野崎くるす

ショートショートを書いてます。森見登美彦と爆笑問題と堺雅人が好きな暇人です。日々、ラジ…

野崎くるす

ショートショートを書いてます。森見登美彦と爆笑問題と堺雅人が好きな暇人です。日々、ラジオを聴いて過ごしています。

最近の記事

ショートショート 『独り歩き』

 馬場晴人は三流ゴシップ雑誌の記者であり、主に芸能ニュースを取材しては、それを記事としていた。  ある日、そんな晴人の元に、読者を名乗る男から一通のタレコミメールが届いた。  ××県の××村にある神社の裏手には、少女の遺体が埋まっている。そしてその遺体というのは、今から二十年前に失踪した少女であり、実は殺されてそこに埋められたのだ、という内容だった。  晴人は他の取材が控えていたが、すぐにメールの送信者に詳しい話を聞きたいと返信した。  そして十四時、晴人は、メールの送

    • ショートショート 『老いてなお』

       老爺はいつものように炬燵にあたり、ネットのニュース番組を見ていた。 『次のニュースです。永森医療研究所は、一昨年行われた人体から老化細胞を除去する実験について、人間にも一定の効果が見られたと発表しました』  そういや、前にそんなニュースもあったけな、と老爺は思い出す。 『老化細胞を除去した人間は、そうではない同い年の人間よりも老化の速度が遅く、腎臓をはじめとした各器官の健康状態も良好であるとのことです』  そしてそのニュースは終わり、アナウンサーは次のニュースに移っ

      • ショートショート 『森へのおつかい』

         オスカーは臆病で心優しき性格で、父はジョージ、母はソフィーの間に生まれ、緑豊かな環境で育てられた。 「母さん、行ってくるよ」 「一人で大丈夫?」 「大丈夫だよ」  オスカーはそう言うと、家を出た。空は快晴、秋の匂いが漂っている。 「それじゃ、行ってくるね」 「気を付けるのよ」  心配そうな顔のソフィー。オスカルは「うん!」とソフィを安心させるように大きく頷き、とことこと歩き出す。 「危ないところには近寄っちゃダメよ!」 「わかってるー!」  オスカーは振り返らず

        • ショートショート 『狭い所がお好き』

           兄は狭い所が好きだった。  ダンボール箱や押し入れの中、自動販売機と壁の隙間などに入っていると安心する性分だった。 「兄ちゃん、またそんなとこにいんのかい?」 「別にいいだろ。誰にも迷惑なんてかけとらん」 「そりゃそうだけど、ちょっと気味が悪いよ」 「うるさい、うるさい。俺はここがいいんだよ」  蓋の閉じられたダンボール箱、その中からくぐもった声が聞こえてくる。  弟は呆れたように息を吐き、気が散るなぁ、と思いながらゲームを続ける。 「お前もやってみるといい。落ち着く

        ショートショート 『独り歩き』

          ショートショート 『鼠一匹』

           人間というものは、窮地に陥った時にこそ、その本性を露わにする生き物だ。  とんだ悪人と思われていた奴も、類を見ない聖人と思われていた 奴も、そうなれば同じ行動を取るかもしれない。 『宇宙局の発表によりますと、落下が予想されている隕石の進路に変わりはなく……』  テレビに映るアナウンサーが、落ち着いた調子で原稿を読み上げている。 『このままいきますと、明日の昼過ぎにも、太平洋に落下するものと考えられます。政府は緊急避難を……』  無駄な話だ。あんな巨大な隕石が落ちてし

          ショートショート 『鼠一匹』

          ショートショート 『ショートショートの神様』

          『人生は一冊の書物に似ている。愚かな者はそれをパラパラとめくっているが、賢い者はそれを念入りに読む。なぜならその者たちは、ただ一度しかそれを読むことが出来ないのを知っているからだ』    これはドイツの小説家、ジャン・パウルが残した名言とされるものだ。  ということは、『人は一生のうちに一冊は本が書ける』ということにもなる。  これもまあ、よく言われることだろう。  いくら自分は脇役のような存在だと思いながら生きていても、人はその人生においては主人公だ。  主人公が自身の

          ショートショート 『ショートショートの神様』

          ショートショート 『全部妄想』

           男は生粋の妄想好きで、その妄想力は類をみないほどに卓越したものだった。  例えば大学での講義中、ぼんやりと外を眺めていると、遠くに巨大な怪獣の歩く姿が見える。  怪獣は山の木々や鉄塔をなぎ倒し、街へと向かう。それに気づいた生徒たちが、次々と悲鳴を上げる。  講義室のあちこちからスマホのアラーム音が鳴りだして、雪崩を打ったように、生徒たちが講義室から飛び出してゆく。  男も避難しようと席を立った瞬間、「君、どうした?」と教壇に立つ教授が言う。 「いや、早く逃げないと」 「は

          ショートショート 『全部妄想』

          ショートショート 『心霊スポット』

           安西は親友の三谷を連れて、県内最恐と名高い心霊スポット『Uホテル』へとやって来ていた。 「おい、本当に大丈夫なのかよ?」 「大丈夫だって」 「でもよ、明かりもないし」  熊のような巨体を縮こまらせて三谷がいう。それを見て、「ほんとビビりだな」と安西は笑う。  目の前にそびえるのは、廃墟と化した『Uホテル』。  バブル期の波に乗ってオープンし、当時は目玉の大きなプールに露天風呂、オーシャンビューにと人気を博した。  けれどそれもバブルが弾け、段々と観光客も減ってゆき、

          ショートショート 『心霊スポット』

          ショートショート 『卒業制作』

           青年には、もはや後がなかった。  大学四回生。希望の会社に就職も決まり、後は卒業論文さえ提出できればという状況だった。  けれど、その肝心の論文が一字も書けていないのだ。  怠惰な訳ではない。むしろ青年は真面目な性格で、三回生の後期から卒業論文の準備に取り掛かるほどだった。  資料を集めては朝方まで読み込んで、パソコンにその概要をまとめていった。  遠くの図書館にも足を運んだ。指導教官の伝手を頼り、何人かの研究者にも話を聞いた。  けれど調べれば調べるほどドツボにはまり

          ショートショート 『卒業制作』

          ショートショート 『突拍子もない第一志望』

           面談で、教え子に『異世界転生したい』と言われた楠木は、どうしたもんかと頭を抱えた。 「狩野、それ、本気で言ってんのか?」 「本気です。俺の頭じゃ大学も無理だし、これといって専門でやりたいこともありませんので」 「なら、就職はどうだ? 何も決まらず卒業よりは、まとまった金だって入ってくるぞ」  楠木の提案にも、狩野は渋い顔で俯き何も言わない。そこに、狩野の意志の固さが見て取れる。 「あのな、そう考えるのは自由だよ。俺だって頭から否定するつもりはない。だがな、その異世界転

          ショートショート 『突拍子もない第一志望』

          ショートショート 『『わ』と『え』の違い』

           人類がアンドロイドを使役するようになってから、かれこれ数十年が経ったいた。  最初は、家事育児を専門とするものから始まった。  そこから飲食店、介護施設、警備員、警察や消防を始めとした公務員と様々な職業へと転用されていった。  そして今や、恋人がアンドロイド、なんてことも珍しくない世の中となっていた。  アンドロイドは、自分で考え行動する。それに、見た目も人間とほぼ変わらない。  人間とアンドロイドを見分けるのには、肩を見ればいい。アンドロイドの右肩には、自身の製造番号が

          ショートショート 『『わ』と『え』の違い』

          ショートショート 『勇者の受難』

           勇者一行は、未知のダンジョンに潜入していた。そして現在、目の前には宝箱がある。開けた場所で、モンスターの姿はない。  勇者一行は真剣な顔で腕を組み、これを開けるか開けないかの激論を闘わせていた。  現在、勇者一行のライフはつきかけている。メンバーのマジックポイントも底をつき、回復呪文も使えない。そして回復アイテムもない。  もしこれが宝箱そっくりのモンスター、ミミックだったら、瞬く間に絶滅必至。目を覚ましたら教会の神父の前だ。 「で、どうしようか?」  勇者が皆に尋ねた

          ショートショート 『勇者の受難』

          ショートショート 『仮面被りの大衆』

           都心の一等地に一軒家、そこには新婚ホヤホヤの仲睦まじい夫婦が住んでいた。  夫は一流企業の商社マンで、妻は国内でも著名なロボット工学の博士であり、大学で教鞭も執っている。  そんな夫婦に、初めての子供ができた。医師から妊娠を告げられた時、夫婦は喜び抱き合った。  妊娠というのは、この時代において世間の関心事であり、夫婦の生活は一変することになる。    〇  妊娠を知らされたその日の夜、夫婦はいつものように夕飯を食べていた。  すると、家のインターホンが鳴った。  夫が

          ショートショート 『仮面被りの大衆』

          ショートショート 『純粋すぎる君』

           彼は頭がすこぶるよかった。そしてずば抜けた妄想力を持っていた。妄想に耽り、気がつけば夕方なんてことも多々あった。  そして今、彼は恋をしていた。それはもう恋煩いのようなもので、食べ物も喉を通らないほどだった。  出逢いは突然だった。学校からの帰り道、いつものようにとぼとぼ歩いていると、電信柱の影に立つ女性を見かけた。  一見すると、女性は彼よりも年上のようだった。黒髪のストレートに切れ長の目、マスクをしており赤いコートを着ていた。  綺麗な人だ……  初心な彼は、女性

          ショートショート 『純粋すぎる君』

          ショートショート 『恋多き男』

           私は今、恋をしている。淡く切ない恋である。彼女を一目見た瞬間に、私は恋に落ちたのだ。  彼女と私の距離は近くて遠い。私の一途な想いを彼女に伝えることはできないし、触れることもすらもできはしない。  朝も昼も夜も、私は彼女への愛の言葉を紡ぎ続ける。そしてその耽美さに酔いしれる。  彼女は人妻だった。白い肌に肉付きのいい体、無邪気な瞳、ほんのりと朱に染まる頬、そのすべてが私の心を掴んでしまう。  けれど彼女は、私の一途な想いなどは知りもしない。豊満な肉体を露わにしては、私の目

          ショートショート 『恋多き男』

          ショートショート 『先見の明がある男』

           一人一票の原則も今は昔、現在の選挙制度は大きく変化しており、年収により、一人一票から最大で一人十票まで投票できるようになっている。  また票売買も自由となっており、個人売買だけでなく、トレードカンパニーを通してオークションにかけることもできた。  この票売買が、昨今、問題となっていた。例えば企業では従業員の票を買い上げて、それを希望の政治家に投票する。もしくは、それを別の誰かに売ることで莫大な利益を得る。  また政治家や秘書、後援会などの関係者が票を売買することは法律によ

          ショートショート 『先見の明がある男』