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池上さんの本に救われた話。

おとなの教養-私たちはどこからきて、どこへいくのか? (NHK出版新書)

この本を読んで本当に良かった。
と、序章を読み終わった時にすでに思っていた。その理由は私の悩みを一瞬にして吹き飛ばしてくれたからだろう。

この本は、現代に生きる私たちにとっての教養、リベラルアーツについてである。それもまさに、リベラルアーツを用いて読者含む人類の過去、現在、未来を考えるために書かれている。

リベラルアーツとは何か。日本ではあまり馴染みがない言葉なのかもしれないが、池上さんはこう説明した。

リベラル(Liberal)アーツ(Arts)とは、人を自由にする学問である。
たくさんの科目を教養として身につけ、様々な偏見や束縛から逃れ、自由な発想や思考を展開していくことができる。

さらに池上さんは日本での文系理系におけるギャップや、教育方法の歴史についても触れていく。日本の背景に言及してから、アメリカでの取材時に肌で感じた現代の教養のあり方をまとめてくれた。

すぐに役に立つことは、世の中に出て、すぐに役に立たなくなる。すぐには役に立たないことが、実は長い目で見ると役に立つ。

そして、さらに締めくくりにこう仰る。

「自分自身を知る」ことこそが現代の教養だろうと私は思います。

序章の後は池上さんが考える現代の自由七科について少しずつ触れられている。
(気になったら是非読んでみてほしい。)


リベラルアーツと私

本の概要をざっくりと説明してきたが、感想を言う前に私とリベラルアーツの関係について触れておく。

私はアメリカのリベラルアーツ大学に在学する大学三年生だ(正確に言うと三年目を終えたところ)。

アメリカには、リベラルアーツ大学という種類の教育機関がある。これは研究などを中心に行なっている大きな大学とは違い、比較的サイズは小さく、教授が学生に近い距離感で教えることに重きを置いている。また、専攻は最終的に選ぶものの、幅広い教養を身につけるために、自分の専攻以外の授業をたくさん取ることがある意味義務付けられている教育システムだ。

高校生だった私はなぜかリベラルアーツ大学に惹かれた。それは高校が少人数だった影響もあると思うが、自分の興味が一つに決められなかったのが一番大きな理由である。

リベラルアーツ教育の下、本当に沢山の授業を受けた。物理学専攻でありながら、哲学、経済学、文化人類学、社会学….などを学んだ。

その中でも一年生の一学期に受けた二つの授業がとてもリベラルアーツらしい。

一つ目は、アニメから学ぶ日本文化のクラス。アメリカ人とともにアニメを通し日本という国を見つめてみる。これほど面白いことがあるだろうか。それとなく見ていたアニメや映画に自分なりの考察ができることが楽しかったし、様々な視点から知る自分の国の知らなかった側面が沢山あった。

そして二つ目は、メキシコシティという名の(現代言語と歴史と社会学の融合?)革命的な授業だった。メキシコシティという都市にフォーカスを置きながらも実際に学ぶのは文章と社会にある相違点。授業前に自分なりに解釈をし、ディスカッションベースに授業でそれぞれのインプットを話し合い、そこからまた自分の思考と向き合ってアウトプットしていく。このプロセスを一から学ぶことができた。私にとって文章を読んだりすることだけでなく、地図を読むことに対しても姿勢が変わったのだった。ただ読むだけじゃなく、そこから自分が何かを得ることができる、すでに知っていることにつなげていく事ができる。その繋がりがまた違うつながりを生んだりするのだ。

当時一年生だった私もリベラルアーツの奥深さを知り、色んな分野での教養があることの重要さを肌で感じた。違うものどうしが繋がっていくのだ。

学ぶって楽しい。そう思っていた。

二年生になってから物理が好きだって改めて再確認をしたことで、物理学専攻を宣言した。三年生になってからアメリカには戻らずに、スイスでセメスター研究をしてからイギリスで留学をした。

かなり物理生活の濃度が高まってしまったために、逆に物理に対しての愛が冷めてきてしまったのも事実だ。

好きと得意が一緒ではない。そしてむしろどちらかというと苦手な学問を好きになってしまったために、うまく続けていく事が困難になったという経緯だ。

そんな中、今年に入って、少し就活を始めるきっかけがあったのと同時に、自分のやりたいことがわからなくなった。

自分はこれが得意だって言える強みがないと思い悩んだ。就活で自賛できるほどに、すぐに役に立つスキルが備わってないと思った。
スイスで物理専門で生きてる大人の生活を体験し、イギリスで年下の学生の進み方を目の当たりにしてしまうと、私の専門性のなさがものすごく情けなかった。

なんでリベラルアーツを選んでしまったんだろうって思ってしまった。もっと理系の大学に進めばよかった... なんて思ったりもした。

しかし、この本を読んでしっかりと認識し直した。

リベラルアーツ大学を選んだことは後悔していないし、自分にぴったりだったのだと思う。
結局この三年間、ずっと「自分」と向き合って生きてきているわけだ。

自分とは何か、どこからきたのか、好きなことは何か、何がしたいのか。
これらの疑問はリベラルアーツで教養を身につけることによって必然的に生まれてくるものだったのだ。アイデンティティについて考えるには、周りのことも知らないといけないし、生きている社会についても理解していかなきゃいけない。

今までを見つめ直し、これからを生きていくためのモラトリアムをリベラルアーツと共に過ごしたのだろう。

長い目で見ると、私の人生のうちのたった四年間。
ここで自分を見つめて生きてこれたこと。
視野を広げて、たくさんのことを肌で感じながら学ぶチャンスがあったこと。
それに気が付きながら歩いてこれたこと。

きっと....

何十年か先で、未来の私がきっと微笑んでいる。

もう少しだけ時間を使って向き合いたい、私と。


この本のおかげで、最近の悩みがスッキリしました。

池上さん、ありがとうございます。

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