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新規サービスとデザイナーのペイン

スマートキャンプデザインブログ、モリシゲです。

私はデザイナーという職業柄、新規サービスやブランドについては知識が足りないながらも、「サービスづくりやデザインのため、ユーザーへの認知拡大のためにも、できる限りデザイン観点で整理していこう」と仕事をしてきました。

ですが、一人の力では限界がありそうな気がしはじめていて、普段感じているペインや、イベントや人の話を聞いてデザイナーのペインを、脳内で整理してブログに言語化することにしてみました。

ひとまず、3つのペインに分けられたので、今回は「新規サービスとデザイナーのペイン」という題でまとめていきます。

1. アイデンティティデザインができないペイン

アイデンティティデザインとは、思想・価値・視覚などを定義して「会社(または製品・サービス)の固有性」を設計することです。かんたんに言えば「会社やサービスの個性」を決めることです。

日本ではCDOやCXOなど、デザイン的な戦略を考える役員やデザイン責任者を持たない企業の方が多いため、デザイナーが介入しない中で新規サービスが生まれます。

すでに決まってしまったことからアイデンティティを見出し、デザインするは至難の業です。

極端なフィクションでたとえ話をすると、

超高速で走行できるのが売りのバイクに「TURTLE(亀)」という名前がついてしまった。担当デザイナーはそれを受け、他部署に聞いてまわると「速いバイク」を開発・販売していきたい、ということがわかってきた。

このような場合、この名前ではロゴやビジュアル、外装デザインで表現するのが難しいのは想像できると思います。正しい認知も得られるでしょうか。

命名の理由を聞くと「長い間乗り続けてほしいから亀の意味を込めた。甲羅のような硬い感じも渋くてウケそうだから表現したい。」というような回答で、ユーザーに与えたいイメージとは違っていたり、ユーザーにとって直感的にどんなバイクか分かりづらかったりします。

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こうした場合、デザイン的な戦略はおろか、デザイナーが難しく解釈して「とりあえず目に見える形にする」という方法をとってしまいがちです。

デザイナーのモチベーションが下がるのはもちろんですが、長期的に見たときに認知獲得が難しくなったり、サービスづくりの方針が定まらずサービスの価値向上が鈍化・低減するなど考えられます。

その結果、売上や数字に影響がでてきても、「集客の方法が悪いから改善しよう」「営業をもっと増やして面を稼ごう」というマインドのままでは、サービスの成長は停滞したままで、「客が来てもモノが悪いから売れない」状態になってしまいます。

やっと気づいてリブランディングを行っていてはすでに遅れをとっていて、競合他社に自分たちよりも良いものを作られていることでしょう。

理解していなくてもなんとなく感覚として思っているデザイナーも多くいると思いますが、実際にアクションをとれる環境やポジションにいる方は少ないので、「やりたいけどやれない」ペインとなっていると思います。

デザイナー側は社内の啓蒙活動を根強く進めなければなりません。

2. 経営に参入しづらいペイン

デザイナーのいない中で「サービス名」や「サービスの内容」が固まっていったとして、あとからデザイナーが参入し、アイデンティティの定義をしようと思っても「もう決まったことだから」と変えられないことが多いでしょう。

それは「時間をかけてみんなで考えたから」「すでに多数決をとったから」くつがえってしまうと、また振り出しになってしまうからでもあります。

デザイナーの地位が高い海外と比較すると、日本ではデザインの価値は高くないため、デザイナーの発言権も組織やチーム内では弱く、アイデンティティはどうしても後追いになりやすくなってしまいます。

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給与所得の面においても、2017 Design Salary Surveyと、厚生労働省の調査データをかけ合わせてグラフを作ってみたところ、やはり海外に比べると低い水準にありそうだということがわかりました。
(※制作したグラフは自分用にわかりやすくするために丸めや加工があるため、正確には出所を確認ください。)


他にはデザインスキル面でもペインがあります。「すでに決まってしまったことからアイデンティティを見出し、デザインしていくスキル」です。
デザイナーのする会話のなかでは「なんとかうまいこと見せた」「とりあえず整えた」といった言葉でその能力が垣間見えます。

ただ、デザイナーがその業を極めるのは少し的外れだと思っています。

「経営・ビジネスサイドにいかにデザインの考え方をインストールさせられるかがデザイナーの手腕」だと、エイトブランディングデザイン西澤さんもDesignship 2019にておっしゃっていました。

ペインに耐えるのではなく、デザイナーから経営にアプローチしていく必要があります。そのアプローチを受け入れてくれる組織があれば、きっとうまくいくと私は思っています。

3. ブランド全体管理ができないペイン

複数のサービスをブランディングしていく場合、さまざまな方法があります。(マスターブランド、マルチブランド、サブブランドなど)

どのブランド戦略をとっていくかは会社によって異なると思います。これをデザイン観点で管理できている役員がいれば問題ありませんが、多くの場合はデザイナーがよしなに対応している場合が多いと思います。

2の章のようなデザイナーの立場が強くなく、よしなに対応している状況では、経営とデザインの間にブランド管理の分断が起きてしまいます。

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デザイナーは媒介者であるので、BtoB、BtoCの「to」の部分を担うと思っています。この「to」をちゃんと交通整理していかなければ、良いサービスや正しい認知は届けられないと考えています。


痛みを知っているデザイナーだからこそできること

新規事業も新機能も名前もロゴも、あれもこれもできるようにしたい、詰め込みたい、という想いは誰しももっています。

デザイナー特有の「大切な核の部分だけに削ぎ落とす」という力は、ビジュアルデザインだけでなく、新規サービスの設計、そして背後にあるブランド管理の部分でも重要な力となると思っています。

そこに到達するのは険しい道のりです。会社やサービスを支えたい気持ちと実行力を常に持ち続けたいものです。


WRITER & EDITOR
SMARTCAMP Designer モリシゲ @MorishigeYuta


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