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デザイナーの底力~THEチョコレート~

 先ほど呟いたザ・チョコレートのデザインの有能さについて、もう少し具体的にお話してみたいと思います。

 昨今、コンビニやスーパーでみかけるようになったTHEチョコレート。
 いくつか食べた方も多いのではないでしょうか。

 味と香りのすばらしさは、さすが老舗のチョコレートではあるのですが、私がなによりも評価したいのは社内で大論争を巻き起こしたという、あの独特のパッケージです。


「このパッケージでは中身が分からない。売れるはずがない」
「あなたの年代がターゲットではない」


 THEチョコレートの発売にあたり、難色を示した上層部を押し退けて発売にこぎ着けた開発秘話エピソードはあまりにも有名ですが、この話を初めて耳にしたとき「へぇ」と脳内でボタンを押しました。

 しかしこのエピソードに隠された開発部とデザイナーの意地を理解したのは、つい先日のことです。

 しばらく前、なにげなくツイッターをのぞくと落書きのなされたTHEチョコレートの箱が流れてきました。

 私の記憶が正しければ、何ヶ月も前に、とある方がTHEチョコレートの空き箱に刀剣乱舞のキャラクターを大量に描かれ「こういうコラボしたチョコレートがほしい」という願望をかかれていました。

 火付け役はおそらく、あのあたりだと思うのですが……THEチョコレートの空き箱にイラストを書き込むという行動が、数週間前から爆発的に流行しだしました。

 様々なゲーム、アニメ、あるいはデザイン。

 やがてお絵かきができない方も空き箱を工夫した立体物やアクセサリーを作って撮影した画像も流れ、猫も杓子もTHEチョコレートを買う、という様子を見ていて、私が思ったのは……

『このデザインを生み出したデザイナーは、本物のヒットメーカーであり、有能なデザイナーに他ならない』

 ということでした。

 どんなに落書きをされても損なわれない美しいパッケージ・デザイン。
 小分けの包装に至るまで独創的なカラーとデザインが、消費者にいかなる加工を施されても、それがTHEチョコレートである、ことをネットで示し続けるのです。

 これほど優秀なデザインが、ほかにあるでしょうか。

 美しさや独創的なパッケージは世の中に多く存在します。ですが大抵が一回の消費で終わり、ゴミとして破棄される時代に、多くの人の目に留まり続け、ネットで拡散され、さらに話題性を呼び続ける……購買意欲を促進するデザインの役割としては理想的です。

 ネットでは「落書きはデザイナーに失礼だ」というコメントもでています。確かにデザインを破壊するのは失礼だという考え方もありますが、おそらく例のデザイナーはそのくらいは元々ふまえているものとみています。

 理由はターゲット層です。

 開発秘話を見る限り、THEチョコレートは若者向けに開発されました。あの味で箔押しであの価格に抑えているのも、広い範囲へ手に取ってもらうためでしょう。

 みなさん、学生時代を思い出してください。

 ノートの片隅、歴史の教科書の偉人、黒板やミニメモに……落書きをした覚えはありませんか?

 THEチョコレートはデザイン性を優先した作りであり、もっていてオシャレです。
 流行を気にする学生たちにもウケがいいでしょうし、元々撮影してネットに流したり、シェアしあうことを前提に作られています。
 
 新しいチョコレートを買ってみた。みんなで食べよう。撮影しよう。落書きしたりレジンで飾ってもかわいいかもしれない。千円札ならギリギリ入るから貯金箱やお財布代わりになるかも……

 そうして日常にとけこんでいく。

 友人や知り合いが手に取れば、興味を示すのが日本人。
 日本人が視覚的な影響を受けやすいことは、テレビでダイエットやおいしそうな料理番組の翌日に、放送された品物や食品がスーパーの棚から消え去り、噂のお店には大行列ができることから明らかです。

 THEチョコレートの落書き拡散は、おそらくデザイナーの想定内だったと思うわけですが、ここまで踏まえて、あの絶対に揺らがないデザインを生み出したのなら、これはまさに時代を読んだデザイナーの底力であると感じざるを得ません。

 先ほどひとつ買ってきました。

 私のお気に入りは、フランボワーズと抹茶。
 いつも執筆のお供にしています。

 チョコレートという嗜好品を手軽に、視覚で楽しみ、味覚で楽しみ、消費者にさらなる遊び心を刺激するTHEチョコレートは、本当にすばらしいの一言につきます。

 けれど、どんなに箱を眺めても、まるでデザイナーの名前はありません。社内デザイナーなのかもしれませんが、サインすら残さない徹底した仕事ぶりに一言。


 デザイナーさん、開発者のみなさま。
 あなた方の仕事は、感動するほどにすばらしいです。

 
 今日も香り高いティータイムに乾杯。 

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