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雑記:8月14日、廃墟とクラフトコーラ

どうも、slaughtercultです。近頃ことに陽射しが強く、迂闊に外を出歩くと速攻で蒸し焼きにされそうな灼熱地獄で、熱中症が恐ろしい今日この頃。
皆様は体調などいかがでしょうか。お互い水分補給を欠かさず、巷に蔓延るコロナには全方位アルコール消毒で、上手く凌いでいきたいものです。

私はというと、8月に入ってから碌に執筆も進まずに、気づけば2週間以上もぼんやりモードで時間を浪費していました。いかんな~非常に良くない。
14日のフィールドワークでは僅かに写真も撮りましたが、近頃の緩み切った精神でtwitter投稿すら怠る始末……戒めの意味も込めて記事にしてみます。

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市街地を抜け、田園地帯を抜け、険しい山道に入る。私は友人の転がす車の助手席に同伴し、離合するのも難しい断崖上の細道を進んでいた。左手には急斜面。発電所を通り過ぎ、トンネルを通り過ぎ、空き地で停車する。

4時間のドライブの果てに、私はまたここにやってきた。いや戻ってきたと言うべきか。友人はここに来るのは3度目だと言った。その内の2回、前回と今回の同伴者には私が含まれている。再訪は1年半ぶりのようであった。
一人の探検に慣れている彼でも、単独の探索行を躊躇う山奥の秘境。そこはかつて存在した住人たちの生活の名残。人里離れた人里の成れの果て。


8月14日 1300時 宮崎県西都市 大字『寒川』 県道319号線上


林道で離合した車は、セミカスタムされたジムニーのただ一台。林業関係者だろうかと言葉を交わす。駐車地点に達する直前のY字路、その右手側には一台の黒いミニバンが停まっていた。釣りか山菜取りあたりであろう。

駐車地点に到達すると、驚いたことに先客があった。白いミニバン。まさか廃墟を巡りの奇特な同類か? その想像が間違っていたことは、車を降りて直ぐに分かった。焼けた脂の香り。茂みから崖下に目を凝らせば、人工物の原色が緑の切れ間に覗いた。子供の歓声、犬の鳴き声。レジャー客だ。


去年のフェスで買ったデニムの帽子を、ドッキングしたヘルメットを被る。鍔の左右に剃刀を入れ、ヘルメットの顎紐を跳び出させたお手軽カスタム。
リュックサックを背負い、ソースバガボンドのハイドレーション・パックの給水ホースの取り回しを悩んだ挙句、肩にかけて胸に垂らすことにした。

リュックは軽くないが、2ℓ ほどの水と、日立の大容量モバイルバッテリー、ヘッドライトと予備のリチウム電池まで入っていることを考えれば、さして重いとも思わない。とはいえ、水以外は殆どデッドウェイトであったが。

隣では、友人が装備を身に着けていた。地下足袋を脱いで、スパイク足袋に履き替える。靴底にギラリと光る鋲は実に頼もしい。私は前回使用した物と同じ、ノサックス製の編上ブーツを履いている。いわゆる安全靴だ。

友人がスプレーを取り出し、全身に満遍なく振りかけていた。殺虫スプレーらしかった。私にも少しかけてくれたが、改めて振り返ればもっとしっかりスプレーしてもらうべきだった。山は虫の楽園だ。皆も心して欲しい。


それにしても暑い。暑いというか、熱い。山奥の渓谷であるにも関わらず、どんよりじんめりと噎せ返るような熱気に満ちている。直前までの期待とは裏腹に、ここに来たことを今の時点で後悔していた。寒川の廃村は僅かにも見えない。当然だ。ここから数十分は、山道を登らねばならぬのだから。

友人が1眼レフのバッグをハーネスめいて装着し、装甲強化されたGoPro8をネックバンドを介して首から下げた。私はハイドレーションの給水ホースをちゅうと吸い、肚を括って歩き出した。ともかく、行かねば始まらない。

酷い道だ。自宅近くの集落内を思わせる、荒れ切った舗装道路。麓の周辺はやたらと落ち葉が積もっていて、砂のように足を取られる。半分ほど細道を歩いて、熱さに根負けした私は休憩と同時にヘルメットを外した。顔の血が沸騰しそうなくらい熱い。ここから先は偵察部隊スタイルの帽子オンリーで歩くとしよう。そんなヤワな考えを、私は歩き出して直ぐに後悔した。


山道に、急にガレ場が現れた。土砂崩れだ。とはいえ大した規模ではない。右に左に蛇行して続く、山道の谷筋に沿って、小規模な土砂崩れが幾重にも発生していた。折からの長梅雨で、地盤が崩れたせいだろう。実際、我々は寒川へと行くにあたって、道中の崖崩れを真っ先に心配していたのだ。

舗装路。ガレ場。舗装路。ガレ場。起伏のある道程、猛暑と、前回と比べて道程はハードコアだ。前回がハードモードで今回がベリーハードと言うのがより適切だろう。乗り越えられる程度に盛り上がった土砂と岩が、行楽地のアトラクションめいた雰囲気を味わわせてくれる。転がる岩は、私の拳より一回りも二回りも大きい。こんな物が頭に落ちてきたら、例えヘルメットを被っていても無事な保証は無い。友人は帽子すら被っていなかったが。

蛇行しながら登る坂に、寒川でないどこかの、見覚えのある景色を思った。当時は思い出せなかったが、今なら思い出せる。熊本の古戦場・田原坂だ。一の坂、二の坂、三の坂を上り下りする時の、片側が崖となって見晴らしの良い景色。田原坂は畑地が、寒川は背筋も凍る断崖と谷底の川が見える。


山道を上るにつれて、人の存在を匂わせる遺棄物が増えてきた。何世代前か見当もつかないデザインの、コカ・コーラの空き缶。割れた酒瓶。小学生の時はお世話になった、昔懐かしい鉛筆削り機。俄かに気持ちが高まる。

元は石碑か何かだろうか、坂の途中に置かれた粗削りの大石。これは前にも見た記憶がある。我々は辿り着いたのだ。静かなる廃村・寒川集落へと。

ここで、またしても我々は先客に遭遇した。今度は人間ではなく、野獣だ。角のある鹿。遠目にも体格は堂々としている。我々は集落の入口で対峙して互いに見つめ合う。友人の叫びが戦端を切った。私は咄嗟に、腰から下げた熊鈴を手に取って鳴らした。鹿は坂を攀じ登って立ちどころに消え失せた。

我々は安堵した。ここに来る前から、動物が心配だと言い合っていたのだ。猿か、猪か。鹿に遭うなどと考えてもおらず、度肝を抜かれた。臆病だからいいようなものの、あんな巨体に突進されたら人間はひとたまりもない。


集落の入口。森を貫く一本道に、登り階段が交差する丁字路。前回来た時は梅だか桜だかが咲いていた気がする。今回は真夏なので、花はお預けだ。

友人がカメラのバッグを開き、三脚を取り出して撮影の準備を始めた。最近新調したという、15万円の1眼レフ。私は灼けるような暑さに精魂尽き果て路傍の石を引き寄せて腰かけた。給水ホースを咥え、貪るように水を吸う。

私の目に一見して、村の光景は前回と変わらぬように思えた。友人は崩れた家が増えたと言った。私も周囲に目を凝らし頷いた。1年半の年月と風雨は着実に不可逆的に、人々の営みの抜け殻を、文字通り風化させ続けている。


暫く撮影に集中するから、適当にその辺をブラブラしていて、と言われた。まるでショッピングセンターに家族連れで来た子供だ。しかし私にも幸いな展開であった。私は疲弊し、喫煙したかった。どうしても喫煙したかった。

貴方が正常な神経の持ち主であるなら、廃村で喫煙するのは絶対やめよう。理由は言うまでもない。草や埃、木造家屋の残骸、周囲は可燃物だらけだ。火事を起こせば犯罪だし、廃墟を燃やすのは探検者の一生の恥でもある。

目的地は決まっている。建造物の密集度が最も低い地点だ。それは、集落の階段を登り詰めた先にある、寒川小学校の校庭だ。携帯灰皿は持っていた。ジッポーブランドの、バネ仕掛けでヒンジ蓋を開け閉めする金属製だ。


溶けそうな暑さに耐えて階段を上る。登り切った先、糞の臭い。蠅の動きを注視すると、足元に糞が転がっていた。人や犬の糞によく似ている。やはりこの近辺にも獣が出没するのだ。神経をピリリと尖らせ、先へと進む。

階段から右手に折れて直ぐに、小さなお社がある。これは印象が強く、私も覚えていた。安全祈願と防火祈願を込めてお参りしておく。今回は小学校の上にあるらしい神社が最終目的地なので、無事見つかることも願っておく。

社を右手に通り過ぎ、民家を通り過ぎて再び上り階段。登り切って、民家を横目に右手に折れ、またしても上り階段。見上げる私の目に、寒川小学校の入口が見えた。滲み出る汗を拭い、足元を確かめながら石段を上った。

入り口前、右手に犬の像が二つ。左手に鹿か馬めいた像が二つ。どちらとも子供が作ったと思しき、丸みを帯びた素朴な作風が愛らしい。木陰の校庭に歩み入ると、蒸し暑さが僅かに和らいだような気がした。何と説明すべきか34度が33.5度になったぐらいの、誤差か誤差でないかの境目の温度変化だ。


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小学校の校舎。かなり崩れかけている。本当はこの手前に『寒川小学校』と記された石碑があって、私はそれに腰かけたのだが、その時は余りの暑さに写真を撮る気すら起きなかった。この写真は、暫く休憩してから集落の下に戻り、友人と合流してからもう一度登って来た時に、撮ったものだ。

それにしても、多少マシになったとはいえ、恐ろしく暑い。私は正直言って山の暑さを舐めていた。長ジャージにジーンズ姿で、頭は再びヘルメットと帽子のコンボ、両手は皮手袋、足は安全ブーツ。暑くて当然だが、安全には替えられないので我慢だ。メットを脱ぐと、上気した顔が涼しくなった。

給水ホースから水を吸うと、暫くは喫煙する気も起らず、石碑に腰を据えてじいっと暑さに耐え、身動き一つしなかった。慌てる必要はない。のんびり体力が回復するのを待てば良いのだ。私はふと孤独に駆られ、腰から下げた熊鈴を手に取ると、手慰みに鳴らした。風鈴のように頼りない音。それでもビーコン信号のように断続的に鳴らして、存在を主張している気でいた。


脳が煮えるような暑さの中、唐突に私はその鳥の鳴き声を聞いた。笛の音を思わせる特徴的な、美しい鳴き声を。一度聴いたら忘れないその歌を。私は一度聞いて二度聞いて、熱ダレした脳味噌で我を忘れて聴き入った。

アカショウビンだ。

貴方はアカショウビンの声を聞いたことがあるだろうか。鹿児島人であれば奄美大島の酒造会社・町田酒造の製品、アカショウビンがラベルに描かれた黒糖焼酎『奄美の杜 里の曙』のCMでお馴染みだ。アカショウビンはかなりレアな鳥で、人里で見ることは難しい。私も生で姿を見たことはなく、生で声を聞いたことも数回しかない。姿は見えずとも、声だけで美しい鳥だ。

動画は転載です。撮影者は勿論、私とは一切関係ありません。念のために。

鈴をシャンと打ち鳴らされたように、私は意識を鳴き声に引き寄せられた。

アカショウビンの声に、合いの手を入れるように熊鈴を鳴らす。間を置いて再びアカショウビンが鳴いた。私も熊鈴を鳴らした。蒸し暑い廃村の校庭で鳥の声と鈴の音が交互に響いた。鈴の音が聞こえているのか、それに応えて鳴いているのか、それは流石に私の思い過ごしだろうが。アカショウビンは鳴き声だけを十数回ほど響かせ、やがて鳴くのを止めて気配を消した。

半ば朦朧とした、白昼夢めいた応酬の後、私は尻の割れ目に鋭く刺すような痛みを感じて、急速に現実に意識を引き戻された。蟻に噛まれたのだ。私は慌てて立ち上がると、ソフトパックのピースを一本咥えて、火をつけた。


吸い殻を携帯灰皿に納めると、私はヘルメットを被り直した。音沙汰が無く孤独の恐怖に駆られ、集落の麓まで降りて友人と合流した。何食わぬ様子で撮影を続ける友人に安堵し、降りた階段を再び上がり、友人の撮影を間近で眺めつつ、再び廃校へと戻った。アカショウビンの声は聞こえなかった。

前回より損壊の進んだ廃校をぐるりと一周、撮影する友人に付き添い歩く。校舎の右手、土手に面した細道は足場が悪く、体勢を崩さぬよう難儀する。廃坑の内側にカメラを向け、夢中でシャッターを切る友人。それを手前から眺める私は、友人の頭の後ろに、恐ろしく巨大なガガンボか、蝶か蛾めいた羽虫が舞っている様に無言。撮影の邪魔をするのも何だし、黙っていた。

さて、本題だ。校舎とは反対側、背の低い植物が茂る校庭を、土手の際から迂回して奥まで進む。見上げれば、土を均した道に見えなくもない斜面。

いや……これは道なのか? 心中に疑問がもたげ、行きたくないセンサーが発動するも、友人はこれを上るという。仕方がない。本日の目的地はこれを上った先にあるというのだから、行くしかない。私は観念して後に続いた。


酷い道だ。もはや道ではない。これでは田原坂どころか黄泉比良坂、それも立入禁止区域の、碌に整備されていない獣道だ。正直、いい加減してくれと思った。私は日頃碌に運動なんかしちゃいない事務職のモヤシなんだぜ。

立て看板や標識。林業関係者か電力会社か何かが通ることもあるのだろう。全くご苦労なことだ。仕事とはいえ、こういった場所に日頃から出入りするタフガイを心から尊敬する。木や石が足元に散乱していて、姿勢を保つのがやっとだ。勿論ガードレールなんかないので、一歩間違えば転げ落ちる。

所々に見える、斜面の土手に築かれた、苔むした石垣の残骸が、道の面影を僅かに感じさせる。茂みを見上げど、神社らしき姿は一向に見えない。


先ず行き当たったのは、別の物だった。墓だ。塀に囲われた墓地が一ヶ所。中に墓石の姿は無い。振り向けば、崖の手前に苔むした小さな石仏が二基。友人が1眼レフを抜いて、興味深そうな顔で撮影する。さらに斜面を登ると集落を見下ろす段々畑めいた土地。墓石は無く、荒れるに任せている。

墓地の片隅に、ジェンガめいて整然と積まれた墓石が目に入る。取り敢えず片付けましたという感じだ。麓から集落に至る急斜面の道を思えば、それは運べるわけがないよな、と私は頷いた。人の営みが去った後の物寂しさだ。

給水ホースで水を補給し、気合を入れ直して足を動かす。段々の墓地の横を迂回し、道かどうか判然としない斜面を登り続ける。友人は止せばいいのに崖に近い獣道を上って行く。それなら土手を強行突破した方がまだマシだ。


人が一人通れるかどうかの斜面を、足元を気を付けながら登り、登り切る。左右に開けた、何らかの場所に出た。これは素人目にも道のように見える。林業で生計を立てていた集落らしいので、伐った木を搬出した道だろうか。

道が分からない。右か、左か。取り敢えず左の下り坂を降りて、一旦墓地に回帰する。途中斜面を強引に下り、墓地の塀まで戻って今度は左手を行く。またしても看板だ。どうやら道は続いているらしい。ここにきて私の体力は限界に近づいていた。友人はまだ行きたそうだ。看板は右を示しているが、左にも獣道らしきものがある。右か、左か、どちらに進むか友人は問うた。

私はどちらでも良いと思い、看板の示す右を選んだ。結論から言うとこれは右でも左でも良かったのだが。ともかく、登る。ここから進んで、上に何も見つからなかった時は、残念だが戻ろうと友人は言った。私はもはや愚かな羊のように考えることを止め、先導者に付き従って歩き続けるのみだった。


この道は一等酷かった。土砂崩れ後の谷なのかというぐらい、道は石くれに覆われている。私の安全靴はここでもいい仕事をした。石を蹴飛ばした時も鉄の先芯が守ってくれて痛くない。鳶職用の靴なので安定感が素晴らしい。

石の川めいた道を上っている時、またヒョロロロロ……とあの声が響いた。「鳴いた! アカショウビンだ!」
私は思わず立ち止まり、大手を振り、興奮の余り叫んだ。友人も足を止めて耳を澄ます。ヒョロロロロ……ヒョロロロロ……アカショウビンは三度ばかり鳴いて、直ぐに気配を消してしまった。私が大声でがなったせいか。

歩く、歩く、歩く。石を踏みしだき、倒木を屈んで避け、狭い斜面と必死に格闘する。イエス様だって、ゴルゴタの丘に続く道がこんな斜面だったら、十字架を放り捨ててケツをまいたに違いない。断続的に見える石垣の存在が無ければ、私だって逃げ出したいくらいだ。空気は相変わらずの灼熱地獄。

斜面を二つ三つ越えたところで、何やら開けた場所に出た。ようやく小休止できるな、やれやれと給水ホースを咥えた私に、友人が興奮して言った。

「当たりだ」と。


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開けた一筋の道、左右にそれぞれ伸びる石段。右手を見上げれば、見えるは鳥居。左手には看板と、階段の先には道が続く。友人が1眼レフを取り出し撮影の準備を始める。私は腰を下ろし、給水ホースから水を貪った。


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鳥居だ。根元をモルタルで補修した形跡が見られる。手前の石垣は恐ろしく古い。古いにも関わらず、今までしっかりと姿形を保ってきたのだ。友人は素晴らしい石組みの技巧だ、ロストテクノロジーだと褒め称えた。彼は石に目がないのだ。ここからでは見えないが、鳥居の注連縄は姿形を保ちつつも緑色を呈し、縒り合わせた縄の狭間からは、植物が芽を伸ばしていた。

石段を上がると、境内に手水鉢。その奥に『水路記念碑』と記された石碑。写真を撮り忘れたのは許されたい。かような山の上の集落では、水の調達も一苦労であったろうと往時が偲ばれる。塩などはどうしていたのだろう。


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境内を上れば、今一つの鳥居。廿のような形だ。この形は以前、大隅方面の諏訪神社を探索していた時、曽於市財部町南俣にある『南方神社』で見た。だだっ広い土地に再建された風の社殿ではなく、その隣に広がる鎮守の森の中にひっそりと佇む古い神社、由来不明の祠の前に建っていた物と同系だ。こういう形の鳥居が存在するのか、木材が朽ち果ててこうなったのか、私は良く分からない。写真の神社は、苔むした階段が雰囲気を醸し出している。


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摂末社だろうか。注連縄は比較的に形状を保っている。この神社は名称すら不明で、何の神を祭っているかなど、部外者の我々に分かろうはずもない。


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階段に次ぐ階段。神社まで三段構えとは恐れ入る。拝殿だ。先行した友人は階段を上り、何かを感じたらしく「歓迎されていない」と言って戻り来た。私は歓迎されていようがされていまいが、全くお構いなしの不信心者なのでお参りすることにした。涼しい風に心の余裕を取り戻したこともある。


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拝殿は、存外ちゃんと残っているという印象だ。お賽銭を入れようとしたら財布の中に4円しかなかった。集落内のお社で15円入れて、小銭は4円だけ。お札は持っていたが、流石に1,000円札を入れる気にはならない。私は4円を入れるに留めた。祟るなよ~と思いつつ、熊鈴を鳴らして合掌する。


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側面から見ると、戸板が吹き飛んだりして、やはりそれなりに荒んでいる。拝殿と本殿が分かれているのは中々に芸が細かい。拝殿が見切れているが、神紋が描かれているのが分かると思う。当時は友人と、見たことがある気がするけれど、どこの神社か分からないねぇと話していた。今にして思えば、これは梅の花の紋ではないか。天神様、天満宮、菅原神社の可能性大だ。


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回り込んで左側面。私が撮影している足元あたりの場所に、トップ〇リュのペットボトルがポイ捨てされていて閉口……明らかに近年の物じゃないか。こんなところまで上ってきて、拝殿の目と鼻の先にゴミを捨てる不届き者が居るという事実に戦慄を覚えた。流石に罰当たり過ぎて笑いも出ない。


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神社が立てられようと、人知れず朽ち果てようと、植物はお構いなしに生を謳歌している。それにしても冷静になって考えてみれば、境内に生えている雑草の少ないことは、今でも誰かが整備に訪れている証拠かもしれない。

ところで、この写真を撮った直後、拝殿左側の崖下に『ガサガサッ』と藪を漕ぐ音が響いた。私は猪か猿が出たと驚いて、音のする方向に目を向けた。確かに動物は居た。幸い、猪や猿など狂暴なヤツではなかったが……。


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画像は Wikimedia commons から転載しています。
画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

ヤマドリだ。

私はまた別の意味で心臓が止まった。これまで一目で良いから見てみたいと希った鳥が、それも動物園ではなく山の中で、リアルなワイルドライフが、そこに居る! 緑の油絵にさっと一筋、朱をさしたように赤く美しい鳥が!

絵画のような風景という言葉の意味を、私はその時に理解した。人里離れた山奥の僻地で、私は遂にそれと邂逅した。美味しいと言われる肉だ!(笑)

スマホを取り出して構える間もなく、赤銅色の鳥は茂みの中に消え失せた。駆ける姿は美しいというより、食物を盗んだアライグマが人間を気にしつつぬるっと逃げるような、どこか情けないユーモラスさに溢れていた。

これでいい。これでいいのだ。ヤマドリもキジの仲間であるからして、足で走って逃げるのは当然のことだ。私は役を成さなかったスマホを握りしめ、ハテあれは真にヤマドリであったか、キジの雌ではなかったかと思案した。後にキジの雌を調べ直すと、茶色というか黒っぽい色で違う気はした。

ヤマドリでいいのだと、私は思うことにした。こんな不信心者に、情け深い神様が温情を与えて合わせてくれたのだと、都合よく解釈することにした。私は一気に気分が良くなった。ここまでの疲れは一気に吹き飛んだ。


友人も撮れ高に満足したか、我々は山を下りることにした。文字通り山場を過ぎたというわけだ。それから我々は特段の危険を冒すことなく、神社から小学校へ、集落から麓の道路まで、全く安全に降りて来ることができた。

車で走り出す。行きがけに見たY字路で、釣り帰りだろうか、レジャー客が荷物をまとめて黒いミニバンに積み込んでいた。事件はその先で起こった。道端に停まる、もう一台のミニバン。そこで、川遊びを終えた男の子たちが濡れた服を着替えていたのだ。道のど真ん中で! しかも丁度脱ぐところ!

我々が爆笑したのは言うまでもない。見られた当の本人たちも、間近に居た親たちも大笑いしていた。お互いにとって一生の思い出になっただろう。

勝利の余韻に浸った我々は、優雅な夕餉にありつこうと寄ったラーメン屋が臨時休業していたり、ショッピングセンターのフードコートに寄ると今度は閉店間際で右往左往したり、色々あったがどうにか無事に帰宅できた。

これが8月14日という日に起こった、私と友人にまつわる出来事だ。


まあ……私はそれから、マダニに噛まれたんですけどね! 右の二の腕に!

地元の診療所でワセリン塗って、取ってもらって一安心と思ったら、後日も恐ろしいことに二匹目にも噛まれていたんですねえ! 数日前から右の脇の下にできものが出来ていて、引っ張ると痛みが走ったんですねぇ。

まさかと、思いつつも『いや流石に二匹目は無いだろう』という謎の自信の元に、この記事を書いている今日……正確には19日昼、できものをブチリと千切って洗面台に捨てたら、足が生えてうぞうぞ動いたんですねぇ!

あーもう気持ち悪い! ダニは、虫は、もう本当にやーよ! ていうか……マダニの口吻が、まだ私の右の脇の下の皮膚の中に残ってるのよね?

ぞぞ~ッ……アレルギーとか病気とか、起こらないといいなぁ。アレルギー症状が起こった時は、診療所に軟膏を貰いに来なさいって言われているので何かあったら行こうかしら。二匹目を引き千切ったことは言いませんがね。

というわけで、皆さんは山に行くときは、長袖長ズボンを身に着けていても虫対策はしっかりしていきましょう! あと山帰りした時は風呂に入れ。

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余談。14日同日、かねてよりクラウドファンディングで支援していた物が、返礼品となって届いていた。『伊良コーラ』の瓶詰コーラ 6本セットだ。

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THE DREAMY FLAVOR……期待が膨らむ煽り文句だ。

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カワセミの意匠は中々ユニークだと思う。

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カワセミが水面に飛び込むように型破りだぜ! という謳い文句。

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コカ・ペプシ・伊良と並べるところまで行けるか分かりませんが、是非とも頑張ってほしいものですね。まだ飲んでないので、どんな味か楽しみです。

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明日はまたお仕事なので、このコーラを持って行って飲んでみようと思う。6本セットで4,000円くらい支援したからなァ~、失望させてくれるなよォ!


というわけで、色々雑然と書きましたがこの辺で終わります。

大事なことは何度でも言いますが、皆さん山に行く時はマダニにマジで気をつけようね。ダニはマジで害悪。滅ぼしてやりたいぐらい憎らしい。それとヤマビルも要注意ね。いつのまにかブーツの紐の辺りに忍び込んでたよ。

あ~~~~~~ぶちまけてぇなァ! ナパーム弾とDDT! 火炎放射器!

鹿は許す。鳥も許す。だが虫はマジで許さねえ。


【雑記:8月14日、廃墟とクラフトコーラ  おわり】

From: slaughtercult
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