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好きな映画たちのことについて ネタバレしかない
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人生最高を超えてゆけ 『THE FIRST SLAM DUNK』

人生最高を超えてゆけ 『THE FIRST SLAM DUNK』

正直なところこの映画化はどうなのかね? と声をかけると、私の髪を切っていた従妹が手を止めて、うーんと首を傾げた。
「でも、私は一応観に行くつもり。来週」
「そうか。でも確か声優変わったんだったよね」
「そうなんだよ」
「えーじゃあ緑川光聴けないの。残念」
「そこはまあそうだよね。聴きたかったよね正直」
そんな話をしながら私の髪は少しだけ短くなった。帰路、車の中で彼女との会話を反芻していたけれど、正

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2021年に選ぶ映画たち *Wake Up!!!*

2021年に選ぶ映画たち *Wake Up!!!*

今年も今日で終わりです。大雪の中実家に引きこもっています。

今年は色々とボロボロな年だったので、例年では大体60〜70本の映画を観るのですが今数えてみると44本しか新作を観ていませんでした。
これだけしか観てないのにランキング出すのもな〜でも毎年やってることだしやらなかったら気持ち悪いよな〜でも正直めんどくさいよな〜と結局大晦日までズルズルとランキング作りを先延ばししていたのですが、結局作りまし

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菅田将暉の話がしたい

菅田将暉の話がしたい

先日、私のことを「ワイルドスピードを観てくれない人」と評した人から「今こんな企画やってるよ」と情報をいただいた。

ほう?(目が光る)

菅田将暉の視線は彼の姿を見る人を釘付けにする。釘付けにして決して離さない、釘付けにされた人はどうして自分が彼から目が離せないのかわからない。言語化できないところで菅田将暉は人を捕らえて逃さない。捕捉された人はわけがわからないままに、彼の視線の沼へと落ちていく。

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『プロミシング・ヤング・ウーマン』が仕込んだ悲しみ −その復讐は本懐を遂げるのか−

『プロミシング・ヤング・ウーマン』が仕込んだ悲しみ −その復讐は本懐を遂げるのか−

飲み会の席で泥酔した女性に対し男性が同意なく性行為に及ぶ、あるいは故意に泥酔させられた女性が男性複数からのレイプ被害に遭う、という事象、犯罪は日本国内だけを見てみても過去にいくつも存在しているし、国外まで目を向けるならもっと枚挙にいとまがない。そして大衆に可視化された事件の下に、未遂に終わった、あるいは女性が被害を報告しなかった、泣き寝入りした、報告はしたが出来事そのものをもみ消されてしまった無数

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それは太陽に混じった海 −『太陽と月に背いて』再考−

それは太陽に混じった海 −『太陽と月に背いて』再考−

ああ、純潔よ、純潔よ。
俺に純潔の夢を与えたものはこの目覚めの時だ。−精神を通して、人は『神』に至る。
想えば身を裂かれるような不幸。
『不可能』

往年の名訳がついた詩集でも、時間が経てばさらなる文学者の手によってより精緻で新解釈が加えられた新訳版が発表されることがある。同じようにして、長く長く愛し心に秘め続けてきた映画も、何年もの時間を経て改めて観直すとそれまでとは全く異なる解釈を得ることがあ

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2021年上半期に選ぶ映画たち *do your best*

2021年上半期に選ぶ映画たち *do your best*

気づけば2021年も下半期に入っていました。京都では6月の終わりに水無月というお菓子を食べるという素敵な慣習があるそうですが私は関西に10年以上暮らしながら今年初めて知りました。

2021年上半期は度重なる緊急事態宣言の発出やそれに伴う映画館の閉鎖など、映画にとっても過酷な半年でした。個人的にもこの上半期は体調がボロボロで満足に映画を観ている場合ではない状態が続き、映画館の閉鎖も相まってアマプラ

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爆誕する永久機関『るろうに剣心』 -beginning to beginning-

爆誕する永久機関『るろうに剣心』 -beginning to beginning-

2021年6月4日、私が10年間に亘って愛し、情緒もオタク根性も封印されし腐女子精神もとにかく私の人格を形成する何もかもをめちゃくちゃにしていった映画シリーズがついに完結した。

実写版『るろうに剣心』シリーズである。

2012年8月、第1作『るろうに剣心』を友達と観に行ったあの日から、私はのちにシリーズへと進化するこの作品に魂を売り渡している。いや対価ももらっていない、ただただ魂を捧げてしまっ

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しばらくユンのことしか考えられない

しばらくユンのことしか考えられない

シネマート心斎橋にて開催中のカン・ドンウォン特集上映に行ってきた。

私は別にカン氏の激烈なファンというわけでもないしそもそも韓国映画についてはまだまだズブの素人である。

しかしカン氏。2018年公開の『1987、ある闘いの真実』で初めて見て、エッなんか一人すごいかっこいい人おるやんと思ったその人がカン氏だった。

(この予告編にはカン氏出てないですが、これは韓国公開当時もカン氏が出演しているこ

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2020年に選ぶ映画たち -never give up your beautiful life-

2020年に選ぶ映画たち -never give up your beautiful life-

今年はだいたい70本ほどの映画を観ました。

私は基本的に観た映画についてはtwitterで短く感想を書いています。毎年その年々のベスト10を選ぶのが年末の楽しみだったりするのですが、今年は一年を通してずっとぼんやりしていて記憶も曖昧だったりするので例年通りにベスト10を選ぶのは難しいかなと思っていました。が、観た時のぼんやりとした記憶と、filmarksに転載したtwitter感想を頼りに今年も

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lady on fire −『燃ゆる女の肖像』

lady on fire −『燃ゆる女の肖像』

意外に早く戻ってきたなと思われそうですが、昨日公開初日に駆け込んだ映画『燃ゆる女の肖像』があまりにも素晴らしかったのでサイトに書いた感想文をここにも置いておくことにします。



潮騒響く世界の中心で、炎に守られ炎を秘め、炎とともにあった時間だった。

轟く潮騒の轟音に私は目が覚める。鼓膜全てが潮騒のために震えている。潮騒に聴覚を埋め尽くされながら、小舟にひとり、大きな揺れに表情を歪ませている、

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『異端の鳥』  - paint or aware -

『異端の鳥』 - paint or aware -

先週、映画『異端の鳥』(原題"The painted bird")を観に行った。

上映時間が3時間という長さだからではなく、3時間を超える映画なんて別に珍しいものでもなく、長さにではなく、疲れ果てた。目に残る残像と頭の中を渦巻く言語になる前の感情のイメージその大きさ、口の中いっぱいに泥を詰め込まれそれを必死で吐き出しているような感覚とともに私は帰路に着いた。

一週間が経った。ようやく泥は言語に

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答えは1000年の旅をする _『風の谷のナウシカ』から『もののけ姫』へ

答えは1000年の旅をする _『風の谷のナウシカ』から『もののけ姫』へ

6月26日からスタジオジブリ過去作『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』『風の谷のナウシカ』『ゲド戦記』が映画館で上映され、週末動員数の上位を独占している。普段はIMAX上映で使われるような最大スクリーンが割り当てられ、私が観に行ったときは一席ずつ空けての鑑賞であろうと両隣(の隣)には必ず人がいるような、大変な盛況ぶりだった。映画館もさぞ収入面で助かっていることだろう。改めてジブリ過去作は今なお映画館

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花にもなれる、何にでもなれる

花にもなれる、何にでもなれる

誕生日に書いたnoteで映画『RUSH プライドと友情』について書いたところ、友人から「今ちょうど塚口サンサン劇場で上映されてるよ」と全く予想もしていなかった情報をもらい、こんな偶然があるのかといたく驚き、いつぶりかもわからない塚口へ行ってきた。南改札か北改札かそれすらも覚えておらず、しばらく塚口駅の中を右往左往し、けれど駅を出てしまえば30秒で着く塚口サンサン劇場。基本的に音が大きい映画館。

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タイタニックの話がしたい

タイタニックの話がしたい

映画『タイタニック』は人の人生をめちゃくちゃにする。

『タイタニック』に人生をめちゃくちゃにされた人は割とたくさんいる。映画監督グザヴィエ・ドランは自身のインスタグラムでこの映画を「that's where it all began.」と紹介し、銀幕のレオナルド・ディカプリオに夢中になってファンレターまで送り、その記憶を基に20年の時を経て『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』というめちゃくちゃにパ

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