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長男と不思議の国のアリス症候群②  虐待気味だった私の父

 

長男と不思議の国のアリス症候群①

 私の幼少期は、とても幸せだったなと思う。両親が若い時に生まれた次女。祖父に可愛がられて、わがままに育った。文字や言葉に興味があり、父が読書家だったことから、友達と遊ばずにひたすら本を読み漁った。小説、漫画、暇をつぶせるものならなんでも読んだ。子供用の本は内容が薄っぺらいと感じ、良く覚えているのは、小学3年生くらいのころに、父親が読んでいた永井豪さんの「凄ノ王伝説」だ。小説版で、挿絵は永井豪さんが描いていた。当時、再々放送くらいで夕方にデビルマンがやっており、「同じ絵だ」と軽い気持ちで手にとった。非常に面白くて物語に夢中になり、良くわからなかった性描写は、なんとなくいけない部分を読んでいるような気持ちになり、でも、それはそれで興味深かった。今考えれば、そこまでのきわどいようなものではなかったにしても、小学生の私にとってはドキドキしたものだった。父は特に、私を止めることも、たしなめることもしなかった。というか、私に興味がなかったように思う。
 小学校高学年になったころから、大酒のみでヘビースモーカーの父親のにおいに耐えられなくなり、私は父に寄り付かなくなった。寄り付かなくなると、父親は不機嫌になり、私を𠮟りつけることでそのうっ憤を払うことにしたようだった。
 毎日のように頬をひっぱたかれ、何かしらで怒られ、1時間から2時間の正座を強要され、父の人生観や自分という人間についての考察を聞かされた・・ような気がするが、正直内容は何も覚えていない。
 酒に酔った父の顔と、自慢げに何かを語っているバカっぽい顔と、臭いタバコ。時々思い出したように「お前聞いてるのか?」とほおを叩かれるが、その痛みも定かではない。タバコで焼き痕を付けられなくて良かったし、それをしなかった父はまだいい方か、と思ってしまう自分の頭がバグっている。何かしら私のことをマルっと否定するようなことを言われていた。
 そして、私の視界の中で、どんどん小さくなる父。ぐるぐると回りだす部屋。自分の座っている座布団だけが固定されていた。
 無機質な色をした壁紙がサイケな原色で彩られ、混ざっていき、まわりのタンスや椅子、テーブルまでもどんどん吸い込まれていく。悦に入った酔っぱらった父の顔が渦の真ん中に集まり、声も一緒に飲まれて聞こえない。周囲には、そう。長男が語っていた、無機質な銀色の球体がどんどん出てくるのだ。いくつもいくつも。球体の中身は、まるでわからないが、いくつも宙に浮いている。
 父のお説教は、私の脳みそには届かず、私があまりにも心ここにあらずな顔をしているので、父は「ボーっとしているとは何事だ」とさらに手をあげた。
 父の声が小さくなり、ぐるぐる回って吸い込まれていくのは面白く、にやけてしまうこともあった。怒られて殴られてにやけているのだから、説教している方としては、さらに強く怒りたくなるだろうとは思うが、とにかく毎日が地獄だった。
 でも、そんな地獄から救ってくれたのは、その「ぐるぐる現象」に他ならなかった。脳みそ全体で、父という嫌いなものを全力で拒絶した結果なのだろうぐらいに思っていた。
 その情景を、長男が見ているという。私のぐるぐる現象が起きるときは必ず、部屋に球体が浮いているのだ。



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