プログレッシヴ・エアリアル
拡張現実(エア・リアル)が、世界を重層(レイヤ)構造に作り替えた。
俺はカフェのテラス席から、霞んだ空の遠景に輝くランドマークを眺める。
複眼鏡(オプティグラス)越しの両目には、情緒に浸る間もなく夥しい量の広告ポップが寄せては返す。俺は平手を振り、広告を一掃した。
『見つけたよ、亜鈴(アレイ)くん!』
同じ街、違う場所、レイヤの違う世界から、相棒が電子音で俺を呼んだ。
「WD(ワールド・ダウンフォール)の連中か」
俺が呟いた瞬間、周囲の会話が途絶えた。
『特有の足跡(コード)だ、間違いないよ。今は警察と交戦中。連中四人に警察二人。余り持ち応えられないかも……早く助けなきゃ!』
俺は懐のPA……携帯電子秘書(ポータブル・アシスタンス)と、リカバリの直結を確認すると、ピルケースからカプセルを取り出して奥歯に噛んだ。
「待ってろ。直ぐ行く」
マイクロマシン製剤。噛み砕けば視界が七色スペクトルに歪み、音が消えて時間の感覚を失い、薄汚れた街を、広告を、現実感を置き去りに加速した。
俺の精神はネット世界のレイヤ上でPAと同期し、光の速さで街を駆ける。
――――――――――
溢れ返る広告ポップ。無害なアバターを装い、虎視眈々と侵入の機会を狙う悪性プログラム。薄汚れた街の別レイヤに同時進行する電子の世界。
赤、黄、ピンク、紫。特撮ヒーローめいた装甲服のアバターが、制服警官のアバターと激しく交錯し、武装プログラムが電子の火花を散らす。
マシンガン連射が警官の一人を捉え、粒子崩壊させる。
「残るはテメーだけだ、ヒヒヒ!」
悪漢が嘲った次の瞬間。
電子の虚空に、人型の片腕が現出。榴弾砲に変形、発砲した。
『避けてッ!』
生き残りの警官が声に反応し、虎の子の迷彩プログラムで透明化した。
弾殻が爆ぜ、青白い霰のフレシットが飛び出し、榴霰弾が戦場に降り注ぐ。
着弾点の白煙が晴れた頃には、凍結(フリーズ)したアバターたちが樹氷のように並んでいた。
【続く】
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