ロケ弁当

撮影現場で重要なのは「ロケ弁当」。「製作部」のいちばん下の「製作進行」が弁当の発注をする事が多い。撮影が押したり巻いたり(スケジュールが前後する事)するので、時には弁当業者への連絡も頻繁に取らなければならない事もある。

撮影に関わるキャスト・スタッフは一日現場から離れられない事も多い。

それゆえ、「ロケ弁当」の手配にはアタマを使う。

二種類用意して選択できる様にしたり、三食飽きない様に種類を変えたり。

若いスタッフは「量」が多くて「脂っこいもの」を好むだろうし、年配のキャストやスタッフは「あっさりしたもの」を好む。

東京はドラマ、映画、Vシネマ、AV等、撮影隊が多いので、撮影現場まで「ロケ弁当」を配達してくれる弁当業者も多い。それだけ、選択肢も多いし、配達してくれる地域も広い。

大阪で「朝の連続ドラマ」をやっていた時はこの弁当業者探しで大変苦労した。

当時、大阪で撮影していたのは、「NHK大阪」の「朝ドラ」。毎日放送の「昼帯ドラマ」、そして朝日放送の「部長刑事」、ウチの「朝ドラ」だけだった。

京都ロケの終わったある夜、APの僕と「製作部」で翌日のロケの打ち合わせをしていた。
深夜の打ち合わせで「製作部」も僕も疲労困憊。

明日のロケは昼まで京都で撮影して、その後、滋賀県の彦根まで移動する。

最初は「バレ飯」(食事休憩を1時間取って、キャスト・スタッフに各々お店で食事を摂ってもらい、領収書を集め、一定金額を支払う)も考えたが、ロケのスケジュールの「押し巻き」(スケジュールが前後する事)を考えると、「ロケ弁当」の方が安全だという結論になった。

連日、灼熱の京都でのロケは続き、毎日3食「ロケ弁当」だったのだが。

翌日、「技術スタッフ」は昼食の「ロケ弁当」数十個を捨てた。食べなかった。ある種の抵抗だったのかも知れない。

僕はもう一人の先輩APに連絡して、その事を報告した。何とかしなければならなかった。

先輩は彦根に先回りしてくれて、スタッフが泊まるホテルの屋上で「焼肉パーティー」の準備をしてくれ、到着したスタッフを慰労してくれた。

こんな事もあった。奈良県の橿原神宮前で連日ロケした時、ロケ地近くにキャスト・スタッフ大人数で泊まれるホテルが一軒しか無かった。

このホテルの朝食が洋食しか無かったのである。

まずは年配の俳優Yさんからクレームがついた。ちゃんとした「和食」の朝ごはんを食べさせて欲しいと。

スタッフからも同様のクレームが相次いで寄せられた。

ホテル側と交渉してみたが、「和食」を出す事は物理的に難しい。ホテルとして出来る精一杯の事は「おにぎり」を握る事。

それで、朝「おにぎり」を100個握ってもらった。1人当たり2個の計算。

しかし、100個のおにぎりに誰も見向きもせず、そのまま残ってしまった。他に解決策は見つからなかった。僕はキャスト・スタッフとホテルの間で板挟み状態になり続けた。

寒くて凍えそうな冬。俳優さんが「うどんの屋台」をスタジオやロケ地に差し入れてくれる事がある。たった一杯のうどんだけれど、これが身に沁みるほど美味しい。

そんな時、東京での撮影は何もかも揃っていて、イイなぁーと思う。

でも、無い無い尽くしだった
「朝の連続ドラマ」の現場も「ある種の飢餓感」故か、今となっては懐かしい想い出だ。

「人間」にとって、「食べる事」は本当に大切な事。

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