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小粒で青い畑の宝石 沖縄在来大豆 オーヒグーの歴史を島豆腐で味わう vol.3

日本の南端でありながら、台湾から続く琉球弧文化圏に位置する沖縄。その生活文化や精神文化は、国連から先住民族に認められるほどの独自性を持っています。HAKOBUNEプロジェクトの記念すべき創刊号は、沖縄で食べ継がれ、今ふたたび光を浴びつつある在来大豆「オーヒグー」の物語をお届けします。

HAKOBUNEプロジェクトとは?
スローフードインターナショナルおよびスローフードニッポンが展開する「味の箱船プロジェクト」に登録された希少な食材や食文化を、より多くのかたがたとともに愛で伝えるダイニング&メディアプロジェクトです。「味の箱船プロジェクト」は、世界中で消えてしまいそうな伝統食、伝統知を文字に起こして貯めておく、「絶滅危惧食品リスト」です。味の箱船フォトギャラリーはこちら


《HAKOBUNE 創刊号》
Episode1
食べ継いできた、地域の誇りを未来へ
繁多川公民館 あたいぐわ〜プロジェクト

Episode2
挽いてみた 絞ってみた 茹でてみたオーヒグーゆし豆腐のワンデイ・ダイニング

Episode3
つくってくれて 食べてくれて ありがとう
オーヒグーを味わい尽くすコミュニティの息吹

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Episode 3
つくってくれて 食べてくれて ありがとう
オーヒグーを味わい尽くすコミュニティの息吹


一度は農業試験場で保存されるのみとなった沖縄在来大豆「オーヒグー」は、その魅力を知った人たちによって再び光を浴び、発展の輪が広がりつつあります。オーヒグーに魅了され、その復活と継承の物語を共に紡いでいる4名の物語をお届けします。

オーヒグーが繋ぐ地域の誇りと人々

あたいぐわ〜プロジェクト(vol.1でお読みください。)のメンバーが収穫したオーヒグーは、一度繁多川公民館に集められ、乾燥、脱穀、選別されます。これらの作業を担うのは、主に公民館の職員です。

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繁多川公民館長、南信乃介さん

「脱穀作業をしているときに放課後の子供たちが遊びにきていたら、『一緒にやろうよ』って声をかけるんです。『やったことあるー』『豆腐作ったことあるよ』とよく手伝ってくれるんですよ。」

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オーヒグーゆし豆腐のワンデイ・ダイニングの日も、子どもたちが誇らしげに手伝ってくれました

そう語る繁多川公民館長、南信乃介さんは「あたいぐゎ〜プロジェクト」の発足に携わった一人です。

「ある人が言ってたんです。『昔の繁多川豆腐は切ると断面が光り、しっかり固まっているんだけど口に入れるとふわっと溶けるんだ』って。純粋に、食べてみたいなぁと思ったことから復活プロジェクトが始まりました。」

繁多川の先人たちが食べていた豆腐を再現するには、材料に使用されていたオーヒグーの復活が必要だと知った南さんは、タネの在り処を突き止めた沖縄大学・沖縄国際大学の非常勤講師 波平えりこさんとともに、農業試験場からわけてもらった種を家庭菜園で増やしていきました。

現在は、年間20-25kgほどの収穫のうち、2kgを種蒔き用として保管しているそうですが、一定量の生産ができるまでの道のりは簡単なものではありませんでした。

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選別後、冷蔵庫で大切に保管されるオーヒグー

「まず苦労したのは、鳩事件ですね。太陽が出た日は公民館の屋上に大豆を干していたんですけど、回収しようと見に行ったら広げた大豆の真ん中に鳩が座ってるんです。鳩ってほんとに豆が好きなんですね(笑)。畑に種を蒔いてもすぐに鳩がやってきて、人間の足を突つくほど近づいてきて、蒔いたそばから食べるんです。これはやばいと鳩注意警報を発令して、屋上に干すときはネットを張ったり、種蒔きは鳩にばれないようにタイミングを見計ったり、対策を図りました。それから、かび事件もありました。早々に乾燥させないと、ちょっとした雨や朝露でもかびるんですよ。うまく乾燥させるにはスペースが必要ですから、日によっては体育館の半分が大豆で埋まることもありました。」

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さまざまな課題を乗り越え見事復活を遂げたオーヒグー。繁多川自治会では12月を豆腐の月と設定し、年に1度豆腐づくりイベントを実施するまでに至りました。

「聞いていたとおり、オーヒグー入りの豆腐はやわらかいのに粘るんです。裁断機を使った調査をしたこともあるんですが、凹むけど切れない。粘る豆腐って面白いですよね。食味との因果関係はまだわからないことも多いですが、他の大豆と比べてオリゴ糖がずば抜けて高いことがわかっています。」

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オーヒグーを3割配合したつくりたてのゆし豆腐。しっかりとお箸にのる粘り気がありながら、口に入れるとほどけるように柔らかい。

評判を耳にした人たちが種を譲って欲しいと南さんを訪ねることも増えました。繁多川公民館では、「地域や沖縄のために栽培してくれるなら」と10粒ずつ渡しているそうです。

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南さんがオーヒグーや豆腐づくりに取り組む目的は、単に生産量を増やすことではありません。オーヒグーを通して地域の人々が交流すること、そして地域に誇りを持ってもらうことです。

「地域のおじいちゃんおばあちゃんは、『繁多川に自慢できることなんて何もないよ』と言っていたんです。でも話を聞いていくと『そういえば豆腐づくりは盛んだったね』って。3軒に1軒が豆腐屋だったなんて明らかな特徴ですよね。当たり前と思われていたことに光を当てると、地域のひとびとの力になる資源に変わるんです。」

現在、近隣の小学校3校の子どもたちが、総合学習の授業で地域の人からオーヒグーの話を聞き、栽培や豆腐づくりを通して地域で受け継がれてきた暮らしを追体験しています。

「将来、外の社会に羽ばたいていったときに、生まれ育った地域の資源を誇りに思う気持ちが力になると信じています。自分たちの個性や独自性を自覚することで、コミュニケーションの材料になっていくと思うんですね。繁多川にしかない個性を学ぶ材料を提供することが、公民館の使命だと思っています」

「みんなで石臼を回し、しんめーなーびーを囲む美しい風景をつくりたい」

繁多川でオーヒグーを主役にしたイベントを主催し、飲食店などへの流通の開拓も先導する大城雅史さんは、今から約3年前にプロジェクトに関わり始めました。

「もともと農業に携わっていて、自分で何かイベントをやりたいと考えていたときに地元・繁多川にオーヒグーがあるな、と思い出して。もともと存在は知っていたんですが、一般の人が気軽に食べたり手に取ったりする機会がないと気づいた時に、もったいないと感じました。そこで、オーヒグーのマルシェをやってみようと思い立ったんです。」

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イメージを膨らませた大城さんは、繁多川公民館に南さんを訪ねます。

「みんなで石臼を回したり、しんめーなーびー(四枚鍋)を囲んだりする風景は絶対に美しい。その美しさを多くの人とシェアしたい。多くの人が関わることで地域の外の人たちが興味を持ち、そのことで、地域の中の人たちが重要さに気づくのではないかと。『オーヒグーってそんなに注目されるものなの?』『豆腐づくりって、在来品種って、そんなに大事なものなの?』って。そのきっかけ作りにしたいと思いました。」

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大城さんは、自分でも畑を借りてオーヒグーを栽培している

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飲食店に声をかけ、オーヒグーの魅力を伝えながらイベントへの出店を依頼。南さんとも相談を重ね実現したのが「繁多川豆取祭(マーミフェスタ)」です。

イベント当日は、さまざまな飲食店が趣向をこらしたオーヒグーのクラフトフードを堪能できるだけでなく、ゆしどうふづくり体験も実施。2018年に始めたイベントは2019年10月に第7回目を迎え、参加する飲食店も17にのぼっています。

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・いまいパン・モーニングカフェOHANA・Fish&Chips まるたま・ベトナムバイク屋台 コムゴン・アイタル食堂・サンキューファーム&沖縄れんこん・IL CUORE(イル クオーレ)・Haku△San・ニュー夜明け&IROCAKES・Charka・KIZAHA COFFEE・matte pan・天然酵母のぱん はなこ・六屯 rotton・We are Vegan・まーみ食堂・FoodChord

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豆を挽くところから豆腐づくりを体験できる。

「『きなこにすると美味しい』というのは、マーミフェスタの出店者に使ってもらってわかったことです。いろいろな視点を持つ方々に見立ててもらうことでオーヒグー自体の価値を高めていける。それが重要だと思っています。」

「ナッツのような甘みと食感を生かしたい。」地元のパン屋さんが開発したオーヒグーパン

繁多川に本店を構え、那覇で計2店舗を展開するベーカリー「いまいパン」は「繁多川豆取祭(マーミフェスタ)」に参加するお店の一つです。地域の方々が日常的に通う人気のベーカリーですが、オープン当初は苦労したと店主の今井陽介さんは振り返ります。

「お客さんが全然来なかったんです。それで、地域に住む方々のためになることはなんだろう?と考えて、まず地域の食材を使ってみようと思いました」

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小麦や野菜などを徐々に沖縄の食材へと変えていった今井さん。中でも、繁多川にある長堂豆腐店の豆乳を使った「繁多川豆乳パン」は人気を博し、今では看板メニューのひとつとなりました。最小限の材料を使った具やトッピングのないシンプルなパンですが、それでも美味しく感じるのは、作っている人の顔がわかるからではないかと今井さんは話します。

そんなとき、繁多川公民館の南さんから声がかかりました。

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「『オーヒグーという在来大豆があるから、これでパンを作ってみたら?』そんな感じで話をもってきてくれました。食パンに練りこんだり、焼き菓子にしたりといろいろ試したんですが、なかなかしっくりこなくて。ある日、ふと塩ゆでにしてみたらナッツのような食感と甘みが出たので、この風味を生かそうと決めました。」

県産の小麦、塩や黒糖などをブレンドした生地にオーヒグーをアクセントとして加え、約1年かけて商品化。完成したオーヒグーパンは、繁多川豆取祭(マーミフェスタ)などイベント限定の販売ですが、早くもリピーターがいます。

「オーヒグーはあたいぐわ〜プロジェクトの方々が作る心の詰まった食材なので、大事に使おうという思いは強いです。生産者の顔が見える食材を使うと、不思議とパン生地にも温かみが出ます。地域のかたに美味しくて安全で心の通ったパンを食べてもらい、地元で採れた食材を使うことで地域の経済に少しでも貢献できたらいいなと思います。」

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「アスパラガスのような青みがかった香り」がオーヒグーの魅力

宜野湾に店舗を構えるイタリアン「イル・クオーレ」も「繁多川豆取祭(マーミフェスタ)」の出店メンバー。メニューには、宜野座村のトマトに今帰仁村のエリンギ、古宇利島で育てられた自然農法の野菜など沖縄県内各地から選び抜かれた食材の名前が並びます。

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オーナーシェフでソムリエの武博仁さんは毎日、朝から生産者の元へと足を運び、自ら仕入れを行います。

「業者さんに食材を届けてもらうは苦手。沖縄で料理人しているんだから、徹底的に沖縄の生産者や産品に向き合って料理がしたい。」

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そんな武さんの思いは、オーヒグーの価値を高めようと「繁多川豆取祭(マーミフェスタ)」を主催する大城さんの思いと重なりました。

武さんは、大城さんから受け取ったオーヒグーに向き合い、まずは豆乳にしてみたそう。

「体がぽかぽかして香りがよかった。アスパラガスのような青みがかった香りが、他の大豆と全然違うと思いました。」

オーヒグーの魅力を生かした料理を開発するため、武さんはさまざまな大豆加工品を調べたそう。すると、大豆スプレッドや大豆クリームが出回っていることがわかりました。「同じことをするのではなく、新しいものを作りたい」と試行錯誤を重ねた末にできた商品が「島豆乳チーズ風 オイル漬け」です。豆乳に麹を入れて発酵させ、できた豆乳チーズをオリーブオイルとハーブに漬け込んだ、手の込んだ逸品です。

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「飲食業はそのときの流行り廃りに影響されやすい業界で、安さが売りの業態が流行れば、値段だけで判断するお客さんが増えてしまうこともあります。ですが、僕は流行には左右されず、食材の背景にあるストーリーを丁寧に伝えていきたい。オーヒグーは一般的な大豆と比べて3倍ほど高値ですが、唯一無二の味や香り、独自性や希少性、土地の自然や歴史とのつながりが伝われば、ちゃんと価値を感じてもらえるはずなんです。」

武さんの思いが伝わったのか、「島豆乳チーズ風 オイル漬け」の売れ行きは好調とのこと。引き続き、オーヒグーの味と香りを生かした新商品開発に取り組んでいきたいと意気込んでいます。

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繁多川エリアに残る豆腐屋は現在4軒。他の地域と比べれば多いものの、3軒に1軒が豆腐屋だった最盛期から激減しました。そんな現代に息を吹き返したオーヒグーは、地域にとって再び大切な存在となりつつあります。人々がここにしかない食材の価値を共有し、今度こそは絶やさぬようにと、手から手へ、立場や世代を越えて繋いでいくことで、先人たちが積み上げてきた食文化が新たな発展を遂げながら未来へと続いていく。繁多川で湧き起こっている、オーヒグーをめぐる人々の思いや活動の集合体は、食の未来を照らす一筋の光ではないでしょうか。

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