アナログレコード一挙復刻!Hip-Hop黄金期を代表する必聴の名盤を紹介。
各方面で90年代リバイバルが盛り上がる昨今。ヒップホップの黄金時代と言われ、今でも聴き継がれる歴史的名盤たちが次々に登場したのも、90年代前後でした。
この度、そんなヒップホップ黄金時代の名盤を再発するソニーミュージックの新たなシリーズ<Hip Hop Classics>がスタートします。第1弾としてNasの『イルマティック』をはじめ、選りすぐりの4作が国内盤アナログ・レコードとして復刻。
こちらのnoteでは、クオリティや歴史的意義が高いだけでなく、クラシック・ヒップホップの入門にもぴったりなこれらの4作を紹介します!
Nas『Illmatic (イルマティック)』(1994)
これを聴かずしてヒップホップを語るのも、理解するのも難しい。なにしろ、ヒップホップ・カルチャーの「種」に当たる作品なのだ。まず、ゴールデン・エラを代表するプロデューサー揃い踏み。20歳のNas (ナズ)は、ドラッグ・ディーラーではなくラッパーとして生き延びたいとマイクにしがみつくようにラップする。カミソリや銃を隠し持つストレスフルな生活を、巧みなワード・プレイで紡いだヴァースは痛々しいほど切実だ。この作品に出てくる少年と青年の間にいるナシーア・ジョーンズ(Nasの本名)は、ドストエフスキー『罪と罰』のラスコーリニコフや、アラン・シリトー『土曜の夜と日曜の朝』のアーサーと同様、不遇な環境でもがく主人公であり、名作の中にいるがために永遠の若さを保つ。それくらい、文学性も高い作品。実在の人物であるNasは売れっ子ラッパーとしてこの作品から抜け出たが、背後に”イルマティック”な青年が常について回るキャリアとなった。いまのNasが凄いのは、数奇な運命を受け入れ、実年齢に即したラップを発表し続けているからでもある。
★Nas『ILLMATIC【完全生産限定盤/アナログ盤】《 CLEAR VINYL》】』
価格4,800円(税込)SIJP-189 発売中
※完全生産限定盤 ※2021年発売輸入盤国内仕様 ※歌詞・対訳・解説・巻き帯付き
A Tribe Called Quest『Low End Theory (ロウ・エンド・セオリー)』(1991)
コントラバスとドラム・プログラミングの組み合わせによって産まれた、重く柔らかい重低音。タイトルの“Low End”には、ジャズとヒップホップの融点となる低いベース音と、黒人男性の社会的地位(=底辺)を掛けている。2作目にして音楽業界の汚さも見てしまい、「Rap Promoter」 (ラップ・プロモーター)や、「Show Business」 (ショー・ビジネス)といった曲が生まれた。結果、デ・ラ・ソウルらとゆるく組んでいたネイティヴ・タン一派の作品でもヘヴィーだ。プロダクションはほとんどQティップが一手に引き受け、アリ・シャヒード・モハメドはスクラッチで、ファイフはラップで貢献する。とくにファイフの持ち前のユーモアのおかげで、聴きやすくなっている。「Jazz (We've Got) 」(ジャズ(ウィヴ・ガット))の土台や作ったピート・ロック、バスタ・ライムズほか、仲間のサポートもいい。「Check the Rhime」(チェック・ザ・ライム)、「Scenario」(シナリオ)などヒップホップ・ファンの耳に永遠にこびりつく名曲が収録されている。
★ア・トライブ・コールド・クエスト『ロウ・エンド・セオリー【完全生産限定盤/アナログ盤】』
価格6,380円(税込)SIJP-190 ~ SIJP-191 発売中
※完全生産限定盤 ※アナログ2枚組 ※輸入盤国内仕様 ※帯・歌詞対訳・解説付
A Tribe Called Quest『Anthology (アンソロジー)』(1999)
1998年の解散の翌年にリリースされたベスト盤。アートワークで黒塗りの顔に赤と緑のストライプを施しているのは、エリカ・バドゥだ。90年代を通してジャイブからリリースした5作からの曲と、サウンドトラックに提供した2曲。当初はQ-ティップのソロ曲「Vivrant Thing 」(ヴィヴラント・シング)が収録されたが、のちに差し替えられた(日本盤は「Mr. Incognito 」(ミスター・インコグニート))。曲のテーマ、BPMをよく考慮した曲順になっており、通して聴くのがおすすめ。異なる個性がぶつかり、重なり、広がる彼らのサウンドと、等身大のコンシャスネス(正義感)の魅力が改めてわかる。フェイス・エヴァンスとコンシークエンスが参加している「Stressed Out」(ストレスド・アウト)では治安の悪さからくるストレスを嘆き、「Luck of Lucien」(ラック・オブ・ルシアン)はモテようと張り切るフランス人の友人にアドバイスをし、「Descriptions of a Fool」(ディスクリプション・オブ・フールズ)は女性の前で過剰に男らしさを誇示するバカらしさを指摘する。いまでもよくわかる生活感情だが、それがヒップホップに持ち込まれたこと自体、とても新鮮だった。
★ア・トライブ・コールド・クエスト『アンソロジー【完全生産限定盤/アナログ盤】』
価格6,380円(税込)SIJP-192 ~ SIJP-193 発売中
※完全生産限定盤 ※アナログ2枚組 ※輸入盤国内仕様 ※帯・歌詞対訳・解説付
Outkast『Stankonia (スタンコーニア)』(2000)
いまでこそアトランタはヒップホップのメッカのひとつだが、20世紀は違った。高校生ですでにヒットを飛ばしたアンドレとビッグ・ボーイによるアウトキャストが2000年にドロップした4作目。最初の3作でサウザン・ヒップホップの存在を知らしめた次の策は、ヒップホップの定義を広げること。彼らとミスター・DJによるアーストンⅢと、兄貴分のオーガナイズド・ノイズで作ったサウンドは多岐に渡る。「Ms. Jackson」(ミス・ジャクソン)でPファンクを再解釈、「B.o.B」ではドラムンベース、「Humble Mumble」(ハンブル・マンブル)ではサルサを導入したのだ。リリックの面でも重要なポイントがある。女性にたいする視線、扱い方である。性の対象として「戦利品」扱いされがちだったのが、結婚せずに子供が産まれたのを反省したり、対等なパートナーを望んだりとフラットな目線が新鮮だった。新鮮と言えば、「So Fresh, So Clean」(ソー・フレッシュ、ソー・クリーン)では清潔感を自慢している。南部のふたりの天才ラッパーはこの後、ヒップホップ初のグラミー賞最優秀アルバム受賞という偉業を成し遂げる。
★アウトキャスト『Stankonia【完全生産限定盤/アナログ盤】』
価格6,380円(税込)SIJP-194 ~ SIJP-195 発売中
※完全生産限定盤 ※アナログ2枚組 ※輸入盤国内仕様 ※帯・歌詞対訳・解説付
(文:池城美菜子)