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コロナ禍の子育て家族の生活と貧困|保田真希

2022年10月に札幌エルプラザ情報センターで実施した「エルプラシネマ」に向けてコラムをご執筆いただきました。


1.貧困

みなさんは、「貧困」という言葉を聞くと、どのような人や生活を思い浮かべますか?近年、子どもの貧困、女性の貧困、高齢期の貧困など、貧困に対する関心が高まっています。
しかし、貧困は特別な人に限った話ではありません。程度の差はありますが、誰もが貧困のリスクを抱えています。例えば、高齢期の貧困は、年金の問題、現役世代の働き方が関係しています。女性の貧困率は65歳以上で約2割、80歳以上で約3割です。子育て世帯の女性は扶養の範囲内で働くことが多いため、ますます高齢女性の貧困化が進むと言われています。

2.子育てや教育が「家族」に依存した社会


子どもの貧困率は13.5%、子どもの約7人に1人が貧困状態です(厚生労働省(2020)「2019年国民生活基礎調査」)。子どもの貧困を生み出す構造には、労働の不安定化や所得格差の拡大、社会保障の後退、「子どもの養育・教育の家族依存」が関係しています。

日本はOECD(経済協力開発機構)諸国の中でも、教育費の公的支出が低いです。保護者が1年間でこども1人に対して使用する学校外も含めた学習費はいくらだと思いますか?文部科学省(2021)『平成30年度子どもの学習費調査』の「学校種別の学習費総額」をみると、1年間で以下のようになります。

【幼稚園】 公立:約22万円 私立:約53万円
【小学校】公立:約32万円 私立:約160万円
【中学校】公立:約49万円 私立:約141万円
【高等学校(全日制)】公立:約46万円 私立:約97万円

幼稚園3歳から高等学校第3学年までの15年間の学習費総額は下記のようになります(文科省2021)。

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幼児教育・保育の無償化が開始しましたが、無償化の対象の3-5歳でも対象外の幼稚園があります。また、大学等への進学率と授業料も上昇しています。文部科学省の「学校基本調査」では、2020年度の大学進学率が54.4%に達し、短期大学、専門学校などを含めると、高等教育進学率は約84%を占めています。初年度学生納付金(授業料・入学料・施設整備費)は
私立大学で約134万円、私立短期大学で約112万円です。(文部科学省「令和元年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」)
国立大学は約81万円、公立大学は約93万円です。
子どもの成長とともに、国から支給される手当は減少しますが、それ以降も教育費はかかります。

3.コロナ禍の変化 
(1)子育て家族の孤立化


緊急事態宣言や感染状況で、北海道内でも幼稚園や保育園、認定こども園等で登園自粛や休園・休校が相次ぎました。コロナ禍で子育てのサポートをお願いする人がいるかと言う質問に対しては、北海道市町村子ども発達支援センター全てで実施した調査では約4割が「誰もいない」、政令市近郊の教育・保育施設調査では約3割が「誰もいない」、札幌市内全ての認可保育所調査では約3割が「誰もいない」と回答していました。コロナ禍はどの調査も、日中は約8割が「母親」が家で見ている状態でした。

(2)女性の非正規化と貧困リスク


コロナ禍の前から、育児や介護、介助等の「ケア」の役割は主に女性が担い、専業主婦や非正規雇用の割合も多いです。男性が育休などを取得している場合は、フルタイムで働いている女性もいますが、コロナ禍で実施した調査のケア・仕事・サポートに着目すると、急な預け先がなく、サポートが希薄な状況では、休園や休校で子どもを見なければならないことから、女性の非正規雇用化や専業主婦化に繋がっていました。ケアを行うことで稼ぐことができない状態は、世帯として貧困でなければ家族形態の1つとして潜在化しますが、自身の生活を維持するための収入が無い状況は、貧困のリスクに繋がります。仮に離婚して世帯主になると、貧困として現れます。
どれだけ多種多様な商品やサービスがあっても、地域で利用可能かどうか、さらに利用するには購入する必要があるかもしれず、家族によるケアの負担軽減に向けた資源も必要になるでしょう。


―参考文献―
・保田真希(2022)「コロナ禍における子育て家族の生活と「二次的依存」-幼稚園・認定こども園・保育所利用世帯へのアンケート調査から―」北翔大学短期大学部研究紀要(60),97-112頁.
・保田真希(2022)「新型コロナウイルス感染症と子育て家族の生活-市町村子ども発達支援センター調査から-」『北翔大学教育文化学部研究紀要』(7),171-186頁.
・保田真希(2022) 「コロナ禍における子育て家族の生活と「二次的依存」-政令指定都市の認可保育所利用世帯に対するアンケート調査から-」日本社会福祉学会第70回秋季大会資料.

保田真希(北翔大学 短期大学部 こども学科 准教授)
北海道出身。社会福祉士。
2018年北海道大学大学院教育学院 教育学専攻 博士課程修了。博士(教育学)。2018年北翔大学短期大学部こども学科講師、2022年同准教授(現在に至る)。2020年から日本社会福祉学会研究支援委員として、若手研究者のサロンを企画中。現在、科研費の助成を受けて、北海道内の子育て家族の生活実態などを調査中。



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