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主題歌がないと私は小説が書けない
おそらくやたら支離滅裂な日記とちょっとしたエッセイを書く人と思われていると思うのだが、私はどちらかというと「小説を書く人」の方に近い。ただ、小説は書き始めから最後の句点を打つまでが長い作業になるので、noteでは寝る前に気が向いたらあまり時間もかけずに書ける日記か、時間をかけても1、2日で書き上がるようなエッセイを書くことにしている。ここに小説をあまり掲載しないのは、個人的には読みにくくてあまり向
もっとみる春、月光の隙間を煌めいて生涯忘れ得ぬ夜
神戸の冬はコンバースで歩ける。
冬とはすなわち曇天であり、雨であり、雪であった。そんな冬しか知らなかった私にとって、神戸に移り住んで初めての新しい冬には驚きを通り越してえも言われぬ喜びがあった。
こんなにぴんと張り詰めた空気、雲ひとつない青空、春夏秋と何も変わらない足元、水浸しがどうして起こり得るだろう! 故郷のコンバースは冬になると封印された、だけど神戸は、冬になってもコンバースを許してくれる!
冬、指先から染み込んで穴を開ける朝
故郷の冬に手袋は要らない。
純白に一滴の黒を落としたような濁った雲がスノウ・ドームのように世界を半球体にする。すべてはこの雲の下でやりとりされて、水も空気も循環し閉じ込められたままどこにも行けない。
自分は雨か、雪か、地上に落ちるまでアイデンティティを決められなかったみぞれや、大掃除をすると家具と家具の間から出てくる巨大な埃みたいな牡丹雪、けたたましく地面を鳴らすあられ、そして、雨。スノウ・ドーム
きみはギフト(Du hast ein Gift.)
デスクに戻り、小ぶりのポーチを足元のカバンに仕舞い、顔を上げるとパソコンの端がぴかぴかと光っていた。椅子に座り直してクリックして、出てきた内容に私は思わず机に頬杖をつく。できるだけ何も思わないようにして、そのままかちかちとクリックを続けた。斜め前からざーっと音がしはじめる。私の机は紙が積み上がりすぎていて、少し顔を上げただけではプリンタの様子がわからない。ざーっという音が一定の長さで何度か区切ら
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