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大統領の世界みなごろし大作戦

 アメリカの大統領が世界各国のテレビ衛星をジャックして、生放送を始めた。
「国民、ひいては世界の皆様、お話があります」
 中華街にあるラーメン屋、天井角に設えられた小さなテレビの中で、彼はそう言った。
「私は、もうこの世界に耐えられません」
 届いたばかりの大盛りのラーメンから顔を上げ、そりゃそうだろうなと、おれは思った。
「ゆえに私、アメリカ合衆国大統領ハート・ミハルカは、死ぬことにしました」
 勇気ある決断だ。店の外のサイレンが騒がしい。
「この世界は、私むけに作られていないのです」
 おれもそう思う。だれもが苦しんでる。でも我慢してるはずだ。
「私が天国に向かうまえに、しなくてはならないことがあります。私は我慢することに疲れました。皆様の中にも、疲れ果てた方も大勢おられましょう」
 おれもさ。
 大統領はにこりと笑った。
「私はまず、間接的ながら彼らのお手伝いをすることにいたしました。そう、この装置」
 大統領の前の机にはレバーの付いた装置があった。
「私はこれを30分前に倒しました。何が起こったかは、皆様も知っているはずです」
 外からの爆音と同時に道路に面した窓ガラスが飛び散った。
「次にすべきことは、私自らが世界に奉仕することです。まずはロシア。それではまた会いましょう」
大統領は笑みを浮かべ、いつも国民にそうするように手を挙げた。
おれは頼もしいその笑顔に向け拍手をした。
数秒後、テレビは慌てふためくアナウンサーを映し出した。
おれは手始めに、伸びかけのラーメンに取り掛かり始めた。

「ごちそうさま」
 空の丼に料金を添え席を立った。撃ち殺された店主を横目に見て、おれは店を出た。
 
 店の外に出ると、後からスーツの男が追いかけてきた。彼はレバーの付いた装置を持っていた。彼は言った。
「何をしたのかわかっておられるのですか、キジウノフ大統領閣下」
 おれは懐の拳銃を抜き、SPの額めがけて撃った。
(続く)

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