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妖花『百日紅』乱れ咲き

慶久九年。徳川治世が四百年を迎えた節目の年。神無月のある村。

村人の密告で反逆者の汚名を着せられた家は、恐るべき徳川家武装親衛隊の夜襲を受け、火炎放射器の猛攻を浴び、夜明けを待たず灰燼と帰した。

三日後。反逆者の生き残りを執念深く探し、焼け跡の財物を略奪し尽くした親衛隊たちが引き上げた後、一人生き延びた童子が灰燼に立ち尽くした。

童子は灰燼の中、声を聞いた。蔵だった場所の土を、憑かれた物狂いめいて掘り返す。初めは素手で、後に燃えさしの木片を手にして。掘るほどに声は近づいてきた。自分とそれほど年の変わらぬ、童女のような声だった。

木片で掘り当てた何か。取り出そうと触れた時、指先が切れて血が流れた。

――――――――――

景寿二年。時節は弥生の半ば、年度末で慌ただしく賑わう新大江戸町。

「無礼者ーッ!」

四ツ辻のコンビニ「24-7」から、傾奇者気取りの若人が蹴り出された。

「ま、待ってください! あっしは貴方が徳川家とは知りませんで!」

傾奇者が土下座して弁解する。コンビニの自動ドアを潜り現れた裃スーツの高級武士は、お供の下級武士にコンビニコーヒーを手渡して抜刀する。

「無礼をお許しください! この通りです! どうか命だけは!」
「今更謝っても無駄だ。切捨御免」
「グワーッ!?」

高級武士は仏頂面で傾奇者を断罪。裃スーツの襟に葵紋バッジが輝いた。

「無礼討ちか」

車の行き交う四ツ辻に、黒い着流しの男。凶行を流し目に嘆息し、江戸紫の大風呂敷を握る。包み隠した拵の黒鉄が鈴めいて音を立てた。

「見せかけだけの安い刀じゃ。親父殿の打った刀の足元にも及ばぬ」

男の頭上で、童女の声が嘲った。赤い着物に長髪の童女が、男に肩車されて市中を睥睨していた。周囲の者は、童女の影も声も窺えなかった。

「己の身体で試し切りされて、良く言うもんだ」

裃スーツの高級武士が眉を顰め、抜き身を手に着流しの男に歩み寄る。

「おいお前。何か文句でもあるか」


【続く】

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