見出し画像

夜の都会のムードを感じさせた稲垣潤一(シティ・ポップの記憶②)

 The City-Pop in my MemoryⅡ


 ”シティ・ポップ” について明確な定義はなく、人それぞれに ”シティ・ポップ” の範囲は異なります。
 ここで言う ”シティ・ポップ” とは、私の感覚で、洗練された都会のムードを感じさせてくれたポップスのことで、80年代のあの時代、好きだったアーティストたちを紹介していきます。 


 今回は、稲垣潤一さんについて "note" していきます。

 稲垣潤一さんのといえば、代表曲は1992年の『 クリスマスキャロルの頃には』だと思うのですが、私が好きな ”夜の都会(シティ)のムード” が感じられる曲は、デビュー初期の80年代前半に多かったんです。


+  +  +  +  +  +

 

◎『ドラマティック・レイン』のイメージ

 出会いとなったのは、「ヨコハマタイヤ:ASPEC」のCMソングとなった『ドラマティック・レイン』(1982.10)だったのですが、自分にとって、この曲は、かなり強い印象を残してくれました。

作詞:秋元康/作曲:筒美京平/編曲:船山基紀

 筒美京平さん作曲なんですが、稲垣潤一さん自身が、ドラムを叩きながら歌うというスタイルが新鮮だったですね~。
 ちなみに詞の方は、作詞家活動を始めて間もない秋元康さんで、以降、ちょくちょく詞を提供しています。

 当時、この『ドラマティック・レイン』が収録されているアルバムはリリースされてなくて、代わりに聴いていたのが、デビューアルバム「246:3AM」です。
 このアルバムは、元オフコースの松尾一彦さんの曲が中心で、全体的に優しい感じなんですよね。
 なので、当時、『ドラマティック・レイン』のテイストを求める自分にとっては、ちょっと物足りなく感じてしまったんですよね。

 そういう事情で、中学時代はそれほどでもなかった印象のこのアルバムなんですが、聴けば聴くほどいいアルバムに思えてくるんですよね~。(最終的には、稲垣潤一さんのアルバムで一番聴いた気がします。)
 シングルとなった『雨のリグレット』や『246:3AM』はもちろん、マーティ・バリンの『ハート悲しく』のカバーや、『月曜日にはバラを』などシットリとした曲も多くて、とても聴き心地が良かったのです。


『246:3AM』
作詞:湯川れい子/作曲:松尾一彦/編曲:井上鑑

 この曲は都会の夜のイメージがあって、特に好きでした。
 ちなみにタイトルは「246号線(青山通り)の午前3時」という意味です。


◎待望のセカンド・アルバム以降

 年が明けるとすぐに、『ドラマティック・レイン』が収録された2ndアルバム「Shylights」(1983.2)がリリースされます。

 このレコードも聴きましたね~。
 もちろん『ドラマティック・レイン』も好きでしたが、B面に収録されていた『ロング・バージョン』が好きで好きで... 
 歌った回数ならこちらが上ですね。(←どうでもいいわ)


ロング・バージョン
作詞:湯川れい子/作曲:安部恭弘/編曲:井上鑑

さよなら言うなら今が
きっと最後のチャンスなのに
想いとうらはらな指が 
君の髪の毛かき寄せる

 別れ話をしようとしてできないズルイ男の歌なんですが、大人の香りのするドラマの一場面のようで、こういうのに憧れてたんですね、うん。

 そして、2ndアルバムがリリースされた後も、次々と新曲も発表されたんです。


『エスケイプ』(1983.3)
作詞:井上鑑/作曲:筒美京平/編曲:井上鑑

ただの友達を恋人に変える
渚の夜風に FLY AWAY


『夏のクラクション』(1983.7)
作詞:売野雅勇/作曲:筒美京平/編曲:井上鑑

夏のクラクション
あの日のように きかせてくれ
途切れた夢を揺り起こすように...


 『エスケイプ』も『夏のクラクション』も、『ドラマティック・レイン』と同じく筒美京平さんの曲なんですよね。
 特に『エスケイプ』なんて、自分の求めてるテイストそのものって感じで、さすが筒美京平さん!なのです。

 そして、この2曲も収録された3rdアルバム「J.I.」(1983.9)

 デビューから2年満たない間に3枚のアルバム!
『ドラマティック・レイン』の勢いそのままに、ブレイクしていったんですよね~。

 アルバムのジャケットが全て稲垣さんご本人のポートレートなんですが..

 すごく女性ファンが多かったんです!

 そういう枠だったんです。
 ほんとに!

 写真集とかもリリースされてましたから、魅了されたのは甘い歌声だけではなかったのです。


◎稲垣潤一さんの世界を作ったソングライターたち

 稲垣潤一さんは、ソングライターではなく、当時、珍しかった男性シンガーなんですよね。

 なので、多くのソングライターが楽曲を提供しています。

 既に名前を挙げた筒美京平さんや元オフコースの松尾一彦さん以外にも、杉真理さん、安部恭弘さん、林哲司さんなど、アダルトな世界観を持つソングライターが参加してるのです。

 さらに、1984年の『オーシャンブルー』では松任谷由実さん、1985年の『ブルージン・ピエロ』では、サディスティック・ミカ・バンドの加藤和彦さん、『バチェラー・ガール』では大瀧詠一さんと、名だたる作家陣を迎えて、より上質なポップス・シンガーとなっていくわけなのです。


『オーシャンブルー』
作詞・曲:松任谷由実/編曲:松任谷正隆




 様々なソングライターさんが参加する中で、少しずつ、暗くウェットな感じは薄らいでいく様子がして、『ドラマティック・レイン』テイストを求める自分としては、ちょっと寂しい感じだったのです。

 4thアルバム「Personally」に収録されていた『レイニーロンリネス』なんかはシングル曲でなくとも、作詞:秋元康さん、作曲:筒美京平さん、編曲:井上鑑さんと、これぞ稲垣潤一!(あくまで個人的に...w)という感じなのです。


レイニーロンリネス
作詞:秋元康/作曲:筒美京平/編曲:井上鑑

 

 こういうテイストを求めるファンとしては、ポップス路線を強めていくことに寂しさを感じたのですが、それで、名曲『クリスマスキャロルの頃には』につながっていくのですから、これも必要な変化だったのだと思います。

 2000年代以降は、男と女シリーズで、いろんな女性シンガーとのデュオを聴かせてくれましたが、自分の中では、稲垣潤一さんといえば、この80年代前半の頃なのです。


+  +  +  +  +  +


 デビューアルバムから主な編曲者として参加していた井上鑑さんが、5thアルバム「NO STRINGS」を最後に離れていくのですが、その後は一気にポップス志向が強くなったような気がしましました。

 そう考えると、実は、自分が魅了された都会のイメージは、井上鑑さんのアレンジによるものも大きかったのかもしれませんね。
 井上鑑さんについては、いずれ、また記事にしていきたいと思います。



<シティ・ポップの記憶>
私のシティ・ポップの原点「アスペック・スペシャル」
杉山清貴&オメガトライブのナイトサイド
シティ・ポップの貴公子と呼ばれた山本達彦の歌声
寺尾聰の『Reflections』には風が吹く
優しすぎる安部恭弘の歌声
私のシティ・ポップでの重要人物だった井上鑑の音楽