見出し画像

データ利活用実証プロジェクト報告 2/5(六本木商店街振興組合)

次世代通信推進課の隣のチームが昨年実施していた「データ利活用実証プロジェクト」の報告の全5回シリーズの第2回目として、日本電気、三井住友カード、ナビタイムジャパンの協力の元、六本木商店街振興組合が行っていただいた「混雑状況と人の流れ・属性、エリア全体の消費動向等の可視化」のプロジェクトについて、担当した近藤がご紹介します。

六本木商店街振興組合がこの実証を通じ目指したもの

コロナ禍の中、3密回避や人の移動の制限を行ってコロナ感染を最小限に食い止めるというのは喫緊の課題です。一方で、商店街という日常の場を維持し続けるために何をすべきか六本木商店街組合は考えていらっしゃいました。今回東京都が募集した「データ利活用実証プロジェクト」の中で、六本木商店街振興組合はスマート街路灯から得られる情報や商店街に関連するデータを活用して、下記の点を目的として実証しました。

・スマート街路灯から得られる通行量情報を活用し、まちの状況を可視化・情報発信することで来街者がまちに安心して訪れられるようにする
・通行量情報と決済情報や犯罪情報等を掛けあわせ、まちの実態把握を行い、地域課題解決に役立てる

プロジェクト概要

前述した目的のため当実証プロジェクトでは下記のデータを活用し、可視化及び分析を行いました。
①通行量情報
スマート街路灯のカメラから方面別・性別・年代別の通行人数を収集
なお、カメラから得られるデータは個人識別できず「群」のデータとなっており、分析には個人情報を取り扱わない仕組みになる配慮がされています。(例:20代男性、40代女性が何人通行したというカウント情報を活用している。)

画像1

②決済情報
三井住友カードの持っている統計化したカード利用情報を活用
こちらも個人ごとの決済情報ではなく、個人が特定できない統計化情報を使っての分析になります。(例:午後8時から9時時間帯におけるレストラン分野の店舗で決済された総額および件数といったカード会社が処理した統計情報を利用)

③その他のデータ
・東京都がオープンデータとして開示している町丁別・罪種別犯罪情報
・気象庁の観測地点別の日別、時間別の気象情報(天気、気温 等)
・東京都がオープンデータとして公表している東京都および港区における、コロナ感染者数の公表数字
・ナビタイムジャパンの時間別の六本木駅・電車(大江戸線、日比谷線)の混雑情報

これらのデータを活用し、可視化及び分析した成果の一部をご紹介します。

〇混雑マップ発信
通行人数から混雑度に変換して、その情報をスマート街路灯のサイネージ及び本事業HPにて六本木エリアの混雑状況をリアルタイムに発信を行いました。また、六本木交差点に面したデジタルサイネージにて、この活動広報を行いました。

画像2

六本木エリアの街路灯サイネージにて混雑マップを発信

画像3

事業HP上での混雑マップの表示

画像4

六本木交差点大型ビジョンにて混雑マップ発信をPR

混雑マップ配信への評価としては、来街者の83%が混雑マップの配信は「役立つ」と回答を得ました。アンケート調査(n:36名)のため参考データにはなりますが、商店街関係者の想定以上に混雑マップの配信評価が高く、混雑情報への関心意識が高まっていることが確認できました。

画像5

〇コロナ禍における通行量・消費の実態把握
2019年7月、2020年7月の通行量情報・決済情報を比較し、コロナ禍における通行量・消費状況の変化を分析しました。この分析を通して、コロナ禍による通行量の減少及び決済率増減が町丁別や店舗業種別で顕著な差があることが確認できました。
今回は、この結果を受けて対策の活動までに至ってはいませんが、数値によって地域課題を可視化できたことは大きな一歩でした。

〇通行量と犯罪発生の関係性分析
2019年1月~2020年7月までの通行量と犯罪発生情報を分析し、通行量と非侵入窃盗(路上における窃盗)は強い相関関係(相関係数0.76)があることが分かりました。今後、通行量に応じて注意喚起を促す活動を行うことで、未然に被害や犯罪を防ぐといったことに活用できそうです。

六本木商店街振興組合が実証を通して得られたもの

今回の実証を通して、六本木商店街振興組合からは以下のような考察をいただきました。

1 データの組み合わせが浮き彫りにする多面的な実像
スマート街路灯から得られる通行量情報は、それまで肌感覚であった賑わいを数量で捉える画期的なツールと考えていましたが、購買情報とのクロス分析により、通行量が減少しても売上が伸びた業種やエリアがあるなど、多面的な実像が浮き上がりました。
データの相互利用は、多様なまちの姿や動きを的確に捉え、各主体の効果的な取り組みにつながる可能性があります。本分析も、複数ツールの決済情報や他エリアの通行量情報にまで対象を拡大できれば、事業者の施策のみならず政策判断ツールとなりうる可能性もあるように感じられます。

2 社会的変容への商店街の対応
六本木は従来夜を中心に来街者を呼び込む広域型商店街であったが、今回の分析の中で2000年以降の大型複合施設等による通勤者増加が押し上げていた消費が、リモートワーク 増加により落ち込んだことが見えました。これは大規模開発等の計画への商店街の対応を考えるための重要な気づきとなったと言えます。
また効果検証アンケートでは、事業者側の「混んでいても人は目的地に行く」と来街者側の「混雑情報は外出時の参考にする」の意識の乖離は貴重な気づきとなりました。現環境下では「まちの安全性」の発信は、安心して来街を促す施策となりうると考えられます。

3 情報発信力の重要性
今回の混雑マップは、行動変容を促すことと併せ、まちの安心感を発信する取り組みでもあったが、アンケート結果を見る限り、地元の関係者には街路灯の存在すら知らない人もいました。先進的な取り組みを行ったとしてもその活動の発信が必須であり、今後の大きな課題であると認識しました。

4 スマート街路灯活用のための環境づくり
スマート街路灯がもつカメラによる通行量測定やサイネージによる情報発信などの複合機能をさらに有効活用するには、データ流通や広告表示の可能性を広げる環境づくりが必要だと考えています。本実証で実装したサイネージ混雑表示は今後も継続する予定であり、また今後ウェブ上での情報を提供し、それを見た人の意見収集も予定しています。

おわりに

本実証に対して他地域の商店街からの評価も高く、また六本木商店街振興組合自身も本取り組みの成果を評価しています。
しかしながら、商店街組合の皆さんがこの取組を継続的な活動するにあたって、自身が保持しているデータ以外の各種データが手軽に活用できる環境になく、分析にはアナリストの介在が必要です。そのための予算もないのが実情です。
また現時点では情報発信不足による行動変容効果のフィードバックが不十分であることが否めなく、効果の見える化施策の計画も今後の課題であると考えています。
東京都はスマート東京実現のために、データの利活用を促進していますが、そのデータ流通の環境整備だけでなく、運用するためのリソースを独自に抱えられない組織体に対してどのようにサポートしていくかも今後の課題として考えなければならないと感じました。一気に解決できるものではありませんが、一つずつ対応を検討していきたいと思います。