見出し画像

「織姫の七夕、2024」短編

ヤバい・・・。
彦星はいつものあの場所にもう来ているだろうか。
彼のことだ。忘れる筈がない。
昨年は雨だったけれど
それは地球の上に雲があって星空が見えないだけで私たちには大きな問題ではない。
地球の人は、雨や曇りの日は私たちは逢えない・・と言っているらしいが
宇宙に雨や雲は無いから7月7日はいつも彦星と逢っている。

地球からはロマンチックに思えるらしいが、本当は逢おうと思えば何時でも逢える。
年に一度に限定しているのは、いつも逢っているとマンネリ化するというか・・。
いやいや、そんなことバラしてどうする。
地球では多くの人が 誤解 ロマンを持って見つめてくれている。
7月7日は貴重な日なのだ。

なのに・・
なのに!!
遅刻どころか、夜が明けてしまう。

天の川銀河で今いちばんトレンドというか、大人気のグループ「ぐるぐる」のライヴコンサートだったのよ。
(言い訳にしかならないことは分かっているの。)
やっと抽選で当たったチケットのライヴの日だったのよ・・。

「ぐるぐる」のメンバーの咲星さまのお姿を直に観れると思ったら
頭から七夕の事が吹っ飛んでしまった。
彦星の事も何もかも考えなくなってしまって、抽選に当たった日から今日まで、アタマの中は咲星さまの事でいっぱいだった・・。

え? ライブ?
そりゃあもうあーた!!! 素晴らしかったですわよ❤

ワタクシ、「ぐるぐる」のカラー、銀色の衣装を着て、前から2番目の席で
歌って踊る咲星さまをガン見してました。
目が合ったと思う。
いや、合った!! 
あれ、絶対、咲星さま、ワタクシの方見てくれてた。
多分3回。
グッズ!? もちろん買いましたとも。
「ぐるぐる」メンバー全員のもあったけど・・悩んだけど、咲星さまのを数点・・。
うふふ❤しあわせです。

はっ!!!
彦星は まだ待っているかしら。
LINEが既読にならないのよね。
まさか推し活で来れないなんて言ったら怒るよね。
でももう夜明けになってしまうし、今から行くのもバツが悪いな。
ああ、でも、あと少しの時間だけでも行ってみようか。
叱られても仕方ない。
地球の空を見上げてくれてる方たちの為にも、果たさなければ・・。



え?
あれは誰?
駆け付けた約束のいつもの場所に・・彦星が見知らぬ女と居る。
なに、あの彦星のデレっとした顔!!
ここ数百年、あんな顔、見たこと無いわ。
ええええええ~!(゚д゚)!
そりゃ、私だって悪かったわよ。
彦ちゃんのこと忘れてさ・・推し活してたんだもん。
七夕の日を意図的に忘れてしまうくらい、今日という日をこんな風にしてしまった。

けれど、
あの女は誰?
あそこは私の座る場所よ。
見た感じ良家のお姫様っぽい。
あ・・・
何故、わたし隠れているんだろう。
見つかるとヤバいって思うんだろう。
どうしてこんなに悔しいんだろう。
すっぽかしたのは、私なのに。

彦星にLINEを送ってみる。
「彦ちゃん、遅れてごめんね。急な用事が入ってたの。いま急いで来たんだけど、誰かと居るから、いま遠くで見てたよ。
今日の七夕の逢瀬、あと少ししかないけど、どうすればいいかな。」

彦ちゃん、LINE見て!
お喋りしてないで、LINE見て!
わたし、此処に居るよ。
彦ちゃん、彦ちゃん!!
こんな大切な日に、わたし、推し活で、咲星さまのことばかり考えてた。
でも、本当は違うの。

知ってほしい。

年に1度しか逢えないからこそ、もっと私の話しを聞いてほしいの。
逢えなかった1年間、お互い何を思っていたか、どんな風に過ごしていたか。あなたの話しも聴きたいし、私の話しも聴いてほしい。

でも、毎年逢う度、あなたは自分のことばかり話して、私の話しを聞いているのかいないのか、スマホばかり見て・・
「ふーん・・で、結論は? 結局、何言いたいの?」って、そればかりだから、いつも悲しくて不満だった。
わたしは結論がほしいんじゃないの。
ただ、「そうなんだね」・・って、言って欲しかった。
だから、だから・・
今日は、毎年同じことで哀しい思いをしたくなくて「ぐるぐる」のライヴに行ったんだ・・。


地球から短冊の願い事がメールで届いた。
笹に付けられた短冊の写真が添付してある。
そこにある、たくさんの願い事を読んでいると、
いちまいの写真の中に、幼い文字で書かれてあった言葉が沁みた。

「おりひめさまと、ひこぼしさまが、あえますように。いつまでもなかよしでありますように。」

私は、
その写真ファイルを広げたまま、
彦星の方に向かって、真っ直ぐ歩き出した。











この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?