの攻撃戦術を読み解いていこうと思います。
スタメンはこちら。(wyscout より引用)
内容をわかりやすくするために、今回はピッチを縦に3分割した時のゾーン別でリーズの攻撃を見ていきます。自陣ゴールから順に「ディフェンディングサード」「ミドルサード」「アタッキングサード」です。(下図)
Ⅰ、ハダースフィールドの守備
サッカーというゲームは、相手がいなければ成立しません。今回はリーズの攻撃に注目するため、まずは簡単にハダースフィールドの守備を紹介します。
この試合で用いてきたのは、マンマーク+カバーシャドーの至ってシンプルな守備です。両チームの布陣をかみ合わせると、大部分で数的同数の状況を作れていることが分かります。これを利用し、マンマークの守備を徹底します。
利点としては、リーズの1トップに数的優位の2CBを当てれること、全員の守備役割の明確化、などが挙げられます。反対に、問題点となるのがリーズの2CBです。このままでは下図のように、相手の前進を簡単に許してしまうことになります。
この対応策として用いられたのが、トップ下によるカバーシャドーです。トプがボール非保持側のCBを抑えている間、トップ下がアンカーへのパスコースを切りながらもう片方のCBにプレスを掛けることで、相手の前進を防ぎます。
2人で実質3人を抑えることで、後方にリスクをかけることなく前からガンガンプレスをかけにいける、といった思惑です。
極めてシンプル、かつアグレッシブな守備を用意してきたハダースフィールド。これを予め踏まえた上で、リーズの攻撃を見ていきましょう。
Ⅱ、ディフェンディングサードでの攻撃
このゾーンで意識的にリーズが取り組んでいたのが、「三角形の形成」です。これにより、前述したハダースフィールドのカバーシャドーを攻略することに成功します。試合を通してたくさん見受けられた、二つのパターンを紹介します。
パターン① アンカーがボールサイドに寄ってくる場合
アンカーがボールサイドに寄ってくることで、CBを頂点とする三角形(CB+SB+アンカー)を形成します。
SB経由でアンカーにボールを回すことで、カバーシャドーの回避はもちろんのこと、アンカーに時間とスペースがたっぷりと与えられた中でボールを渡すことも可能です。
尚、相手がマンマーク守備であることを考慮するとSBのところでボールが奪われる可能性も多いにありますが、そこに関しては素早いパスであったり、少ないタッチ数でカバーしていきます。
実際に5:05のシーンを見ていきましょう。
上図で表したような三角形の形成から、アンカーにボールが渡ります。しかし、ここで問題となってくるのは相手のボランチです。このシーンでは相手の逆サイドのボランチが、アンカーからのボール奪取を試みます。
リーズも負けじと、CH経由の攻撃で対抗します。まず、相手ボランチが出ていって空けたスペースでCHがパスを受けます。その後、相手SHがCHに対応しようと内へ絞ってくるも、最終的にはそのSHが空けたスペースを利用してSBがディフェンディングサードからの前進に成功します。
パターン② CHが下りてくる場合
次のパターンは前回とは逆に、アンカーがボールサイドより離れることから始まります。そうすることで必然的に相手トップ下もアンカーに釣られ、中盤に大きなスペースができます。そのスペースにCHが下りてくることで、三角形の完成です。
主に19番のヘルナンデスがこの下りていく役割を担い、43番のクリヒは前残りしていることが多かったです。
ヘルナンデスをマークするはずの相手ボランチは、先ほど紹介した5:05のシーンのような「相手の空けたスペースを使った攻撃」を試合序盤に頻発されるようになると、後方にスペースを空けるのを怖がってか、自分の立ち位置から離れることをためらうようになりました。
すると次はSHが二つの選択肢を迫られ、マークの対象が定められなくなります。このような悪循環を相手の守備内に生まれさせ、自らのビルドアップをより容易にしていきました。
このゾーンにおいてハダースフィールドの守備の狙いは、カバーシャドーを用いてきたことも考慮すると「守備にかける人数を極力減らしながら、ボールを奪う」と言えるでしょう。
その狙いを崩すべく、必ずボール保持者に2つの選択肢が用意され、カバーシャドーに対しても攻略ルートが用意されている、簡潔にまとめるならば2人で3人を抑えさせない、それが全てつまった「三角形の形成」をこの試合で採用したのは非常に合理的であります。
加えて、根本にはベースとして「三角形の形成」というコンセプトがあるものの、そこから枝分かれするように幾つかのパターンがあり、またそのパターンに味方を絡めていきながら多種多様の攻撃をみせることで、相手の慣れを生じさせない試合運びも見ていて印象的でした。
Ⅲ、ミドルサードでの攻撃
次第にハダースフィールドの守備もアグレッシブなものから徐々にパッシブなものになっていき、よりリトリートした、かつコンパクトな守備ブロックを組んできます。
すると、ディフェンディングサードの突破は楽になるものの、先程紹介した中央の突破が困難になります。そんなこんなで、ここから紹介する攻撃はほぼSBスタートになります。
かといって、先程のビルドアップが無駄になるわけではなく、スキを見て相手がアグレッシブにきた時はいつでも使えるようにしているので、その辺はご了承を m(_ _)m
ミドルゾーンでの攻撃において、何度も見られた現象があります。それは、SHにボールがおさまるシーンです。90分を通して少し不審に思ってしまうくらいの頻度で起こっていたもので、注目せざるを得ませんでした。
これまた相手がマンマーク守備であることを踏まえると、「どうやってこの現象を成り立たせているのか?」といった大きな疑問点が残ります。
何度か試合を見返した結果、この疑問点に対する答えとしてある2つの方法にたどり着きました。
1つ目はボール保持者(この場合多くがSB)に向かって深く下りていく動きです。その名の通りSHが深く下りていくことにより、相手のマークを外し、フリーでパスを受けることを狙いとします。
SHをマークするはずの相手SBは
① 自らの背後にスペースを開けるリスクを冒してまでも、自分の定位置から大幅に離れてまでSHについて行く
②SHに突破を許すかわりに、DFラインを保ったまま相手を待ち構える
この2つの選択肢を迫られ、迷いを生じさせることができます。
前者を選んだ場合は、空いたスペースにCHなどが走りこんでいきます。かといって後者を選んでしまうと、SHにフリーかつ余裕がある、まるでディフェンシブサードの攻撃で説明したアンカーと同じような状況でボールを受けさせることになってしまします。
どちらを選んでも守備側には厳しい状況が待ち受けており、攻撃側は常に有利の状態が保たれる、といったカラクリになっています。
ただし、この方法にももちろん弱点は存在します。振り返ってみると、このプロセスにおいてリーズがするべきことは、SHが深めの位置まで下りてくる、たったこれだけです。このシンプル性が裏目に出ることになります。1つ挙げられるのは修正の容易さです。
例えば相手監督が、どれほど自分のポジションから離れようとSHにはタイトなマークを徹底するよう、SBに指示、加えてCBにもSBが空けたスペースをカバーするよう指示したとします。
DFラインを1枚削っているも同然なので、後方にリスクがあることは変わりないものの、SBが空けたスペースを使われることは間違いなく激減します。
このように、攻撃がシンプルであるゆえ守備の対応もそれに伴ってシンプル化してしまう、といった現象がおきてしまいます。監督が修正を加えずとも、90分もあれば選手間で解決できてしまうでしょう。
単調な攻撃を繰り返してしまうと、時間の経過とともに相手の守備陣もより迅速に対応できるようになってしまいます。
そこで次に紹介する2つ目の方法がサイドへのオーバーロードです。
これと1つ目の動きをうまく組み合わせることにより、攻撃が複雑化するとともに、SHへのボールの収まりを良くすることができます。
言わずもがな、攻撃が複雑化することにより相手の修正もより難しいものになっていきますし、守備陣の対応を遅くさせることができます。
このオーバーロードにおいて重要となってくる選手が、前残りしたCHのクリヒと、9番でトップを務めるバンフォードです。この2人のどちらかが中央からサイドラインギリギリのところまで流れてくることで、一時的にサイドでオーバーロードを生み出します。
直接的な効果は相手SBのピン止めです。これにより相手SBは先程紹介した「SHに出ていく」という選択肢を失い、サイドに流れてきたリーズの選手をマークせざるを得なくなります。結果としてSHにはよりボールがおさまるようになります。
ただし、攻撃を展開する度に毎回このオーバーロードを利用するということではありません。
スピーディーな攻撃を仕掛けることが可能な場合には2つの方法なんて気にしません。その時は中央に直線的なパスをどんどん蹴り込んでいきます。反対に、サイドでのオーバーロードを立て続けに浴びせていくことも多々あります。かといってオーバーロードに警戒しすぎてしまうと、最初に紹介したSHの深く下りていく動きに対応できなくなってしまう。
オーバーロードを攻撃に含むだけで、相手の守備の自己破壊を更に促すことができるのです。
さらに一点。SHが時間とスペースがたっぷりある中でボールを受けられるということは、相手がそれに対処するのにも時間を要するため、SHの周りの味方(SB、CHなど)にも時間が与えられることを意味します。
これにより、SBは次のアタッキングサードでの攻撃で重要になってくるインナー or オーバーラップのどちらをすればよいのか。はたまた、そのアクションを起こすために必要なピッチ、味方、相手の状況を認知する時間が確保されます。
SHに注目しがちなところですが、見えないところで周りの味方を助ける効果もあるのです。
Ⅳ、アタッキングサードでの攻撃
SHについて長々と説明してきましたが、ついに最後のゾーンに突入です。このゾーンでも同様に、大きく分けて2つのポイントにまとめることができます。
①ぺナ脇のスペースを巡った攻防
②ペナ内での駆け引き
です。順に深堀りしていきましょう。
①ぺナ脇のスペースを巡った攻防
SHにボールが渡った直後、SBはインナー or オーバーラップを繰り出します。これによりSHにはより多くの選択肢がもたらされることになるのですが、注意すべきはどちらを選択するかです。
例えばSHにボールが渡る前の場面で、オーバーロードを使用していたとしましょう。この場合サイドには既に2人(SH&相手SBをピン止めしてる味方)いるので、中央を使ったインナーラップが最も効果的です。
オーバーラップを選択してしまうと、サイドで渋滞を引き起こすだけになってしまいます。逆にオーバーロードを使用しなかった場合は、同じ原理でオーバーラップを選択しなければなりません。
タイミングも大切です。SHがボールを十分にコントロールできていない、又周りの状況を確認できない時にSBがアクションを起こしたところで、それは意味のないものになってしまいます。
こういったことを判断し、できるだけスムーズに一連の流れを行うためにも、先程ミドルサードでの攻撃で述べた、「SHとその周りの味方に時間とスペースが与えられる」というファクターが必要不可欠なのです。
アタッキングサードでも前回と同じく、サイド攻略を徹底していきます。最終的に狙うのはペナルティエリア脇のスペースです。
リーズのボール保持という局面に注目した場合、このエリアで味方にフリーでクロスをあげさせることまでが最終段階にあたると言えます。後は戦術云々ではなく、精度の問題であったり、ちょっとした運要素が絡んできます。ビエルサの手が及ぶのはここまでです。
では、どうやって相手が密集している中狙うスペースにボールを運ぶのか。また、どうやってそこで味方をフリーな状況にさせるのか。ここでリーズがフル活用していくのが、ミスディレクションです。
ミスディレクションというのは相手の注意をそらすことを意味し、よく手品で使われる手法です。ある1点に観客の視点を集中させ、一方でトリックをすることにより成立します。手品師というのはミスディレクション、人の視線を操るプロなのです。
ミスディレクションについては、このTED TALK で実践もかねてすごく分かりやすく、かつ面白く紹介されています。興味のある方はぜひ↓↓↓
https://www.youtube.com/watch?v=GZGY0wPAnus
サッカーの場合はミスディレクションによって死角が発生します。狙っているスペースを相手の死角にすることで、そのスペースを有効活用するとともにフリーの味方を創出することができます。
これに3人目の動き出しを付け加えることで、下図で表したような崩し方が可能になるのです。
②ペナルティーエリア内での駆け引き
ペナルティエリア脇のスペースを狙うと同時に行うのが、ペナルティエリア内での駆け引き、言い換えるならばペナルティエリア内の整理です。ここで活きてくるのが逆サイドのアイソレーションです。
ミドルサードでオーバーロードを実施することにより、逆サイドでは必然的にアイソレーションが生まれます。どれだけボールサイドに攻撃が集中していても、逆サイドのSH、ないしはSBが必ずサイドライン際にいたことは試合を通して特徴的でした。
ピッチの端から端まで離れてしまうと攻撃にあまり関与できなくなります。CHもオーバーロード側のサポートに参加するとなると、SHを少し中央よりに配置してもおかしくないところではあります。しかし、このデティールが後々効いてくるのです。
オーバーロードの際、サイドに流れて相手SBをピン止めする役割はCHのクリヒ、またはトップのバンフォードのどちらかが担う、といったことを前章でお伝えしました。ここでサイドに流れなかった人がペナルティエリアエリア内に侵入していきます。しかし、ただ直線的であったり、選手の感性に任せたボックスへの入り方ではなく、ここでもある特定の動きが指示されます。
まずは膨らみながらボックスに侵入し、逆サイド側の相手CBの死角に入ります。
そこから一気にニアに向かって走ることで、相手SBを引き寄せるのです。となると、大外でアイソレーション状態のSHは更にフリーになります。
こうすることで、ボールサイドでは着々とクロスをあげる準備がされている中、ペナルティエリア内ではフリーでシュートを打てる味方が大外から迫ってきている、といった綺麗な構造が出来上がります。
では逆サイドのSHをそこまで離す理由は何なのか。それを知るためにも、まずはSHが中央よりにいた場合を想定してみましょう。
1つ起こりうる弊害としては、先ほど紹介したペナルティエリアに膨らんで侵入していく味方のランニングを阻害してしまうことです。
これだけでなく、中央よりにいてしまうと相手のボランチにマークされやすくなってしまうことも考えられます。また、同じスペースを狙うにしてもサイドライン際から走ってくるのと、中央から走ってくるのでは矢印の方向が変わってきます。
上図に表したように、サイドライン際にいることで自然と矢先がゴールへと向かっている斜めのランニングになります。そうすると相手はマーク&ボール&ゴールを同一視野に入れることが難しくなり、得点の可能性が高まります。
ちょっとしたポジショニングの違いではあるものの、「神は細部に宿る」と言いましょうか、その小さな違いによってゴールの有無、ましてや勝敗が大きく変わってくるのがサッカーというスポーツです。
この大外でのフィニッシュは試合開始3分のゴールであったり、35:24の決定機などから見返すことができます。
Ⅴ、総括
今回はリーズvsハダースフィールドを見ていきながら、リーズの攻撃戦術について考察してきました。ゾーンごとに要点をまとめます。
ディフェンディングサード
ポイント:3角形の形成
パターン① アンカーがボールサイドに寄ってくる場合
パターン② CHが下りてくる場合
・2人で3人を守らせない仕組み
・カバーシャドーの回避
ミドルサード
疑問点:なぜSHにボールがおさまるのか。
結論1 SHが深く下りていく動き
結論2 サイドへのオーバーロード
・相手SBのピン止め
・攻撃の複雑化
・周りの味方にスペースと時間を提供
アタッキングサード
ポイント①:ぺナ脇のスペースを巡った攻防
・インナーラップ、オーバーラップの使い分け
・ミスディレクションによるスペースの狙い方
ポイント②:ぺナ内での駆け引き
・アイソレーション
・SHが内側に寄ってこない理由
・相手SBを釣るトップのランニング
最後に
いかかでしたでしょうか。1ヶ月以上も前に書き始めたものなので、読みにくいところもたくさんあったと思いますが、少しでもリーズ、ビエルサに興味をもっていただければ幸いです。
現在リーズの公式 YouTube チャンネルでは、フルマッチが見れるようになっています。ビエルサの試合を見て損をすることは絶対にありませんので、ぜひチェックしてみてください。
今回は読んでいただきありがとうございました。面白かったよ、って思ったもらえたらぜひSNSで拡散よろしくお願いします。意見などがあればぜひコメント欄、Twitter にドシドシ寄せてください。今後とも記事をアップしていきますので次回も読んでいただけると幸いです。ありがとうございました。
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